近年、新たなスポーツとして、クライミングへの注目度が非常に高まり、オリンピックでも正式種目となったことから一気に競技人口の数も増えている。
大きな魅力の1つに、性別、年齢、体格に関係なく、誰でも手軽に始められることが人気の要素になっている。
今回は遊具メーカーのジャクエツの「小さな子どもからでもチャレンジできる本格的なクライミング遊具」 CLIMBING WALL ~GAMBA~ の開発監修を担当した、国際ルートセッターの東秀磯氏に、その魅力について聞いた。
国際ルートセッター 東 秀磯氏
上がる競技力と下がる体力
スポーツ業界は今、とても話題が多いです。高跳びの記録が13年ぶりに更新されたとか、160㎞を超えるスピードの球を投げる高校生の選手が出てきたなど、他にも話題は豊富にありますが、全体的に今の選手は競技力が上がっていると思います。
ところが一般的な日本人の体力は下がっているといいます。ソフトボール投げとか握力は低下していますし、懸垂は体力測定から省かれました。
つまり選手のレベルは上がっているのですが、一般レベルは下がっています。その差が何かっていうと、やはり環境の差が大きいようです。今の2.3歳は人間の可能性として、潜在的な能力は上がっていると思います。ただ、そこから育っていく過程に運動をする環境があるか、ないのかで、体力に差がついてくるのです。
大学でも高校でも、今は体育会系のクラブの存続が危ぶまれるくらい少なくなってきています。一方でダンス部や、クライミング部では部員数は多くなりつつあります。それはある意味、子どもにとって「魅力あるクラブ活動」っていうのがわかりやすくなってきたということです。
一方、クラブ活動をしていると勉強をする時間が少なくて、クラブに入っていない学生のほうが学力も高そうですが、現実は反対のようです。クラブ活動をしている学生のほうが、生活とスポーツと勉強を「うまく切り替えられる」効率性をもっているのです。
遊具として楽しむクライミング
大人になると、「運動」はなんとなくやった方がいい、やらなきゃいけないものだと思うようになってきます。それは多分「緑黄野菜を食べなきゃいけない」といった考え方に近いと思います。好き嫌いではなく「健康を維持するための要素」を意識するようになるんです。だけど子どもさんは単純ですから、「健康を維持するためには運動が大事」ということは意識しません。「楽しいのはやりたいけど楽しくないのはやりたくない」とはっきりしています。だからジャクエツさんが取り組んでいらっしゃる、もしくは目指すべき方向っていうのは「とにかく遊具として楽しいもの」であり、子どもに絶対選ばれるものでないといけないわけです。
そのうえで「クライミングみたいにやれば体力が向上する」という要素があることが大切です。実際、九州の保育園さんでは「クライミングウォールを入れたら園児さんの体つきがしっかりしている。」と周りの園や保護者から評判になったようです。クライミングっていうのはそういう意味でも理想的な器具です。
クライミングは体力を向上させるとても良い要素を持っているからこそ、いいデザインを考えて「自主的に子どもに選ばれる器具」でないといけないと思います。
東氏監修の新遊具 CLIMBING WALL ~GAMBA~
親子で楽しむクライミング
今いろんな場所にジムが出来ていて、親子で楽しまれる方も増えてきました。親子で競った場合に子どもが勝つというパターンもあります。むしろ小学5.6年生くらいだと、最初は体力のあるお父さんが強いのですが、その日のうちに子どもに抜かれます。そして一生、抜き返すことはないです。
それは男の子でも女の子でも同じで、だいたい2時間で抜かれます。子どもは体が細い分だけ、後ろに引かれるモーメントが少ないのでクライミングに向いているんです。
以前にお会いした家族は、4歳の娘さんがクライミングをしたいということで、ジムに来られました。その家族には一緒に2歳の子もいました。お母さんに「この子も多分できますよ」って言って、その子のために足を載せる部分が大きくて、手で支えやすいルートを組んであげました。すると、その2歳の子も登れたので、お母さんは「この子はまだ話すこともできないのにクライミングが出来る」と言って大変驚いておられました。
手だけでクライミングウォールにチャレンジする2歳児
「スポーツ好き」な子どもを育てる
今、クライミングのお客さんの層は2種類あります。1つは「家族で来られる層」あとは「20代後半くらいの層」です。「家族層」は子どもさんが小学校高学年くらいまでのファミリーです。中学生になるともう、友達と一緒に出かけて親とジムに来るというのはあまりなくなります。
ジャクエツさんとしては「乳幼児を対象に施設内にクライミング遊具にチャレンジできる出来る場所を作る」っていうお話になってくると思うんですが、そうなったとき我々はまず「相当魅力のあるスポーツです」というのを伝えなければいけません。
その魅力というのが「まず体力を培う要素がある」ということです。前述した「クライミングウォールを置いたら園児さんの体つきが良くなった」というような事例です。
さらに「その体力を培ったら小学校、中学校と成長していっても体を動かすことを厭わなくなっていく」ことが非常に大切なことなのです。
クラブ活動に積極的になっていくと、就職にも有利になると思います。同じような学力、経歴を持っている人でも、クラブに入っていた人と入っていなかった人だと、やっぱりクラブに入っていた人の方が採用される可能性が高いと思います。これは「集団的に馴染みやすく組織的な行動ができる」と評価されるからです。
将来の様々なところで「スポーツ好き」「体を動かすのが好き」というのは人生をより良い方向に作用するという側面もあるのが事実です。
ゴールを目指してクライミングウォールにチャレンジする園児
「トリム」というのは「遊具とスポーツ器具の間に属するスポーツ性をもった遊具」のことです。人生の土台として「運動好き」の園児を増やすためには、今後はそういう遊具を開発して増やしていかなければいけないと思っています。
遊具の中で、滑り台とかブランコとかは「遊ぶことで幸福ホルモンが出る」遊具と言われています。しかし、それに比べクライミングウォールは幸福感を得ることが少ない遊具です。ブランコのように「揺れていて楽しい、ずっと揺れていたい」というような幸福感は少ないのです。しかし、クライミングには「チャレンジして、ゴールに至った時に得られる達成感」という最大の要素があります。
だから我々は、子どもたちが途中で断念してしまわないように、消化不良にならないように「誰でも行けるコース」というものも作らなければなりません。そして見事ゴールしたら、「よくやったね」、「頑張ったね」と必ず褒めてあげます。
そうすることで、子どもは達成感と同時に、楽しみと喜びを感じ、「もう一回やる」と言って何回でもチャレンジするようになります。達成できたら次は更に難しいコースにチャレンジしたくなります。子どもなりに達成感やチャレンジ精神があるので、滑り台やブランコとは異なるが、繰り返しチャレンジする遊具になります。確かに、滑り台やブランコと比べると「分かりやすい、ずっと楽しい、ずっと続けていたい」のような幸福感は少ないないかもしれないが、「子どもの将来の人格形成とか、体力の養成のためには非常に有力な遊具です」と言えます。
インタビュー時の風景
幼少期は特に「体を動かすことに厭わず、またその楽しみを覚えてもらう」ことが大切です。そうした感情や習慣を身に付けた上で小学校に送り出すことが、こども園・保育園・幼稚園の責務だと考えています。そこをうまく実現していけるもののひとつが「トリム的遊具であるクライミングウォール」だと思います。
今後も子どもたちが気軽にクライミングウォールにチャレンジできる環境が増えて、子どもの心身の成長につながれば嬉しいですね。
子どもたち同士で協力して遊ぶ様子