園庭の立地に合わせ、遊具とフリースペースの配置、子どもたちが積極的に、かつ、安全に動く動線を考えることで、子どもたちの体力や運動能力の発達をより促すことができる。
早稲田大学人間科学学術院 教授(医学博士)の前橋 明氏にご協力いただき、プレイデザインラボが「体力・運動能力がアップする園庭のデザイン」のポイントをまとめました。
園庭デザインの7つのポイント
1.園児に人気のある総合遊具や大型遊具は、園舎から遠い位置に配置する。
あそびの時間になると園庭に駆け出し、総合遊具や大型遊具を目指す園児たち。大好きな総合遊具や大型遊具を園舎から園庭のできるだけ離れた場所に配置することで、より多くの運動量を確保することができます。
2.園庭の中心にトラックを確保し、かけっこやボール運動などを積極的にできるようにする。
園庭の規模にもよりますが、トラックを設営できるくらいのフリースペースが大切です。子どもたちが自由に駆け回ることができるだけでなく、球技を行って、器用さや協応性をアップさせ、協調性を育みます。フリースペースでのあそびは、運動量を増やし、想像力を伸ばすという点を見逃せません。
3.年齢や発達に応じたサーキットあそびができる動線を考慮する。
複数の遊具を組み合わせて遊び、体力や運動能力を総合的にアップさせるサーキットあそびのできる動線を設計したいです。園舎側から徐々にからだへの負荷の高い遊具を設置することで、特に指導しなくても、自然と子どもたちはサーキットあそびを楽しみます。保育室(教室)の位置も考えながら、年齢別にモデルコースを設定すると、より効果的なサーキットあそびが展開されます。
4.園児に遊ばせたい、体力や運動スキルをつけていく遊具は、園舎の近くに配置し、ふれる機会を増やす。
体力の向上と運動スキルの習得に有効な遊具を園庭に置き、あそびの動線に組み込んでいくと、利用頻度があがっていきます。そして、子どもの運動能力は、自然とアップしていくのです。
5.園庭に余裕があれば、低年齢児と幼児のエリア分けをして有効に使う。
運動能力を伸ばすためには、子どもを思いっきり遊ばせ、4つの基本運動スキルを経験させていく必要があります。反面、3歳未満児と3歳以上児との間には、大きな能力差があり、同じエリアで遊んでいると、接触による事故も起こりうるのです。そのために、園庭に余裕があれば、エリア分けも安全で、かつ有効な方法です。教室の配置、遊具の配置、動線の設計を見直すことで、事故を減らし、安全を確保することができるのです。
6.管理者から見て死角のない園庭にする。
遊具や緑がいっぱいの園庭は、園児にとって楽しいもの。しかし、詰め込みすぎは、危険を招くため、園舎側から見て死角のないように、遊具や緑地を設営する必要があります。子ども同士の接触や遊具での事故を防ぐだけでなく、防犯面からの効果も高めておきたいものです。
7.園舎の年齢別のクラスの配置を考慮して遊具を配置する。
一斉に飛び出す園児たちが、安全で、スムーズに、あそびに入れるように、遊具の位置を検討します。年齢ごとに人気のある小型や中型の遊具、遊んでほしい遊具を、クラスの近くに設置します。その上で動線を考え、サーキットあそびにつなげていくのです。また、とくに人気のある大型遊具は、少し離れたところに設置して、身体活動量を自然に確保する方法も有効です。
園庭の大きさによるモデルケース
7つのポイントをふまえて、園庭の大きさにあわせたモデルケースを紹介します。
大園庭
シンボリックで、かつ、体力づくりに寄与する大型遊具の設置や、年齢や発達に合わせた安全なエリア分け、動線を考慮し、運動量を確保できる園庭づくりが可能になります。管理する範囲が広いため、高度で、魅力的なレイアウトが求められます。
中園庭
園の方針や地域の風土に合わせて、遊具を設営しやすく、まとまりのある園庭デザインが可能です。動線を意識して、単体遊具と総合遊具を効果的に配置すれば、大園庭なみの体力と運動能力アップも狙えます。
小園庭
小さい園庭は、管理する範囲が狭いので、安全な園庭デザインがしやすいです。しかし、遊具の配置をあやまると、子どもたちの動線が重なり、衝突を生じて危険となるので、注意が必要です。通常は、運動量の確保が難しい小園庭でも、前述の7つのポイントを押さえれば、十分な運動量を確保でき、効率のよい園庭に早変わりします。
運動能力を伸ばす園庭のデザインは、新設園だけでなく、現在の園庭を見直すことで、十分実現可能です。運動能力を伸ばすことはもちろん、安全性や美観など、複数の視点から、より機能的で美しい園庭をつくりたいものです。
今後も、プレイデザインラボでは、多様な動きを生み出す園庭の研究を、今回、提唱した考え方をベースに、より発展させていきたいと考えています。