子どもの体力や、運動能力、考える力をのばすためには、乳幼児期から思う存分からだを動かし、十分な栄養と睡眠を取ることが大切である。
では、子どもたちがどのようにからだを動かすことが効果的なのだろうか。そんな問いに挑んだ室内遊具が「シンキング」だ。
「シンキング」は早稲田大学人間科学学術院 教授/医学博士 前橋明先生の監修のもと、考えながら遊ぶことで、子どもたちの強いからだとこころを育てることを目的に開発された室内遊具である。
昼間、シンキングで一生懸命遊べば、おなかがすいて食欲が増し、夜には心地よい疲れとともに、ぐっすり眠ることができる。それによって、運動(あそび)、栄養、睡眠のバランスがとれ、すこやかな成長の基盤となる規則正しい生活リズムも形成されるという。そんなシンキングの魅力を、監修いただいた前橋先生に伺った。
(本文寄稿:早稲田大学人間科学学術院 教授/医学博士 前橋明先生)
シンキングで遊ぶだけで、問題解決能力や空間認知能力を育み、健康な心とからだを育てる
かつて、山や林の木々の中で、遊んでいた「子ども時代の素晴らしいあそび環境を、室内にも安全に準備できた!」という感動が体験できました。シンキングの前に製作された日本の遊具では、室内用組み換えジムがあります。それらががっしりしている反面、重く、安定感はありますが、手軽に組み立てるのに、少々時間を要します。その点、シンキングは、とても軽く、運びやすく、組み立てられ、また、使う幼児にとって、バーは握りやすく、不規則な配列で変化を感じさせてくれるので、子どもたちの興味はとても高いです。
家に帰ってから、今の子どもたちは、いったい、何をして遊んでいるのでしょうか?ここ10年間、変化していない日本の子どもたちのあそびの第1位をお知らせします。幼稚園5歳児は、男児がテレビ・ビデオ、女児はお絵かき、小学校1年になると、男女ともテレビ・ビデオ、女子は、その後、小学生の間、テレビ・ビデオがずっと1位として続きます。男子は、小学校3年生から、テレビゲームが第1位となって、そのまま、中学校期もテレビゲームが第1位として継続していきます。
テレビ・ビデオ視聴やテレビゲームは、家の中で行うからだを動かさない対物的な活動です。午後3~5時は、せっかく体温が高まっているのに、からだを十分に使って遊び込んでいないだけでなく、対人的なかかわりからの学びの機会も逸しています。つまり、小学校から帰っても、幼稚園から帰っても、個別に活動し、人とのつながりを十分にもたないで育っていく子どもたちが、日本では、だんだん増えてきているのです。
そこに、厄介な問題があります。それは、日ごろから、外あそびや運動よりも、テレビ・ビデオ、スマートフォン等のメディア機器の利用が多くなっていくと、活動場所の奥行きや人との距離感を認知する力も未熟となり、空間認知能力が育っていきません。だから、人とぶつかることが多くなるのです。ぶつかって転びそうになっても、日ごろから運動不足で、あごを引けず、保護動作がでずに顔面から転んでしまうのです。やはり、実際の空間の中でのからだ動かしや運動が必要なのです。このままでは、日本の子どもたちの体力は高まらないし、空間の認知能力が育たないし、ぶつかっての事故やケガが多くなります。
ですから、シンキングのように空間の中でからだを自在に動かせる遊具が、幼児には、求められるのです。成長期には、メディアよりも、もっともっと楽しいことがある、人と関わる活動、実際の空間を使った健康・体力づくりに寄与する「からだ動かし」や「運動あそび」の良さを、シンキングを使って、子どもたちに感動体験をもたせていくことができるものと考えています。
シンキングの魅力は、体力だけでなく、スクリーン世代の子どもたちに対して、空間認知能力を育む貴重な環境を提供してくれます。
空間認知能力とは、自分のからだと自己を取り巻く空間について知り、からだと方向、位置関係(上下・左右・前後・高低など)を理解する能力です。空間認知能力を高める一般的な運動は、ケンパや島渡り(前後、左右)、梯子またぎ(高低、浅さ・深さ)、トンネルくぐり(上下、左右、前後)、固定遊具あそび(上下・左右・前後・高低など)等があります。それらの動作体験を、シンキングをいろいろと組み合わせることにより、多様に環境を作り、経験させることができます。
前橋が心配するメディア社会に生きる子どもたちの問題
1 テレビ・ビデオ、スマートフォン、ゲーム機器を利用した静的なあそびが多くなって、心臓や肺臓、全身が強化されずに体力低下を引き起こしています。私は、そのような状況下にいる子どもたちのことを、静的あそび世代と呼んでいます。
2 テレビやビデオのように、スクリーン(平面画面)を凝視するため、活動環境の奥行や位置関係、距離感を認知する力が未熟で、空間認知能力や安全能力が思うように育っていかなくなりました。こういう子どもたちのことを、スクリーン世代と呼んでいます。
3 「運動をさせていると言っても、幼いうちから一つのスポーツに特化して、多様な動きを経験させていないため、基本となる運動スキルがバランスよく身についていない子どもたち(動きの偏り世代)の存在が懸念されます。
幼児期は、脳や神経系の発育が旺盛ですから、そういうところに刺激を与えるような運動をさせてあげることが大切です。すなわち、近年の子どもたちが抱える「体力低下の問題」「空間認知能力や安全能力の弱さ」「動きの偏り」の改善のために、シンキングに期待できることが多いのです。例えば、バランス感覚を養うためには平均台や丸太を渡るあそびや片足立ちが効果的ですし、巧緻性(器用さ)や空間認知能力をつけるには、室内用組み換えジムを上手にくぐり抜けるあそびが良いでしょう。とにかく、シンキングで運動するのが、自然で、理にかなっています。
シンキングで養うことのできる体力
子どもたちは、シンキングで遊びこむこと、運動することによって、体力を高め、様々な運動スキルを獲得させて、運動能力を大きく向上させていきます。また、子どもたちの自由な発想から、あそびの内容を発展させていき、時にはヒヤッとすることがあるかもしれませんが、見守りながらたくさん遊ばせてほしいものです。その経験が、子どもたちを一段と大きく成長させてくれます。子どもたちが、戸外で遊んだり、運動したりすることによって、身につく体力や運動スキル、運動時に育つ能力を紹介します。
(1)筋力(strength)……筋が収縮することによって生じる力のこと、つまり、筋が最大努力によって、どれくらい大きな力を発揮し得るかということで、kgであらわします。
(2)瞬発力(power)……パワーという言葉で用いられ、瞬間的に大きな力を出して運動を起こす能力をいいます。
(3)持久力(endurance)といい、用いられる筋群に負荷のかかった状態で、いかに長時間作業を続けることができるかという筋持久力(muscular endurance)です。
(4)協応性(coordination)……身体の2つ以上の部位の運動を、1つのまとまった運動に融合したりする能力で、複雑な運動を学習する場合に重要な役割を果たします。
(5)平衡性(balance)……バランスという言葉で用いられ、身体の姿勢を保つ能力をいいます。歩いたり、跳んだり、渡ったりする運動の中で、姿勢の安定性を意味する動的平衡性と、静止した状態での安定性を意味する静的平衡性とに区別されます。
(6)敏捷性(agility)……身体をすばやく動かして、方向を転換したり、刺激に対して反応したりする能力をいいます。
(7)巧緻性(skillfulness)……身体を目的に合わせて正確に、すばやく、なめらかに動かす能力であり、いわゆる器用さ、巧みさのことをいいます。
(8)柔軟性(flexibility)……からだの柔らかさのことで、身体をいろいろな方向に曲げたり、伸ばしたりする能力です。この能力が優れていると、運動をスムーズに大きく、美しく行うことができます。
(9)リズム(rhythm)……音、拍子、動き、または、無理のない美しい連続的運動を含む調子のことで、運動の協応や効率に関係します。
(10)スピード(speed)……物体の進行するはやさをいいます。
「テレビ・ビデオ・ゲーム」に負けない「運動あそび」の楽しさとその感動体験を味わわせよう
子どもとメディア環境への対応として、社会では、テレビやビデオ、テレビゲーム等にふれない日を作ろうという「ノーテレビデー」、「ノーテレビチャレンジ」、一定期間、すべての電子映像との接触を断ち、他の何かにチャレンジしようという「アウトメディア」等の活動を通して、子どもの過剰なメディア接触を断とうとする呼びかけもなされています。
しかし、子どもをメディアから遠ざけようと、いろいろな提案をされても、私は、根本的な解決にはなかなかつながっていかない気がしています。なぜかといいますと、子どもたちは正直で、好きなもの、おもしろいものに向かっていくのです。いくら運動あそびは、健康によくて体力づくりにもつながっていくからした方がよいと言っても、おもしろくなければしないのです。心が動かなければ、したくないのです。実際、健康に良いと奨励したいあそびや運動の魅力が、今日、子どもたちに伝えきれていないからでしょう。子どもたちに、運動やあそびを通して、心が動く感動体験をもたせていないのでしょう。これでは、いつまでたっても、テレビ・ビデオの魅力には勝てませんね。シンキングを使うと、子どもたちが、自然に、「ああ、おもしろかった」「また、したい」「もっと、遊ぼうよ」の声が返ってきます。
幼少年期より、テレビやビデオ、ゲーム等に負けない、人と関わる運動の楽しさを、子どもたちに味わわせていかねばなりません。ただ、形だけ多様な運動経験をもたせる指導ではダメなのです。指導の一コマの思い出が、子どもたちの心の中に残る感動体験となるように、指導上の工夫と努力を重ねる必要があります。子どもたちから、「ああ、おもしろかった。もっとしたい」「明日も、また、してほしい」と、感動した反応が戻ってくる指導を心がけたいものです。動きを通して、子どもの心を動かす指導の必要性を痛切に感じています。動きを通して、子どもの心を動かすあそびや運動指導が必要です。「運動、心動、感動」なのです。