思い出を刻む制服と感性に働きかける遊具のデザイン

January 10th, 2024
皆川 明
デザイナー
ミナ ペルホネンと同ブランドのデザイナー皆川明さんと株式会社ジャクエツとのコラボレーションにより、園児用の制服6点と遊具「bird in the nest」、「kivi」、「flower bird」の3点が開発された。制服は生地が二重織りになっていて、ジャケットの柄の円部分には花や蝶が隠れている。記念日などに二重織の表の生地だけを切り取るとモチーフが現れ、思い出の花が次々に咲いて自分だけの制服になるデザイン。記憶を刻んでいく制服が生まれたといえる。また、遊具3点はいずれも自然物をモチーフに考案され、子どもたちの自由な発想や感性に働きかけるよう想いを込めてデザインされている。ミナ ペルホネンのデザイナーとして活躍する皆川さんにお話を伺った。

 

育まれた思い出が残る制服とは


― 今回、子どもたちのための「制服」や「遊具」のデザインの依頼を受けて、どのように感じましたか?また、どのような点に意識してデザインをされましたか?

皆川:制服と遊具は一見違う分野のようでありながら、子どもたちにとっては毎日の生活の中に自然と存在するものです。それを同時に依頼されたことは楽しく、やりがいがありました。制服は私の専門性を活かせると思いましたが、遊具をデザインするのは新しい試みだったので、ゼロから考えるいい機会になりました。 制服はそのときに育まれた思い出がいかに将来にわたって残っていくか、がテーマです。通園する服としての機能性よりも、制服に家族の思い出が形となって現れ残っていくという新たな意味を持たせました。 一方、遊具では、一般的に置かれる環境や概念を見直し、形・色・機能など自分なりのテーマを設けました。空間になじむこと、人工的ではない色を提案したいと考え、「kivi」では海で拾った石を元にデザインしています。元から存在しているものに対して、子どもがどう反応して自由に遊んでいくかということを意識して作りました。

― 服が子どもたちの未来に影響を与えることや、繋がっていくことについて、普段どのような思いで仕事をされているのでしょうか。

皆川:実際に、私が子どもの時に着ていた服や親が着ていた服は、自分の記憶の中に景色としてしっかり残っています。特に、子どもにとって服の好き嫌いは自我から来る嗜好性が育つポイントで、後に服を選ぶ判断力に繋がっていきます。つまり、子どもにとって子ども服が印象的なことはとても重要なんですね。 制服にはさみを入れると中から花や蝶が現れるという仕組みは、視覚や香り、嗅覚などと一緒にそのときの喜びや楽しい記憶に直結していくはずです。そして、成長するにつれてその記憶を何度か思い返すうちに、自分で自分を見守るような存在になると考えます。子どもの頃の思い出が大人になっても制服に刻まれていて、自分を柔らかくプロテクトしてくれるような感覚です。子ども服はもちろん、大人の服に対しても、印象的なことが楽しい記憶として服に宿るといいなという気持ちで仕事をしています。

― 皆川さんのお仕事は記憶や思い出、時間がキーワードで、「せめて100年続くブランド」というメッセージも未来の話です。記憶というと過去の話だと思いますが、未来の人の記憶の話をされていますね。

皆川:人間一人分の持ち時間は限られています。結局、人生で所有できるのは記憶ぐらいのものですから、できるだけ物質が記憶に変換されるようなものづくりをつづけたいと思っています。それに、頭の中で考えていることがたくさんあって、100年では時間が足りません。先に託すというやり方で未来に繋いでいかなければと思っています。

遊具に関して言えば、「無」から何かが始まるという感覚は非常に大切です。その日の記憶が遊具の色と溶けあうなど、そこにある形や色彩、手触りなどに子どもたちが自然と反応していく体験を大事にしてほしいです。「kivi」はFRP(強化プラスチック)なので、経年劣化して色褪せていきますが、それもまたいいですよね。「何十年前のもので、最初に使った人はもうおじいちゃんだよ」と聞いた時に眺める目はまた違うはずです。そうやって自分が共有していない時間にも思いを馳せる。そんな時間を持つことで、未来について考え、過去について学べると思っています。

 

子どもたちのために大人ができること


― 今回、園に販売する版画も手掛けられたとのことですが、版画の製作は初めてだとお聞きしました。作成されてどのように思われましたか?今後の展開などもあれば教えてください。

皆川:版画の製作は本当に初めてでした。通常、リトグラフなどは原画を作るので、職人さんに版木を掘るのを委ねる点が大きく違い、版木を重ねていくことに深みを感じる仕事だと感じました。少し図案がシンプルかと心配しましたが、そのような中に、木肌が見えてくるような良さを表現していただけたのはとても嬉しいことで、改めて木版の奥深さを知りました。昔からの技法を職人さんに継承されているアダチ版画さんの力を借りて、越前和紙を使う特別な環境を整えていただきました。共同作業でいい仕事ができたと思います。その作品を園の方々に見ていただけることは、ジャクエツさんを通してものづくりの素晴らしさが伝わるのではないでしょうか。第二弾の版画の図案はすでに描きはじめていますので、楽しみにしていてください。

 

― 子どもたちの自由な発想力を守り、育てていくために、私たち大人が出来ることは何だとお考えになりますか?

皆川:子どもに限らず、人間は成長して知識を得ていくたびに、その知識をどのように組み合わせて新しい思考となるか、独創性を育てることが大切だと思います。「kivi」のような遊具も遊び方があるわけではなく、子どもが見て感じたまま遊び、関わっていくことが非常に重要です。大人が「これはこうするんだよ」などと、なんでも与えてはいけない。子どもが自由でいることを大人がどのくらい許容するかということは、知識を与えることと同様に大事なことですね。 色に関する認識も同じようなもので、自然から伝わるメッセージを子どもはしっかりと認識できますが、大人が「子どもらしい色」というものを勝手に決めてしまいがちです。「子どもらしい」ということ自体が「大人の思う子どもらしい」であって、実際は「子どもらしい」ことはないんじゃないか。大人が思う色と子どもが感じる色は違って、子どもの目はもっと自由に見えていると思います。

― 皆川さんはどのような子どもでしたか?また、子どもの頃に好きだった遊びや遊具は何でしょうか?それが現在の仕事にどのように影響しているかも教えてください。

皆川:ずっと泥だんごを作っている子どもでした。泥だんごがいかに丸くて精度があって、つやがあって硬いか。子どもの頃すごく夢中になって、ずっと泥だんごを作っていましたね。仕事に影響したかどうかはわかりませんが、素材の観察や、クオリティへのこだわりなどに繋がっているのかもしれません。
絵については全くの独学です。大人になってから描くようになったので、子どもの頃は普通に図画工作の授業で手を動かすだけでした。特に評価されたこともないので、なぜ今、ずっと絵を描いているのかと問われると、自分でも不思議ですね。 絵はほとんど頭の中で完成していて、思った通りの絵が描けないことはありません。自分がこれからやろうとする手の動きも頭に浮かんでいるので、それをなぞっていく感じです。今思えば、学校の美術の先生の視点で評価されなかったのが良かったし、恵まれた環境だったと思います。

 

生き方に影響を受けた北欧の国々


― 長い間、北欧を旅してこられたと伺いました。最後に、北欧、フィンランドについて、大きく影響を受けたことなどがあれば教えてください。

皆川:北欧には19歳で初めて行ってから現在まで、出張も含めて何度も行きました。行くたびに街の変化が、国や社会にどのような意味があるのかを考えます。公共性のあるものは特にそうで、フィンランドの図書館は本当に素晴らしいです。 影響を受けているとしたら、デザインそのものよりも暮らし方や生き方ですね。自分らしい生き方は何か。社会にとってどういうことなのか。それが北欧では基本にあるので、人との関わり方が親切です。相手を思いやる気持ちが根ざしていることに感銘を受けたと同時に、そのようなマインドでデザインすることが重要だと思いました。社会にとってどんな意味があるかを考えてデザインしていくと、結果的に美しいとか、便利という結論にたどり着く。しかも、物を長く持ち続ける点もとても良いと思います。
フィンランドは日本と同じように森が資源ですが、それ以外のエネルギー的な資源は乏しいので、国として人間が大事な資産です。ヘルシンキはデザインキャピタルを掲げていて、デザインだけでなく、デザインを考える力があることが財産だと示しています。つまり、人が豊かに暮らす、思考するということが国の力に直結していく。シンプルで一貫されているわけです。日本もそうだといいですよね。 また、資源が少ないということは一つのデザインを大事に扱うことでもあります。だからこそ、良いデザインをしないと長く使われない。全部理屈が繋がっていきます。そんな点が北欧からの良い影響ではないかと思っています。