"あそびで体の使い方が巧みになる" 遊具の開発/元陸上選手 為末 大さんインタビュー

November 29th, 2022
為末 大
Deportare Partners代表 / 元陸上選手
元陸上選手・為末 大氏とのコラボレーションにより、遊具「Kepler」と「Kepler Tower」の2点が開発された。「Kepler Tower」はすでに納入され、実際に子どもたちに利用されている。「あそびで体の使い方が巧みになる」をコンセプトにつくられたこの遊具とはいったいどのようにして生まれてきたのか。「Kepler」と「Kepler Tower」の製作を監修した元陸上選手・為末 大氏にお話を伺った。

 

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為末氏 監修遊具:Kepler Tower


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為末氏 監修遊具:Kepler


 

 

「体の使い方が巧み」とは?


― 「Kepler」と「Kepler Tower」のコンセプトは「あそびで体の使い方が巧みになる」ということですが、なぜ、このようなテーマにされたのでしょうか。


為末:アスリートは「運動神経が良い」とよく言われますが、実は足が遅い水泳選手がいたり、ボールが投げられないレスリングの選手がいたりします。オリンピックの選手だからといってスポーツ全般の能力が優れているわけではなく、選手はそれぞれの世界で、得意な領域に特化して才能を磨いていくわけです。そこで、運動神経の正体は何かと考えたときに、それは「巧みさ」だと考えたんです。巧みさとは何にでもそれなりに適応して、その都度やり方をみつけられる力のことです。巧みさがあれば、自分の体を上手に使いながらあらゆるものを感じ取り、対応していくことができます。グラグラしたところに立ってみて、「あ、このままじゃ右に倒れそう」と感じ取ったら、パッと態勢を修正する。それが、「体の使い方が巧みになる」ということなんですね。

 

― 遊具全体を見ると不安定な形で、左右非対称です。あまり安定した場所がないような遊具に仕上がっていますね?


オリンピック選手のような発達した肉体をもっていなくても、普通の人が転びそうになってパッと足が出ることが、実はすごいことなんです。これは、子どもの頃に自然の中のアンバランスな場所で遊んでいた経験が基礎になるのではないかと思っています。僕が子どもの頃に得意だったのが川の中にある石をポッポッと飛び移っていくあそびなんです。そのスピードがすごく速かったんですよね。それは、見た目で次の石の安定性を確かめて選択する、その石に足をついた瞬間にどの程度の安定性かっていうのを瞬時に察知して、それによって膝とか足首でバランスを取りながら、その次にジャンプして行くって繰り返しです。それがハードル競技で、風や競技場のコンディションにあわせて歩幅を調整する感じにすごく似てるんですよ。
「Kepler」では自然でのあそびと同じように、体を巧みに使ったあそびが積み重ねていくことができます。そうすることで強くしなやかな体幹をつくり、軸をつくっていけます。すると、さまざまな方向に体を回転させることができ、自然と全身を使って弾めるようになるんです。

 

想定以上のあそび方をする子どもたち


― 実際に「Kepler Tower」で遊んでいるお子さんたちを見ていただきましたが、何か新しい発見があったでしょうか?


為末:子どもたちは私たちの想定以上に遊んでくれたと思います。遊具の下の部分は想像通りでしたが、目を見張ったのは上の部分です。フロアで子どもたちが上って遊んでいたので「これはすごい!こんなにおもしろがるんだ!」と驚きました。意外だったのは、ちょっと難しいかなと予測していたS字カーブをみんなが上っていったことです。しかも、上れなかった子がどんどん上れるようになっていくんですよね。新しい動きへのチャレンジでも、子どもはこちらが思った以上にできてしまうのだと感心しました。

 

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― Kepler Towerは内側と外側で二重になっていますが、二重構造にはどういう意味があるのでしょうか?


為末:あそびがワンパターンではなくなります。二重になっていると複雑性が増すからです。大人は「この形にすると子どもにはこういう動きが見られそう」と想定しますが、子どもを見ていると、想像を超えたいろいろな動き方があって興味深かったです。外を走って回っている子を内側に座ってじっと見ている子もいました。陸上競技場で走っている選手の真ん中に座って遊ぶなんてありえませんから、なんとも不思議な光景でしたが、遊具のなかに「遊ぶ」と「休む」が共存していたのは新鮮でした。

 

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「Kepler」に込めた想い


― 「Kepler」という名前の由来について教えてください。


為末:ドイツの天文学者ヨハネス・ケプラーから来ています。「ケプラーの法則」という、惑星の運動に関する法則を打ち立てた人です。僕自身がそうなんですけど、体験をしてその後理論で理解するって言う順番だったんですね。だから物理学を学校で習う前、子どもの頃に、どういう風に地面を踏んだら遠くまで飛べるんだろうってずっと考えていて、あそびながら自分なりに回答を出していく、その後学校で、作用と反作用とか加速について学んで、理論が体系づけられていくことになるんです。「学び」が順番で回っていって欲しいという思いがあったんですね。この遊具で、子どもたちがいろいろなことを体験し、刺激を得て、新しい学びのヒントを見つけてほしいという願いを込めました。

 

― 「Kepler」には子どもたちの新しい扉を開けるヒントがたくさんありそうです。


為末:陸上100メートルで言えば、日本人で10秒ゼロが出たのって1998年なんですよ。誰もがすぐに9秒台が出るって確信したんですね。でも、そこから20年間結局9秒台が出なかったんです。それで2017年桐生祥秀選手がついに9秒台を出したんですけど、そしたらまたたく間に3人が9秒台を出したんですよ。誰かが記録を破ったら急にみんなできるようになる。25年間陸上競技をやって今確信してるのは、結局人間の限界を決めるのは思い込みなんじゃないかってことです。僕が今やっている活動のほとんどがその「思い込みを外して限界を超えること」を目指しています。義足を作って障がいを持ってる人が健常者より速く走れるようにしようとか、思い込みの蓋みたいなものを1つ1つ外していくことに挑戦しています。子どもたちもこの遊具でのあそびの中から自分の思考も、自分の身体も新しい扉を開けていってもらえたらなと思っています。

 

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