子どもたちの未来と環境を考えるイベント「子ども環境サミット」をレポート!

July 3rd, 2019
PLAY DESIGN LAB
プレイデザインラボ 事務局
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2019年5月15日から17日にかけて、大田区産業プラザPiOにて「こども環境サミット」が開催された。

2年に1度開催される当イベントは、今年で第2回目。「こどもの未来のために、この国だからできること。」をテーマに、幼児教育や保育、デザイン、設計、行政など様々な業界の人々が集い、子どもが健やかに育つための環境について考える機会となった。ひときわ目を引く6点の大型遊具の他に、約500点の遊具や教具、保育用品などが展示される会場では、多くの来場者が興味深く商品を閲覧していた。また、世界的に活躍するデザイナーや建築家、教育者など幅広い分野の専門家を迎える12講演のトークショーも開催された。

今回は、こども環境サミットのイベントの様子とトークショーの内容をレポートする。

 

 

 

遊びを通して自発的な学びを


会場に足を踏み入れた瞬間、目を奪われたのは高さ6メートル以上の大型遊具「PLAY COMMUNICATION」だった。

見ているだけで楽しくなるカラフルな遊具からは、複数の滑り台やネットトンネル、スロープなどが縦横無尽に伸びている。いったいどこからどのように上を目指そうかと、大人でも思わず熱くなってしまいそうだ。

この遊具のコンセプトは「あたま、こころ、からだ育てる」。遊びを通して移動、バランス、操作などの運動能力を伸ばすのと同時に、社会的、知的、精神的、情緒的側面を育むよう設計されている。遊具に大勢の子どもが集まることで、コミュニケーションをとりながらルールを覚え、協調性や競争心を発達させ、自由に遊ぶ創造力を養えるのだ。

近年加速化するグローバル社会化を背景に、2020年からは「自発的な学び」に重点を置いた新教育指導要領が実施される。これからの時代を生き抜く力を身につけるために、遊びの中からアクティブラーニングを自然に行う環境を設けるのは、非常に重要な試みであろう。

 

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PLAYCOMMUNICATION シリーズ最新作。螺旋状の作りが特徴的。

 

 

大型のものだけでなく、小型の遊具も興味深いものが多数あった。

特に目を引いたのが「クリエイティブキューブ」だ。触り心地の良い布製のキューブにマグネットがついており、自由に組み立て遊ぶことができるブロックである。何を作ろうか、どうやって作ろうかを考えるだけでも楽しい気持ちになってくる。会場では、この他大小様々なブロックが展示されており、実際にブロックを使った大型の作品作りも行われていた。想像を超える迫力に、多くの人が足を止めていたようだ。

 

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想像力を膨らませるクリエイティブキューブ


 

 

 

また遊具だけに留まらず、保育施設で使える設備に関しての展示も興味深かった。

中でも感銘を受けたのが、トイレについてだ。「子どもを思い、大人を思いやる。毎日優しさを感じる“かたち”」をコンセプトとしたトイレは、利用者である子どものことを第一に考え、人間工学に基づいて設計された便器は非常に特徴的で、子どもの使いやすい便器の高さや、管理者が掃除しやすい仕掛け作りなど、設計者の思いやりの心を存分に感じることができる。水洗用のノブも、よくある「大・小」のような機能を敢えて持たせず、子どもにもわかりやすく使いやすい、一方向だけの機能としているのも印象的だ。引き算の美学と言っても過言ではない機能美が、その一部分からも大いに感じることができた。

 

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最新のトイレシリーズ『Petit toilette』

 

 

 

太宰府天満宮 宮司の西高辻氏の講演。日本を代表する神社が行う未来への取り組み。






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こども環境サミットでは、ここまで紹介してきた遊具類の展示だけでなく、専門家を迎えて行うトークショーも行われており、そちらも大変な賑わいを見せていた。トークショーの一つである「アートで繋ぐ歴史、太宰府天満宮の取り組み-参拝客1000万人の秘密」では、太宰府天満宮の宮司である西高辻信宏氏が登壇。保育や教育業界以外の立場から、子どもの未来を輝かせる太宰府天満宮で行っているさまざまな先進的取り組みを紹介してくれた。

 

御祭神 菅原道真公から数えて40代目の直系の子孫である西高辻氏は、東京大学卒業後に國學院大學大学院にて神職資格を取得。太宰府天満宮奉職後にハーバード大学の客員研究員として留学した経験を持ち、平成31年(2019)4月、父の跡を継ぎ宮司に就任した。

「学生時代は学問の神様の神社の息子ということで、受験に対するプレッシャーがすごかったですね」

そう笑顔で語る西高辻氏は、現在、太宰府天満宮を「学問の聖地から文化の聖地へ」と改革するために、様々な取り組みを行っている。例えば四季折々の風情をより感じてもらうために、季節に応じておみくじの色を変更し、それを結ぶことで参拝者自身も境内のアートデザインに参加できる仕組みを作り上げた。初めて参拝する人も、過去に参拝したことのある人も、老若男女問わず神社を心のふるさととして感じてもらい、何度も参拝したくなる仕掛けとなっている。その他にも、世界中で活躍しているアーティストの作品を展示するアートプロジェクトを展開。これらの取り組みにより、平成17年(2005)には年間650万人だった参拝者が平成30年(2018)には1,000万人にまで増加したという。

太宰府天満宮幼稚園を運営していることから、子どもたちの心と未来を育むプロジェクトも実施している。日本文化を守り続けることは誰もが重要であると考えているが、日常から距離があるとそれも困難になってしまう。そこで、和菓子の製作体験や日本茶の淹れ方から飲み方までを学ぶ日本茶学習など、子どもの頃から本物の日本文化に触れてもらう機会を提供している。

 

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今回のサミットトークショーのテーマの一つに「地方創生」が挙げられている。待機児童が首都圏では騒がれているが、一方地方では既に少子化が進んでいる。だからこそ、なんとかしたい、解決しようと考える地方の幼保関係者が西高辻氏のトークショーに多く参加されていたという。今、地方が抱える問題を解決するヒントを掴もうと、「100年後、1,000年後を思い描いて未来の種をまく」という西高辻氏の信念を元にした取り組みに、会場を埋め尽くす参加者全員が熱心に耳を傾けていた。

 

 




 

こども環境サミットは、その愛らしいデザインやわくわくするような造形の奥に、強く熱く燃える、子どもたちの未来へ向けたメッセージを感じられるイベントだった。こうした一つひとつの取り組みから、子どもたちの未来がより豊かなものとなり、日本を、そして世界の幸せを手繰り寄せるのかもしれない。