見て、触って、想像力を膨らませて/アーティスト ロッカクアヤコさんインタビュー

September 3rd, 2024
ロッカク アヤコ
アーティスト
PLAY DESIGN LAB
プレイデザインラボ 事務局
ポルトガル在住のアーティスト・ロッカクアヤコさんとPLAY DESIGN LABがコラボレーションした室内木製ハウス遊具「くものいえ」。アメーバ状に広がる浮遊物のように抽象的な形状に、エネルギーあふれるビビッドな色彩の絵画の世界が広がる。「くものいえ」の制作にかけた思いや子ども時代のあそび、アートと子どもの関わりなどについて、ロッカクアヤコさんにお話を伺った。

 

自分自身が楽しいと思える作品作りを



(C)Ayako Rokkaku


 

―ロッカクアヤコさんの子ども時代についてお聞かせください。

 

ロッカクアヤコ(以下、ロッカク):千葉市出身で、近所が同じ時期に引っ越してきた子どもたちばかりで、その子たちとよく家に集まってあそんでいました。特に印象的だったあそびは、子どもたちで主催して親を招待するお祭りですね。クリスマスや夏休みなど、季節に合わせて友だちとイベントを企画して、紙芝居をストーリーから作ったり、自分たちがコマになるほど大きなボードゲームを作ったり、ちょっとしたお芝居を披露したりと、皆で相談しながら楽しんで取り組んでいました。最初に披露したのは、子どもがおばけになって親を驚かすお化け屋敷でしたね。イベントは子ども同士で自発的に始めたもので、これを通してモノを作る楽しさを知った気がします。

 

―友だち同士でクリエイティブな活動をしていたのですね。特に好きだったあそびは何ですか?

 

ロッカク:小さい頃は一人で絵を描いたり、塗り絵をしたりするのが好きでしたね。両親はアートと関係ない仕事をしているのですが、手作りでカバンを作ったりとモノづくりが好きなタイプで、両親お手製の塗り絵を作ってくれることもありました。市販の塗り絵や両親が作ってくれた塗り絵に色鉛筆で塗り重ねていき、色の表情がどんどん変化していくことを楽しんでいました。

 

―その経験が、アーティストになるきっかけとなったのでしょうか?

 

ロッカク:そうだと思います。小中高で一通り色々勉強するなかで、自分で何かを作っていくことが向いているなと思い始めました。高校2年生以降は美術の授業がなく、もっと絵を描いたり絵画の歴史を学んだりしたいなと思うようになりました。美術と離れた期間があったからこそ、美術への気持ちが強くなっていった気がします。そして、進路を考える上で、子どもの頃に好きだった「絵を描くこと」にもう一度真剣に向き合いたいと考えるようになり、アーティストへの道を歩み始めました。

 

―創作活動で大切にしていることを教えてください。

 

ロッカク:常に自分が楽しいと思える作品を心がけています。描いていて自分自身がワクワクするようなモノを作りたいのです。子どもの時に感じた「描いていて楽しい!」という感動の気持ちを忘れないよう、考え込んでしまったり、見ていて苦しくなってしまったりするのではなく、童心に帰って笑顔になれるような作風を目指していますね。

 

―ロッカクアヤコさんの作品は、段ボールなど様々な素材を使うのが特徴です。どうやって素材を選んでいるのでしょうか?

 

ロッカク:直感的に、「楽しい」「新しいことができるかも」というワクワク感があるかどうかで選んでいます。私は筆など道具を使わず直接手で描くので、素材を触った感触で「これは楽しいかも」と思えば採用しています。立体を作ることもあり、そのきっかけは粘土を指で触って形が変化していく面白さを再確認したことでした。感触とワクワク感は大切にしています。

 

―一番楽しいと感じた素材は何でしたか?

 

ロッカク:段ボールですね。触った時の凹凸の感触、あたたかみ、破った時のピリッという音や感触そういった感覚が好きで、段ボールでの製作をずっと続けてきました。一般的なキャンバスに絵を描く時は、入りが堅苦しくなってしまう感覚もあるのですが、段ボールであれば自由に絵に入っていける感じがあるのです。最近は木の立体に直接絵を描いてみたり、粘土で立体を作ってみたり、羊毛フェルトを使ったりと、素材の幅を広げてチャレンジしています。

 

 

想像力を膨らませながら、自由にあそんで


 

―PLAY DESIGN LABとコラボレーションした室内木製ハウス遊具「くものいえ」は、鮮やかな色彩とかわいらしい様々なモチーフが印象的です。どのような思いで制作したのかお聞かせください。

 

ロッカク:私が通っていた幼稚園の教室にピアノがあったのですが、その裏側に隠れるのが好きでした。狭くて一人だけが入れるような場所で、子どもながらに落ち着くなと感じていたのです。そこで色々と想像を膨らませたり、考えごとをしたりといった時間を過ごしていました。外で元気にみんなと遊ぶのももちろん楽しかったですが、想像力を膨らませられるスペースがあったのが自分にとってはよかったです。「くものいえ」は、そういう場所を作りたいと思い、イメージを膨らませて制作していきました。部屋の中に抽象的な形の場所があれば、想像力を広げる手伝いになるのではと考えて、このような形に仕上げました。

 



 

―「くものいえ」の制作で一番苦労した点を教えてください。

 

ロッカク:テトリスのような立体的な構造物なので、どうすれば360度すべてが世界観で覆い尽くせるか試行錯誤しました。小さい模型を用意して、色の組み合わせなどを何度もテストしました。立体にしてみると、こちらから見るといい感じでも反対側から見ると暗い部分がつながってしまい、印象が変わってしまうということもよくありました。色や形の組み合わせを、どこから見てもいい感じにするのが難しかったです。しかし、色々と試しながら完成を目指す過程はチャレンジングでとても楽しかったです。

 

―「くものいえ」は色がとても鮮やかで、元気の出る色使いになっています。配色のセンスはどのように培ってきたのでしょうか?

 

ロッカク:子どもの頃に塗り絵が好きでしたが、意識してスキルを磨いていたわけではありませんでした。色が積み重なって、様々な色が入っていく感覚に、純粋にテンションが上がっていましたね。彩が増えていくことで世界がキラキラして見えるような、ワクワクする感覚が自分のなかに芽生えていました。子どもの頃は、どうすればもっとワクワクするだろうと考えながら色の組み合わせを試していました。その時に自覚していたわけではないですが、子どもながらに試行錯誤を繰り返していたのだと思います。大人になるにつれて、自分の中に技術や経験が溜まっていき、「こういう時はこうしたい」と考えながら配色を決めることも増えてきました。しかし、描いていくなかで偶然できた配色で、面白いものがあればどんどん採用していきたいという思いで絵を描いていますね。

 

―普段はごっこあそびや外あそびが好きな子どもたちも、「くものいえ」の中では寝転んで絵を見上げながら世界観に入り込んでいる姿が見られます。子どもたちにはどのように遊んでほしいと思っていますか?

 

ロッカク:子どもたちの好きなように、自由に遊んでもらうのが理想です。ごっこあそびをしたり、家に見立てて遊んでもらうのも楽しいと思います。また、抽象的な形や絵から「あれに見える」「これはこうかな」と、その時によって感じる感覚を大切にして想像を膨らませたり、家に帰ってから振り返ってもらったりできると嬉しいですね。雲の形と同じように様々な曲線で構成されているので、触って感触を楽しんでもらったりするのもいいと思います。

 



 

―最後に、アートは子どもたちの成長にどのような影響を与えられると思いますか?

 

ロッカク:アートをきっかけに好きなものをたくさん増やして、子どもたち一人ひとりの好きなものを見つけるきっかけになってほしいと思います。私は小さい頃から絵を描くのが好きで、美術館に行くのも好きでした。学生時代に色々とチャレンジするなかで、やっぱりアートが好きだという思いが強まりました。色々なアートに触れることで「私はこれが好き」「こういう表現をしてみたい」といったように、自分らしさを発見してほしいですね。

 

 

 
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