「あそび空間がループする園舎」英明幼稚園 設計者・デザイナーインタビュー

August 31st, 2021
五十嵐 久枝
インテリアデザイナー
神奈川県横浜市の住宅街に建つ「英明幼稚園」新園舎の設計コンセプトは、「あそび空間がループする園舎」。同園の保育方針は、あそびを媒介にして心、体、頭を育て、豊かな人間関係を経験させること、やってみようという意欲を育てること。そのために自由保育も大切にしており、週に一日は自分の好きなプログラムを選び、異年齢が関わる時間を設けている。
新園舎は、その保育方針を支え、子どもたちのあそびを促す仕掛けがふんだんに盛り込まれた。設計を担当した株式会社ジャクエツの内田玄さんと、インテリアデザインを担当したイガラシデザインスタジオの五十嵐久枝さんに、設計・デザインに込めた想いを伺った。

 

英明幼稚園_写真1
シンプルなデザインの建物から、3 つのキューブ状の小部屋が飛び出す新園舎。上下しながら途切れずに建物を大きく一周する動線をもうけた。

 

 

 途切れない動線にちりばめたキューブの小部屋



英明幼稚園の新園舎は、「あそび空間がループする」ことをコンセプトに設計されたと伺いました。


内田:保育方針に沿うように、子どもたちのあそびを邪魔せず内と外も繋げていくような園舎でありたいと考えました。そのため外廊下を一周繋げて途切れない動線をつくり、ネット遊具で上下階を行き来できるようにしています。

 

 

外観はカラフルなBOX が特徴的ですね、目を引きます。


内田:3つのキューブ状の小部屋が、園舎から飛び出すように付けられています。子どもたちがあそびを発展させたり変化させたりするきっかけになります。また、少し高い位置にある旧園舎や園庭からの見え方も意識して、子どもたちの目線が交わりおもしろい関係性を生むことを期待しました。

 

 

どんな目的のスペースなのですか。


内田:当初、宝田理事長は「おままごとの部屋」「絵本の部屋」というように具体的な使い方をイメージされていましたが、柔軟な発想や提案でキューブの魅力をより高めたいと思い、インテリアデザイナーの五十嵐久枝さんにデザインを依頼したところ、用途を決めず、空間そのものをおもしろくしたらどうかと提案がありました。

 

五十嵐:キューブのイメージとして「オープンな秘密基地」というワードが思い浮かびました。内も外も繋げていくような園舎という内田さんの考え方はとても興味深かったです。出たり入ったりループしながら子どもたちは自由に遊ぶ、そんな動きにいきつくとおもしろいかな、と。それで、用途は限定せずに子どもたちが自由に決めるというあり方がいいと思ったのです。身体を使ってあそぶのもいいですし、段差や仕切りを使ってあそびを考えてもいい。それぞれのキューブは統一感あるカラーで彩りました。理事長には「色ひとつとっても、自分たちではこういう選び方はできなかった。やはり専門的なアプローチは違う」と喜んでいただきました。

 

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キューブのひとつは園庭から出入りするもので、外あそびの幅を広げてくれる。

 

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キューブ内はそれぞれ違った色や造形なので、子どもたちは多様な体験ができる。

 

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ガラス面を大きくしたことで、少し高い場所にある旧園舎にいる園児たちと視線が交わる。

 

 

 園舎の記憶や歴史を新しい遊具で表現



木製ブランコなどの木の遊具も印象的ですが、どういう意図でつくられたのですか。


五十嵐:園舎の建て替えに当たり、敷地内にあったログハウス園舎も取り壊されると聞きました。その廃材を再利用できないかと考えたのがきっかけです。太いログ材はまだまだ利用価値がありそうでしたので。それに、ログ材を再利用することで、園の歴史や英明幼稚園らしさを残すことになればいいと思いました。

 

 

再利用の方法については、どういうことを意識しましたか。


五十嵐:ログハウスの園舎は、子どもたちを木に触れさせたいという思いが込められていたと想像し、再利用してつくるものも子どもたちが触れやすい場所にあるべきだと考えました。そこで、ログ材を壁に固定したボルダリングウォールや直接触れる遊具としてブランコやベンチを考えました。また、遊具だけでなく、サインもログ材をスライスカットしてつくることを提案しました。ログ材のもつ木のボリューム感やぬくもり、豊かな素材感を新園舎に盛り込むことができたのは、意義深いことだと思っています。

 

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ログ材の遊具や壁によって園舎に有機的な素材が加わり、あそびの中で木に触れる喜びを子どもたちに与えている。

 

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ログ材を再利用したベンチとブランコで、ピロティが楽しいあそび場に。

 

 

 暮らしの中にあそびを盛り込んだ保育室や遊戯室



保育室など内部空間の特徴はどういったところですか。


内田:求められた機能は、1階に調理室と遊戯室、2階に5歳児の保育室を3部屋でした。それらの機能を満たしながら他の用途にも使えるよう、保育室の間仕切りを可動式にして、1階も2階もワンフロアの大きなホールとして利用できるようにしています。フレキシビリティをもたせることで、園舎の有効活用が可能になりました。

 

 

遊戯室は畳敷きで、「和」を取り入れたデザインが新鮮です。この発想はどこから出てきたのでしょうか。


五十嵐:「暮らしの中から消えつつある和の文化を、子どもたちに体験させたい」という理事長の思いから、遊戯室は畳にしたいという要望を受けたものです。子どもは畳との相性がいいと常々思っていたので実現できてうれしかったです。天井の高さがあまり取れない状況だったのですが、床に座るスタイルなら低い天井の圧迫感が払拭できるという利点もありました。

 

 

デザイン上、工夫されたポイントはどのようなところでしょうか。


五十嵐:畳の床に合わせ、天井には和室の格天井や欄間をイメージした木枠をつけました。展示物を提げたりすることもできます。畳とまわりの床には段差を付けず、雨の日の運動場としての安全性にも配慮しました。畳の汎用性とモダンデザインを混ぜ合わせることで、うまくまとめられたと思っています。

 

 

ランチに「お膳」を使うアイデアも、他にはないものですね。


五十嵐:畳で食事をとるのであれば座卓がいいと思いました。調理室に隣接しているので準備や片付けのお手伝いができたら良いのではと思い、お膳であれば小さいので年長さんは持っていける。それで1人に1つお膳を使うというアイデアを提案しました。子どもが自分で出したり片付けたりするのも、教育の機会になります。お膳はこの遊戯室のためにデザインしたものです。奥の壁面には飾り床の間をつくり、お膳をきれいにしまえるようにしました。お膳を隣の倉庫に移動すれば、床の間として季節ごとの飾り付けをする場所にも使えます。

 

 

園舎全体から、あそび空間がループする感覚、あそびで人を成長させたいという想いを感じました。


内田:最初に構想した「切れ目のないあそび空間」を実現できたと思います。また、理事長はこれまで何度も園舎をつくったご経験があり、建築への深い関心もお持ちでした。その理事長が目指された「オリジナリティ」も打ち出すことができたのではないでしょうか。

 

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裸足でも安全であそびを限定しない畳は、子どもの空間には適した床材。

 

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お膳を前にすると、少しかしこまった雰囲気に。ランチの時間が礼儀作法を身につける好機にもなる。

 

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満3歳児の保育室。様々な形に繋ぐことができるテーブルはオリジナルデザイン。正面の間仕切りは可動式で、開けて遊戯室とあわせれば広いホールとなる。