「ごちゃまぜ」の共生社会が日本の未来を切り開く / 雄谷良成さん講演

February 28th, 2023
PLAY DESIGN LAB
プレイデザインラボ 事務局
2021年8月18日―19日に開催された「次世代園経営者セミナー」。園の事業を承継される方や次世代の園を担う方など、経営に携わる方々が経営者としての真髄をつかみ、学びあうための場である。これから、次世代園経営者セミナーの中で興味深い講演をダイジェストでお届けする。今回ご紹介するのは、社会福祉法人佛子園の理事長、雄谷良成氏の講演である。

 

「ごちゃまぜ」が人々のつながりを生み出す




 

普香山蓮昌寺の住職を務める雄谷さん。青年海外協力隊や財団法人フンダシオン・オーサカセンター長、帰国後は北国新聞社、金城大学非常勤講師などを経て、現在は社会福祉法人佛子園の理事長として活動中だ。

 

石川県を拠点とする佛子園のコンセプトは「ごちゃまぜ」。1960年に誕生して以来、障がい者や子ども、高齢者など、さまざまな個性を持った人々が集うコミュニティとして地域に親しまれている。園内には保育園や温泉、レストラン、スポーツジムなど多様な施設が勢ぞろい。高齢者デイサービス利用者がスタッフとともに温泉につかったり、障がい者と地域の人が一緒に運動に励んだり、子どもが佛子園に訪れた人と交流したりと、まさに「ごちゃまぜ」なコミュニティとなっている。

 

佛子園の建物も、自然に交流が生まれて人との「つながり」を感じられる空間を目指してつくられた。施設の中の人と外を歩く人が、自然と目があう高さに設定されており、自然とコミュニケーションが生まれる空間となっている。また、子どもが遊べる中庭に行くためには、建物内の廊下を歩く必要がある。そうすることで、様々な施設利用者と顔をあわせて挨拶を交わし、交流できる場となっているのだ。

 

「これをするにはこの場所でないと…と壁を作るのではなく、一人ひとりが自由に、好きな場所で好きなことを楽しみながら過ごせる『ごちゃまぜ』の空間を目指しました。誰も排除しない場所として、オープンな環境にしています。」(雄谷氏)

 

関係人口(佛子園に訪れる人の数)は年間40万人以上。ソーシャルイノベーターとして、全国の福祉関係者からも注目を集めている。2020年12月に閣議決定された第2期「まち・ひと・しごと創生総合戦略」には、佛子園が推進した「ごちゃまぜの共生社会」というキーワードが盛り込まれた。全国1,784か所の自治体のうち、ごちゃまぜの街を目指しているのは421団体という調査結果もある。少子高齢化や核家族化、新型コロナウイルスなどの影響を受けて、急速に力を失いつつある「地域の力」「人とのつながり」を復活するためにも、「ごちゃまぜ」は重要な方針となるだろう。

 

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 誰も排除しない場と街づくりを目指して


青年海外協力協会(JOCA)の会長でもある雄谷氏は、宮城県岩沼市に多機能型事務所「JOCA東北」を開設した。そこには100人規模の保育園もあり、青年海外協力隊のメンバーや外国人、高齢者、地域住民など様々な人と関わることができる環境となっている。ここでは太鼓の演奏会やフリーマーケットなど、楽しいイベントが毎日のように開催されるが、その企画に職員は関わっていない。地域の人々が自らこの拠点を支えたいという思いで、自らイベントを企画し、実施しているのだ。地域の人々の力によって、子どもたちは年齢や国籍の異なる人たちと世代間交流を楽しんでいる。

 

佛子園のキッチンスタジオでは、子どもや地域の人たちが集まり、食のプロである専門スタッフの指導の下、料理にチャレンジしている。そして、子どもたちが作った料理を、佛子園に訪れた高齢者の人たちに食べてもらう。おいしい料理を心から喜んでくれる高齢者の人たちを見て、子どもたちは嬉しい気持ちや達成感を味わえる上に、高齢者は家族以外の子どもたちと交流してつながりを感じられる。各分野の専門設備が「ごちゃまぜ」になっている佛子園だからこそ実現できる交流だろう。

 

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佛子園の保育園には、20年のキャリアを積むベテラン保育士がいる。彼女は「人生100年時代だから色んなことにチャレンジしたい」と、園内のスポーツジム「ゴッチャ!ウェルネス」のトレーナーに転出した。ジムにやってくる子どもたちの扱いはもちろん一流。保育士としての経験を活かしながらトレーナーとしてのスキルを磨き、積み上げたスキルを活かして将来的に保育士に戻ってくる。そんなキャリアを描けるのも佛子園ならではだ。

 

「ごちゃまぜ」の街づくりにも挑戦している雄谷氏。かつては輪島塗で140億円の売上を誇るほど栄えていたものの、現在は30億円まで縮小し、人口が急減している石川県輪島市に、地域のコミュニティを立ち上げている。空き家となった医院をママカフェにしたり、閉店した割烹を人気ラーメン店にしたり、蔵を改装してコワーキングスペースにしたりと、老若男女楽しめるスポットを作っている。次第に、地域の人だけでなく国内外の観光客も集まるようになった。地域の人たちが自然体で集まるコミュニティでは、人とのつながりを感じながら癒されるということで、輪島市への観光客のリピート率は向上中である。

 

「子どもや高齢者、障がい者などをしっかりサポートするうちに、いつの間にか縦割りの福祉になってしまった背景があります。従来あったはずの地域のごちゃまぜ性が薄れてしまっている現状だからこそ、横軸や斜め軸でつなぎ、誰も排除しない街にしたいと考えました。」(雄谷氏)

 

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ごちゃまぜの共生社会で幸せが伝播する


社会学者のニコラス・A. クリスタキスによると、幸せは伝播するそうだ。1マイルの範囲で調査した結果、誰かが「幸せ」と言うと、近くにいる人のうち15%が幸せな気持ちになる。その人たちが誰かに関わると、10%ほどが幸せになる。さらに誰かに関わると、6%ほどが幸せになることが分かったという。つまり、自分が「幸せだ」と言うと、全く知らない四世代先の人も幸せになるというのだ。雄谷氏曰く、これは仏教用語で「因果応報」という。自分の行いが全く知らない人を介して、自分に戻ってくるという現象だ。

 

雄谷氏は厚労省のデータも紹介した。ダウン症の方々に「幸せですか?」と質問したところ、92%が「幸せだ」と回答したというデータだ。日本人は約60%という結果であるのに対して、ダウン症の方々は非常に幸福度が高い存在といえるだろう。ダウン症の方は障がい者施設に入所するケースも多いが、これは社会にとって大損だと雄谷氏はいう。幸福度の高い人たちが地域にいれば、その幸せが伝播して、自分たちも幸せになれるはずだからだ。

 

海外では人との関係性が、心と身体に大きく影響することが注目されている。服薬や手術に次ぐ第三の医療として研究されているのだ。「ごちゃまぜ」はまさしく第三の医療の場となる。宮城県で調査したデータによると、生きがいのある人は生きがいがない人に比べて、7年後の生存率が3倍伸びるという結果となった。日本は家と職場が居場所と考えられるが、例えばフランスならカフェ、イギリスならパブといったように、海外ではサードプレイスも大切にされている。深く交流する人もいれば、ちょっとした挨拶を交わすだけの人もいる。いろんな人と関わり、さりげなくつながれる佛子園のようなサードプレイスがあれば、人々の幸福や健康にも良い影響を与えるのだろう。

 

「子どもたちは色んな人を見ながら、いろんな経験を積んで育っていきます。大人も、人とのつながりで幸せや健康を実感できるようになります。今後は、年齢や障がいに関わらず、誰もが居心地よく過ごせる“ごちゃまぜの場所”の存在がより求められていくことでしょう。少子高齢化、人口急減といった社会的課題に向き合う日本が、世界に先駆けて“ごちゃまぜ”の力でうまく乗り越え、世界中へ良い知見を与えられる存在になってほしいです」(雄谷氏)

 

豊富な実例と経験談を元に、地域のあり方や目指すべき姿を示してくれた雄谷氏。子どもたちはもちろん、障がい者や大人、高齢者にとっても重要になる「ごちゃまぜ」な社会の大切さに気づかされた講演であった。