【藝大×ジャクエツ PLAY DESIGN共同研究】Bブロックのポテンシャルを描き出す

February 29th, 2020
山﨑 宣由
プロダクトデザイナー / UXデザイン研究者東京藝術大学 美術学部 デザイン科 教授 第7研究室(Design Experience)
PLAY DESIGN LAB
プレイデザインラボ 事務局
東京藝術大学美術学部デザイン科と株式会社ジャクエツは、2019年4月より、あそびと遊具(教具)の可能性を探るデザイン共同研究プロジェクトをスタートさせた。その第一弾として題材に据えたのが、同社で50年以上の歴史を持つ「Bブロック」である。

 

 

Bブロックのたった一つのかたち


Bブロックは、1966年に開発されたとてもシンプルなブロックだ。底面がBのかたちで、突起は2つ。サイズは、高さ4.5×幅5.1×奥行き2.5cmと少し大ぶりで、小さな子どもたちの誤飲を防ぎ、手のひらで握りやすいものにと考えられている。世の中には、パーツのラインナップを豊富にとり揃えたブロックもあるが、Bブロックの場合はそれらとは対照的に、基本ピースはこの一種類のみで、パーツも車輪付きと関節パーツのみという徹底した簡素さをつらぬいている。

 

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撮影:谷口あかり 作図:五十嵐亮太


 

そのかたちは何故「B」なのか? 当時の開発者である木原征次さんによれば、当初は「8」を考案したが、小さな子どもたちが組み立てるときの抜き差しのしやすさ、つまり、空気の抜け具合を追求した結果、直線と曲線からなる「B」に落ち着いたのだという。また素材には、強度と柔軟さを尊重して、当時まだ高級だったABC樹脂を採用したそうだ。現在の素材は、さらに柔らかさを追究したエストラマーセプトンという名の樹脂が使われ、その柔軟さゆえに、組み立てるときに生じる歪みが吸収されて、アールをつけながら組み立てても壊れにくく、曲面の造形物をつくりやすくしている。このように、機能を追求し、無駄を省いたBブロックのデザインは、すでに全国の保育現場で半世紀以上にわたって愛用され定着してきた実績からしても、遊具(教具)としてのあるひとつの理想のかたちを実現しているといえるだろう。

 

社会の中で十分に親しまれてきたこのブロックを、あえてこの共同研究では題材とした。そして、改めて “創造的なデザインの視点” で見つめなおすことにより、このブロックの未知のポテンシャルと価値を探索し、さらにはそのポテンシャルが誘発するまだ見ぬあそびの可能性を “描き出す” ことを目指す。また、そのプロセスにおいては、「ブロック」や「ブロックあそび」に纏わる既成概念をとり払い、もっと自由に、かつ根源的に、「あそびとは何か?」を問い直してみる。そんな方針をもって、デザイン科第7スタジオ(Design Experience)の山﨑宣由准教授の監修と指導の下で、学部2年から修士過程1年までの合計8人の学生たちがプロジェクトを進めることになった。

 

 

 

大学のアトリエで始まった研究


デザイン科のデザイン研究では、多くの場合、対象となる事物に対して、頭ではなく身体によるアプローチが優先される。つまり、資料や解説などの2次情報に触れるよりもまず先に、身をもって事物と向き合い、五感で対象を感受することを行う。今回のプロジェクトでも、6月のアトリエで、学生たちは何の前情報もないままに、200個のBブロックと遭遇した。このとき、学年を超えて集まったメンバーには「ほぼ初対面」の者たちもいたが、目の前に積まれたブロックを誰とはなしに触り始めると、硬かった表情が解けていき、言葉や笑いが活発に飛び交うまでに時間はかからなかった。

 

その光景に、ブロックという遊具(教具)の敷居の低さ、人と人の間をとりなす力、場を和ませる力といった特徴を目の当たりにしたのだが、その間にも学生たちは、各々のやり方で、Bブロックを見つめ、組み上げ、壊し、叩いて音を聞き、凹部に息を吹きかけ、光に透かして色を眺めるなど、このブロックが何者なのかを探っていった。さらには、噛みつく者も現れ、靴を脱いでソックスの足で踏み、円弧状につなげたものを首に巻きつけて踊り、小さな山をつくって潜りこむなど、ブロックとの奔放な対話は1時間ほどのあいだに面白いほどエスカレートしていった。そして、そうしたひとしきりの体験を経ると、このブロックであそぶ “まだ見ぬ風景” を想像し、描き出していった。

 


Bブロックに遭遇したアトリエでのひとコマ。 撮影: 青沼優介


 

 

ブロックあそびが飛躍する


 

学生たちの自由な閃きとスケッチは、その後、約1ヵ月のうちに3度のプレゼンテーションと意見交換を行いながら、さらに熟成され飛躍していった。以下がその一部である。

 





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これらのスケッチに描かれたブロックあそびは、テーブルの上でなされるあのいわゆるブロックあそびとは異なる。ある者のスケッチには、ブロックを使って生活空間を彩りかたちづくるあそびが描かれ、また別のスケッチには、水や植物、動物など、自然とあそぶための装置としてのブロックが描かれている。しかし、ここで問題になるのは、このような自由な発想に、果たして樹脂製のBブロックが本当に適応できるのか?である。しかし、これについて学生たちは、スケッチと並行して各々のプライベートな時間を使い、人知れず小さな実験をくり返していたようだ。

 

例えば、曲面をつくるときの曲がり具合と限界点、直線構造を自立させるための方法、人工照明や自然光を通したときの色味や明るさの変化、水に対する浮き/沈み方、食品の器にするための安全性、高温への耐性、切断の方法、モヤシの成長力とブロックを押し上げる力、凹部で水栽培するときの根腐れの状況等々。そして、それらのアナログな体験の全てが身体に蓄積されていった。

 

 

メートルスケールの実験


8月、描いたアイデアを実制作してみたいという要望に応えて、ジャクエツより、約7万5千個という膨大な数のBブロックが貸与された。その数を受けて、スタディの方向性は7つに絞られていった。これら7つの方向性は全て体験によって得られたBブロックの特徴から導き出されたものであり、以下がそのスタディとして実制作されたものである。

 

 

case1: Bブロック×Fashion 身につけるブロック



曲面がつくれるBブロックの特性を活かして、服をつくる発想が生まれた。この発想を展開すれば、誰もがファッションデザイナーになってあそべるブロックが開発できるかもしれない。/作:勝川由芽野 撮影:青沼優介


 

 

 

case2: Bブロック×Food 食をもてなすブロック



本来ならブロックの裏にあたる構造の部分に注目し、かつ、手のひらサイズを利用して器にすることを思い付いた。ブロックの色と食材の色のコーディネートが楽しい。器を連結させて小物入れにも展開できそうだ。/作:谷口あかり


 

 

 

case3: Bブロック×Music 音楽するブロック



ピアノは黒が一般的だが、カラフルにすると違った雰囲気で音楽を楽しむことができる。怖そうなもの、おかたそうなものもブロックでつくれば平和に貢献できるかも? /作:寺本有孝 撮影:大木大輔


 

 


case4: Bブロック×Quiz 答えを探すブロック



真上からの視点で描かれた「あるもの」を、実際にブロックでつくって答えるクイズ。Bの曲線と直線がヒントになる。本来、ブロックは自由につくってあそぶものだが、このクイズは制約をつけてあそぶという逆転の発想。/作:五十嵐亮太 撮影:大木大輔


 

 

 

case5: Bブロック×Space 侵食するブロックBblock00017


住空間を侵食するブロック。ブロックに囲まれてリラックスしたり、あそんだり。模様替えも気軽に楽しめる。Bブロックは中が空洞で曲面があるので、踏んだ感じが柔らかく、断熱効果もある。/作:森田あずさ+山根由子 撮影:青沼優介


 

 

 

case6: Bブロック×Light 発光するブロック



下の光源は時間とともにゆるやかに明滅するようプログラミングされている。その光を受けたBブロックは、それぞれの色ごとに異なる色調の変化を見せてくれる。/作:大竹玲央 撮影:青沼優介


 

 

 

case7: Bブロック×Water 水と戯れるブロック


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Bブロックの浮きも沈みもする絶妙な比重が面白い。水中でのブロックの浮力や、普段と違った見え方、ぶつかり合う音を楽しみながら、水を使った自由な造形を楽しんでほしい。/作:山口聖奈 撮影:青沼優介


 

 

これらスタディワークの展示は、学生有志の企画として9月、藝祭の一部屋で行われ、3日間で2千人を超える鑑賞者が訪れた空間は、連日、予想以上の盛り上がりだった。触ることのできない作品が多く展示されている藝祭の中で、作品に直に触り、自らも制作やあそびに参加できる体験は稀である。そこでは子どもだけでなく大人たちも、長い人の場合には1時間以上も滞在して、ブロックのピアノを奏で、ブロックのクイズに夢中になり、ブロックのドレスで写真を撮り、ブロックで水遊びをして、学生がつくったブロックのインテリアに手をくわえていた。

 

会場には、光とブロックの色の変化を楽しむための2畳ほどのギャラリーや(case6)、ブロッククイズであそぶためのテーブルセット(case4)も設えられた。後者の六角形のテーブルには一辺に2人が並んで座ってあそぶことができ、中心にはブロックを収納するくぼみがデザインされている。これらは新たなブロックあそびの環境提案としても注目される。

 

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展示のひとコマ。子どもも大人も夢中に 撮影:青沼優介


 

 

Bブロックに見えたこれからのあそび


今回の取り組みを、学生と共に以下の図にまとめた。図の右下から始まる広がりをご覧いただくと、まず、Bブロックの体験からその特徴を見つけ出し、7つの方向性(Case)とテーマを定め、具体的なあそびの展開例としてのスタディを行う。円弧の最も外側の部分は、この先に拓けていく新たなあそびのヒントである。

 

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作図:五十嵐亮太


 

このプロジェクトを通して味わうことのできた醍醐味を一つ挙げるなら、Bブロックのサイズと特性が身体スケールの造形を可能にしたという点だろう。約5×2.5cmという基本サイズは、スピーディな組み立てを可能にし、途中で違うと思えばバラして初期化するのもさほど難しくない。ピースの数さえ足りれば、小さな家具など実際に使える造形物を数時間でつくることができる。また、椅子やカーペットを制作した体験からは、踏んでも座っても壊れにくい予想以上の耐久性も明らかになった。

 

このことは、Bブロックと日常生活との親和性をもの語り、くらしの中で、子どもだけでなく大人と子どもが一緒に、あるいは大人だけで楽しむことのできるブロックあそびが拓かれていく可能性を示唆する。人間はあそぶ存在であり、あそびが人間を進化させたとは、オランダの歴史家ヨハン・ホイジンガの説であるが、Bブロックがやがて老若男女、誰のものにもなる広がりをもったとき、日常の異素材や自然物、テクノロジーなどとブリコラージュされた先には何が起こるのだろうか。

 

ブロックは、誰の記憶にも一つは宿っているであろう親しみやすい存在であり、誰もが躊躇なく手を伸ばして説明なしでも組みたてることができ、失敗したと思えばいつでもやり直せる遊具(教具)である。さらにはつくる/壊すを何度くり返しても劣化しない。そんなブロック本来の特質に加え、手のひらで持ちやすく、抜き差しがスムーズで、身体サイズのものがつくりやすいという特徴を備えたBブロックは、人々の創造行為の初動をさらに促し、思い描いたものをつくりあげるまでのトライアルを心強くサポートしてくれるものとして期待される。

 

 

(同プロジェクトマネージャー/東京藝術大学デザイン科非常勤講師 楠見春美)