持続可能な未来に向けたまちづくり / 敦賀市長 米澤光治氏インタビュー

November 19th, 2024
PLAY DESIGN LAB
プレイデザインラボ 事務局
福井県敦賀市は、日本海に面した美しい港町で、古くから交通の要衝として栄えてきた。歴史や文化が息づく一方、新幹線の開業に合わせた新たな地域振興策など、子どもたちが「いつかここに戻り、家族と共に暮らしたい」と思えるような、持続可能な未来に向けたさまざまな取り組みが進められている。地域資源を活かした教育や、若い世代が安心して暮らせる環境整備に力を入れている敦賀市。今回は、米澤敦賀市長に未来を見据えた子育て支援とまちのビジョンをうかがった。

 

 

まちを強くするアイデアとネットワークの力


―2024年3月に敦賀市と株式会社ジャクエツ(PLAY DESIGN LAB運営会社)は包括連携協定を結びました。この協定が掲げる項目として「子育て・教育環境の充実」「定住・移住の促進」「安心なまちづくり」「市民サービスの向上」などを目的にしています。その取り組みの一つとして、今年5月に敦賀市内に通う高校生と一緒に敦賀の魅力をモチーフにしたウェルカムボードを制作しました。

 

米澤市長:高校生の作品は、敦賀をアピールするモチーフばかりで素晴らしかったです。市役所にも飾られていてじっくりと拝見しましたが、鳥居と松を立体的に組み合わせた氣比神宮の再現度も高く、たいへん驚きました。今回使用されたBブロックは、私が子どもの時から家庭にあったもので、よく遊んだ覚えがあります。それが高校生の手に掛かると、アイデア満載のウェルカムボードに姿を変えてしまうのですから、とても感心しました。北陸新幹線敦賀開業に際しての敦賀市の誘客キャッチコピーである「つるが、発見!」をもとに、敦賀を巡って魅力を知って欲しいという思いから、「発見! 探検!」の文字もつくってあって、高校生が地元を意識して発信してくれているのが何よりうれしかったですね。ダイヤモンド・プリンセス号が敦賀に立ち寄った際にも展示され、たいへん好評だったと伺っています。

 





 

 

―今年の敦賀市の大きなトピックスとして、2024年3月には、北陸新幹線が金沢から敦賀まで延伸し、東京~敦賀間が乗り換えなしで結ばれました。新幹線開業を機に、敦賀市としてまちの魅力をどのように発信していこうと考えていますか。

 

米澤市長:敦賀の隠れた魅力だと私が思っていることの一つに、人と人とのネットワークの広がりがあります。港町で、様々な文化交流が生まれた歴史もあってか、敦賀は人と人との距離が適度に近く、人同士のネットワークがあるまちなんです。まちづくりのイベントにおいても、みな顔見知りなんていうこともよくあり、他の自治体の方から驚かれることもあります。良い意味でのコンパクトさを活かしながら、様々なネットワークを通じて人が動くまちが敦賀である、と。そのつながりはこれからも大事にしていきたいですね。

また、県外からの視点で見ると、敦賀へのアクセスが良くなったということにもなりますよね。北陸新幹線でお客さまがいらっしゃることは、その方々をターゲットにした産業ができることにもつながります。シャッター通りと言われた商店街の店のシャッターを開けるだけでも、まちに勢いがつく。商店街の周囲の人たちにも、その勢いの実感が湧いてきます。「まちが良くなったね。暮らしやすくなったね」と、敦賀に住む人に実感してもらえるよう力を入れていきたいですね。ビジネスを起こすことでやりがいが生まれるような、子どもはもちろん、大人も元気になるまちをつくっていきたいです。

 


クルーズ客船ダイヤモンド・プリンセス号の敦賀港寄港に合わせて、観光客をおもてなしするウェルカムボードの展示が行われた。敦賀の歴史と人道支援の軌跡を伝える資料館「人道の港 敦賀ムゼウム」は、海外からの観光客で賑わった。

 

 

自己実現の舞台をつくる


―敦賀市のまちづくりの指針として『第8次敦賀市総合計画』が策定されました。「子育て・教育」「定住・移住」「地域経済」「安心と暮らしやすさ」の4つの政策分野を連携させ、人口減少の課題解決に向けてさまざまなプロジェクトが展開されています。その一つ、「敦賀で育む教育プロジェクト」においては、郷土愛を育む「ふるさと教育」の推進について掲げられています。さきほど、地元高校生とのワークショップのお話もありましたが、「ふるさと教育」の具体的な内容についてお聞かせいただけますか?

 

米澤市長:ふるさと教育の目指すところは二つあります。一つ目は、敦賀市の歴史です。敦賀市の良いところを子どもたちにもっと知ってほしいし、分かっていてほしい。それが敦賀で育ったという誇りにつながると考えます。地域の祭りなど伝統的な行事が一例ですね。二つ目は、可能性に満ちたまちだと感じてもらうことです。過去、現在、そして未来に向けて自己実現ができるまちであると。若い人が活躍できるまち。活躍してもらえるまち。「こんな事ができるんじゃないか」と期待に胸が膨らむようなまちにしたいのです。その活躍の舞台が敦賀にはありますよ、というメッセージを示して、可能性を描いていくのが私たち大人の役割です。ですが、個人的には、若い時は都会に出て経験を積んでほしいとも思っています。いったん外に出ることで、敦賀の良さをいっそう感じてもらえるのではないかと。

 


出典:敦賀市ホームページ   新しい総合計画(第8次敦賀市総合計画)

 

―市長は福井県外の大学へ進学し、県外での勤務も経験して敦賀市に戻ってきました。どのような少年時代を過ごされてきたのでしょうか?

 

米澤市長:私が子どもの頃は、学校の校庭や稲刈り後の田んぼで野球遊びをしたり、冬の山でミニスキーなどを楽しんでいたりしました。近くの神社の広場に遊具があって、そこも遊び場でしたね。夏になれば毎日、川で泳いだり釣りをしたりも。滝ジャンプとか、今の子はしたことないかもしれないですけど。社会人になって、結婚して子どもが生まれると自分の子ども時代を思い出すことが多くなりまして。当時は関西に住んでいたのですが、私の子どもも自然の中で育てられたらという思いもあって敦賀にUターンしたのです。

子どもができて特に感じたのが、敦賀の子育て環境の良さです。何より遊び場へのアクセスがいい。都会住まいだと公園に遊びに行くのも一苦労でしてね。段取りを考えて電車を乗り継いで行く必要があったりする。就学環境がそろっているのも子育て世代にはありがたいです。保育園、幼稚園、小・中・高校と環境が整っていますし、先生方も熱心で教育が充実しています。ただ、子育て環境の充実だけではいけない。敦賀市としては、若い世代に「敦賀市っていいまちだ」と思ってもらえるような事業展開を考えなくてはなりません。

 



 

―第8次敦賀市総合計画には、「楽しく住む敦賀プロジェクト」として、あらゆる世代が余暇を楽しみながら住み続けていくための施設整備や文化活動の支援が挙げられています。

 

米澤市長:市民の余暇の充実につながればと考え、アーバンスポーツ(※)を体験できる施設の整備を検討しています。市民とのワークショップを通して、体験したいアーバンスポーツや、施設に期待すること、懸念事項などの共有・ディスカッションを行っています。若い世代に、都会だけでなく敦賀でも自己実現できる可能性を示すのが私たちの役割なのだと思っています。「楽しく住む敦賀プロジェクト」では、「文化芸術企画支援事業」にも取り組んでいます。敦賀市は野球場や運動公園などのスポーツ環境が整っている一方、アートの分野がまだまだ弱い。歴史的なルーツを伝える場として博物館はあるのですが、創作活動やアート活動をしたいという市民の声を活かせる場がないんです。これからは、文化振興の分野も充実させていきたいですね。

ある統計によると、福井県内の高校3年生の半数以上は卒業後に県外へ進学し、Uターンはそのうちの3割以下といった状況です。敦賀市としてはやはり、地元に戻って働いてほしいというのが率直な願いです。そんな私たちの思いを形にするため、2024年度からホームタウン奨学金制度を始めました。敦賀に住んで就職するなど、一定の要件を満たした場合、奨学金・奨学ローンの返還免除や返済支援を行う制度で、Uターン者だけでなく、Iターンの方も対象となる制度も用意しています。

※アーバンスポーツとは、広いスタジアムやアリーナを必要とせず、街中の広場など小さなスペースで行うことができる競技のこと。スケートボードやインラインスケート、3×3(3人制バスケットボール)など、夏季オリンピックでの日本人選手の活躍も記憶に新しく、注目度が高まっている。

 


2024年3月、敦賀市と株式会社ジャクエツが包括連携協定を締結した。

 

 

あそび心で持続可能なまちづくり


―包括連携協定の実践はまだまだこれからですが、米澤市長がジャクエツに期待することをお聞かせください。

 

米澤市長:ジャクエツさんは敦賀市に本社があり、デザイン性が高い遊具を製造し、子育て世代を見守るユニークな会社だと感じています。「あそびとデザイン」を大切にしているイメージがあります。「敦賀に住んで、こういう企業で働きたい!」と思ってもらえる就職先の候補なのではないでしょうか。そういう意味では定住・移住の促進を担う企業だと思っています。ジャクエツさんのような、世界に通用するコンセプトを掲げて仕事をしている企業が敦賀にあることを市内外の人に知られてほしいですね。例えば、デザインを学んだ若い人たちがいたとして、その方々に「敦賀市に遊びや遊具をテーマにした企業がある」ということが届けば、U・Iターンを考えるきっかけになるのではと思います。デザインと言っても、ジャクエツさんは遊具、教材、制服、公園と幅広い分野を手がけている。守備範囲の広さは活躍の場の広がりにもつながるのではないでしょうか。デザインやアート活動も遊び心がないとできませんし、その遊び心が仕事になるという面白さが敦賀市にあるということも同時に発信していきたいです。

 

 

―最後になりますが、改めて、敦賀市の次世代を担う世代に向けて応援のメッセージをいただけますでしょうか。

 

米澤市長:まずは、「敦賀市を盛り上げてほしい」と伝えたいです。ただ一方で、相反するようですが、「自由にいろんな経験をしてほしい」とも思っています。そういう思いから、今年(2024年)の成人式のあいさつでは、「自由に物事を考えて自由に生きてほしい。自分に制約をかけずに進んでください」と話しました。敦賀に住み続けたいと考える若者たちが社会に出て自立した時、彼ら彼女らに向けて「敦賀っていいよね」というメッセージを届け続けるのが私たちの務めだと思っています。定住・移住をしてもらえるように安心して暮らせるまちをつくり、市民と共に地域経済を回していく―第8次敦賀市総合計画にある「好循環が継続する、発展し続ける地域」という基本理念の実現に向け、子どもの成長とあそびに関わるジャクエツさんのような地元企業とも手を携えていきたいと考えています。