紀の川市民公園「野あそびの丘」


「野山であそぶ21世紀型複合遊具」


PLAY DESIGN LABのフェロー、大阪芸術大学 若生謙二教授 との共同設計による「野あそびの丘」は紀の川市の自然豊かな景色を公園内に取り込み、周囲のランドスケープと遊具を融合させた新しいコンセプトのあそび場です。公園の入り口からは目の前に大小の起伏が現れ、奥にある龍門山を借景とした自然豊かな景色を楽しむことができます。地面の起伏は遊具と接合するように配することで公園全体を大きな自然の遊具になるよう設計。また年齢に合わせて楽しむことができるように児童と幼児のエリアを区分し、それぞれの年齢に合わせた遊具を配置しています。隣接された新設のトイレも落ち着いた色合いで周囲環境に馴染むだけではなく、内装に公園で採れる木の実やシロツメクサを使ったあそび方を掲示し、自然あそび場に相応しいデザインに。周囲の山や川と調和し、公園全体が地域の豊かな自然を感じるアクティブな空間となっています。


WAKO Kenji
Professor of Osaka University of Arts

動物園デザイナーとして多くの動物園の展示にとりくむ。2020年に完成した上野動物園「パンダのもり」は、2022年度日本造園学会賞を受賞。子どもの遊び場として人工的な複合遊具にかわり、起伏を活用して身体を動かす自然遊び場の必要性を提唱し、公園やこども園など、その実現に向けて取り組んでいる。最新作は、和歌山県紀の川市民公園「野あそびの丘」で、自然遊び場では地域の自然景観との一体化をめざしている。

Images

Production story

BACKGROUND

当時紀の川市には子どもたちがあそべる公園がなく、市民アンケートの自由記述欄に毎年必ず公園の要望が書かれていました。これを受け、2020年に紀の川のほとりにあった「芝生広場」の整備計画が始動します。芝生広場の素晴らしい景観を活かしたあそび場を作るため、PLAY DESIGN LABのフェロー、大阪芸術大学 若生謙二教授に協力を仰ぎ、今までにない斬新な公園が設計されました。

INSIGHT

若生教授は動物園の展示デザインを専門にされていますが、子どものあそび場の画一化に疑問を感じていたといいます。また子どものあそびには、動物園の動物と同じ原理があると考えていました。そこで幼い時には誰もがもっている飛び降りる、滑る、高いところに登りたがるなどの行動原理を活かし、すべてのあそびの源である起伏を中心に、公園全体を複合遊具とするあそび場をデザインしました。また地域の素晴らしい景観と一体化する空間づくりを行うことで、子どもたちが紀の川市を誇りに思い、記憶に残る原体験の場所になることを期待しました。

SOLUTION

起伏で公園全体をあそび場にする「21世紀型複合遊具」のコンセプトを基に、周囲の景観にマッチするように畝や丘を配置し、遊具を組み合わせました。地域の人にとってなじみ深いふるさとの象徴、龍門山の山並みが公園の起伏と重なって見えるよう畝と丘を配置し、子どもたちが丘や遊具を攻略し、複合遊具「龍門の砦」の頂上まで登り切ったら、眼下に紀の川を一望できる仕掛けが施されています。また遊具の色彩にもこだわり、景観を損ねず心地よく過ごせる場所にするため、緑や茶色のアースカラーを用いました。桃のデザインが施されたターザンロープやゴンドラも地域色を感じさせ、地域への愛着が持てるものとなっています。

HOW IT WORKS

子どもたちは、エリア内に配置された畝と丘を地形の変化に連動して動き回ることで、足腰や筋力としての体感や調整力が鍛えられます。かつて日本人が自然の中であそんだ要素がふんだんに取り入れられた空間となりました。「野あそびの丘」は連日たくさんの人々に来園いただき、休日には100台止められる駐車場が満車になることも。景観と一体化した「おしゃれな公園」としてSNSでも話題となっています。

 

DATA

「紀の川市民公園芝生広場 野あそびの丘」

所在地:和歌山県紀の川市

設置年:2021年

クライアント:紀の川市役所

遊具製作:ジャクエツ

監修:若生謙