「小さなアイディアが、人と街を変えていく-トラフの小さな都市計画」 トークショーレポート

April 27th, 2019
鈴野 浩一
建築家
2017年5月に行われたこども環境サミットでのトークショーレポートをお届けする第二弾。今回は、トラフ建築設計事務所の鈴野浩一さんを招いたトークショーの様子を紹介したい。

テーマは、「トラフの小さな都市計画」。

 
summit-suzunoトラフ建築設計事務所 代表、鈴野 浩一さん

 

トークショーの始まりに紹介されたのは、2016年の年末に行われたトラフの展覧会の様子だった。まず写真によって展覧会の様子を見た後、会場で走らせていたトラフ号という名の電車の視点で撮影された動画が流される。そこでは、トラフのこれまでの約13年の歩みが順を追って確認出来る仕組みになっていた。

ただ無造作に並べられていたように見えていたものが、一つの視点によって線となって繋がる。ユニークな展示方法は、トラフならではのものだったのだろう、とトークショーを全て聞き終えた後にまた納得できる、そんな造りにもなっている。トークショー内で紹介されたトラフのプロダクトは、どれもユニークで視点の多様さに溢れたものだった。

 

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「トラフ展 インサイド・アウト」 たくさんの模型や素材の中をトラフ号が走り、

トラフの視点が繋がっていく、とてもユニークな展示。 /写真: 阿野太一

 

 

都市とプロダクトを行き来する、トラフの視点


そもそも、「トラフの小さな都市計画」とはどういうものなのか。トラフは建築設計事務所ではあるが、ミラーのような雑貨から、大きな都市計画まで、多岐に渡る実績を残している。これまでの13年、小さなものから大きなものまで、建築的発想で横断しつつ色んなものを作ってきた、と鈴野さんは語った。

本来、建築とは大きな枠組みから考えて行くものだと言う。都市があり、建物があり、そこにインテリアがあり……人やモノといった小さなモノは、最後に考えるものとなる。

しかしトラフは、スケールを下げてモノや家具、身近なコミュニティから発想して都市を捉え直す試みをずっと続けている。これが、「小さな都市計画」というわけだ。

 

まず紹介されたプロジェクト、「TAMPLATE IN CLASKA」は、その「小さな都市計画」に繋がっていくトラフを作るきっかけを与えたものだった。

依頼は、リノベーションホテルの小さな3部屋。小さい部屋だからこそ、そこをどのように活かしていくか。その結果行われたのが、都市から建物、そして部屋を考えていく従来のアプローチではなく、モノからインテリア、そして建築的な壁、といった順に設計していく従来とは逆方法のアプローチだった。

 

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「TAMPLATE IN CLASKA」 家具と建築が一体化した、斬新な提案。 /写真: 阿野太一

 

ホテルの壁には、様々なアイコンがくり抜かれたような形で配置されている。そして、そのくり抜かれた壁に合わせて宿泊客はコートを吊るしたり、カバンを置いたりもできる。さりげなく下の家型のくり抜きから顔を出すアイボも、また可愛らしい。人が持ち込むモノ、ホテルに置かれているモノから考え、その場所にインテリアとしての椅子などを配し、それが建築的な壁として設計される。

このホテルは、最寄り駅から15分程度、バスの車庫にもされているほどの場所にあり、決してアクセスがいいとはいえない。しかし、リノベーションして生まれ変わったホテルには人が集まるようになった。その、点が線になっていくような感覚に、小さなものから発想していくことでも都市を変えられるのでは、と鈴野さんは考えた。そしてそれが今も続く、「小さな都市計画」へと繋がっている。

 

 

トークショーではこれまでにトラフが手がけた様々なプロダクトが次々と紹介されていったが、そこには全て、「人」を大切にするトラフならではの視点が入っていると感じた。

例えば、インテリアから考えられたという住宅は、個性的な形ではあったがその全てに意味があった。4つに突き出したような屋根が、部屋という空間の中ではゆるやかに部屋を4分割する役割を果たす。トップライトの光は、動かない建築だからこそ太陽の光や四季を感じるように、と設けられたものだったという。

 

結婚指輪、という、建築とは遠い依頼に応えたものもあった。そしてそれもまた、違う分野だからこそ出来るアプローチとして建築的に考え、「時間」をテーマにして作られたという。完成したのは、18金にシルバーメッキを施したシンプルな指輪。時が経つごとにシルバーははがれ、その人の過ごした時間を表すゴールドの表情が顔を出す。

 

2~3年で遊ぶ期間が終わってしまうドールハウスは、その後もずっと長く使えるように、閉じると椅子になる「ドールハウスチェア」として設計。これなら子ども達も、自分のお気に入りだったおもちゃと長い時間を共に過ごせるだろう。

 

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「ドールハウスチェア」 閉じると椅子、広げるとドールハウスとして使える。 /写真: 伊藤彰浩

 

トラフの代表的なプロダクトともなっている空気の器は、ワークショップなども頻繁に行われているという。広げ方次第で様々な形になり得、色も角度によって3色の表情を見せるそれを、空間でどのように見せるか。ワークショップを行う際には、その空間に合わせた展示方法やテーマを設定しているという。場所が違えばやり方も異なり、魅せ方も変わってくる。一つのプロダクトにも、トラフのこだわりがはっきりと見える例だった。

 

プロジェクトの紹介は、尚も続いていく。片方から見ると2mの建築スケール、端から見ると50cmの家具スケールとなる「ガリバーテーブル」は、敷地の勾配を活かして作られたもの。子どもたちはテーブルの下で遊べるし、大人も一休みすることが出来る。

 

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「ガリバーテーブル」 一枚の水平なテーブル天板が、さまざまな役割に変わる。 /写真: 吉次史成

 

 

東京都現代美術館からの依頼でつくられた「化かし屋敷」の展示は、脅かされた側が脅かす側になる、というこれも視点を変えた発想が子どもたちにも大好評だったという。

 

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「化かし屋敷」 子どもは、驚かされる側、驚かせる側の両方を体験できる。 /写真: 吉次史成

 

犬という、話を聞けないイレギュラーなクライアントに対応した「ワンモック」は犬好きかつ犬を飼う人間としてぜひ欲しい、と思えるものだったし、街を少し優しく見せる「DŌZO BENCH(どうぞベンチ)」にも、ユーモアと思いやりが溢れていた。

 

どれも細かく紹介したいところだが、ページの都合上、どうしても一部が駆け足となってしまうことをお詫びしたい。気になった方は、ぜひトラフ設計建築事務所を調べてみてほしい。ユニークで、思いやりにあふれて、人へ目を向けたたくさんのプロダクトは、見ているだけでもわくわくと心を躍らせてくれることと思う。

 

 

石巻の復興を支えるプロジェクト


最後に紹介されたのは、「トラフの小さな都市計画」を代表するようなものだった。その名も、「石巻工房」。

宮城県石巻市における2011年東日本大震災での被害は、まだ記憶にも新しいだろう。余談だが、筆者の祖母の出身は石巻市。自分にゆかりのある土地という意味でも、このプロジェクトには個人的にも強い興味を惹かれた。

津波で流された食堂を見に行き、何が出来るだろうか、というところから始まったこの企画。震災前から元々シャッター街だったというその場所で、トラフはまず、シャッターを外して「石巻工房」という看板を掲げた。

そこにはデッキ材などの資材や工具が置かれ、人々はその場所で、壊れた家具を直してもらったり、あるいは自分たちで直したりすることが出来る。

みんなでベンチを作って屋外での映画鑑賞から始まった映画祭は、今も続く人気のイベントだ。

 

「石巻工房」のプロダクトはそこにとどまらず、仮設住宅でも活躍した。工房の人々は仮設に赴き、手伝ってくれたらプレゼントしますよ、という名目で縁側を作った。

仮設に住む人々は、元々いた地区を離れ、慣れない土地での生活を余儀なくされていることも多い。お隣さん、といっても昨日までとの馴染んだお隣さんとは違う、別の地区から同じように仮設に入っている人も多く、中には部屋にこもってしまう人もいる。石巻工房が設置した縁側は、生活を便利にするだけではなくそんな人達のコミュニケーションをも促進した。外に出て、ちょっと腰掛けて、誰かと話す。そんな時間と場所を作ることを、その縁側は叶えたのだ。

どんどん大きくなる石巻工房は、先述のガリバーテーブルの天板を再利用して場所を造り、更に発展していった。そうしてそこには、「人々が石巻に戻ってこれるように、働く場所を作りたい」という、トラフの願いがあった。

 

「石巻工房」は、やがて世界初のDIY家具工房として独立する。現在工房長をしているのは、ボランティアとしてワークショップに来ていた元石巻の寿司屋の大将だという。復興にかける想いは職業も超えて人々に波及し、トラフの願いどおり、石巻工房は人々の集まる場所となった。

人が集まれば、仕事が生まれる。そしてその仕事を維持するため、石巻工房では様々な商品を作っている。気軽だけど、あるとちょっと便利で嬉しいもの。ベランダの手すりにひっかけるだけのテーブル「スカイデッキ」や、連結して使うことの出来る「AAスツール」などがその代表例だ。

 

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「スカイデッキ」 持ち運べて、設置するだけで、場所の意味を変化させてしまう。 /写真: 吉次史成

 

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「AAスツール」 ひとつずつでも、並べてつなげても使える。 /写真: 吉次史成

 

今もどんどん大きくなって石巻を支えている「石巻工房」も、始まりは家具を直すところからだった。家具という小さなモノが、場所を作り、人を呼び、大きな工房となって環境を作っていく。これこそまさに、「トラフの小さな都市計画」であるといえるだろう。

 

2人から始めたトラフも、今ではたくさんの人と繋がってどんどん大きくなっていっている、と最後に鈴野さんは語った。小さなものから、大きなものへ。建築的発想を武器にしたトラフの歩みは、きっとこれからもまだまだ、たくさんの「小さな都市」を作り、人々を豊かにしていくのだろう。そんなことを実感できたトークショーだった。

 

(プレイデザインラボ編集部 ライター/西尾希未)

写真提供:トラフ建築設計事務所

 

 

<おしらせ>

第2回「こども環境サミット」が、2019年5月15日から17日まで開催されます。

このイベントでは、トラフ建築設計事務所がデザインした、新作遊具が展示発表されます。

開催概要はこちらから> こども環境サミットオフィシャルページ