最新の運動遊具の導入

May 22nd, 2020
PLAY DESIGN LAB
プレイデザインラボ 事務局
前橋 明
早稲田大学人間科学学術院 教授 / 医学博士
あそびの環境は、時代とともに変化しています。現代の子どもたちは、テレビゲームやスマートフォンで遊ぶことが増え、戸外で遊ぶことが減り、体力を十分につけることができなくなっています。また、環境面でも都市化が進み、昭和時代は自然の起状の中で運動能力を育むことができていましたが、現状では、そうしたあそび環境が整っているとは言えません。このような現代の状況を踏まえて誕生したのが、運動遊具「PLAY COMMUNICATION(以下、PC:ジャクエツ製)」です。PCは、子どもたちの体力や運動能力はもちろん、広い踊り場と多様な新機能パーツで、子どもたち同士の関わり合いをつくりながら、子どもたちの成長に必要な5つの要素(身体的、社会的、知的、精神的、情緒的要素)がバランスよく育まれるように、設計・デザインされたアルミ製の総合遊具です。

 

東京都小平市の丸山幼稚園、早稲田大学 前橋 明研究室のご協力のもと、PCが子どもたちに与える効果の分析を試みました。

 

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PLAY COMMUNICATION PC03


 

 

①固定遊具PCのみで、30分遊んだ場合と、PC以外で30分遊んだ場合の幼児の歩数(動き)の変化と、②PCで遊び続けることにより、得られる幼児の運動スキルの把握を目的に、年長の幼児(5歳児)の28名を対象として、4月、6月、1月の各月2日間、午前中の10:30-11:00に測定を行いました。1日目の測定は、30分間、PCのみで遊びます。2日目の測定は、30分間、PC以外で遊んでもらいます。測定の機器は、スズケン製ライフコーダGS4秒版を腰につけて測定しました。測定後には、歩数データを集計し、平均歩数を算出しました。 分析にあたっては、①PCのみのあそびとPC以外の外あそびについて、幼児の歩数データと幼児の動きの種類(4つの運動スキル)を比較しました。②PCあそびのバリエーションとして、自由に遊ぶ場合と、ルート設定したサーキットあそびについて、幼児の歩数データと幼児の動きの種類(4つの運動スキル)を比較しました。

 

調査写真


 

 

 

<4月の調査結果>


4月に調査したPCのみのあそびとPC以外の外あそびにおいて、1分毎の平均歩数で比較した結果を、図1に示しました。

 

図1 幼稚園幼児の毎分平均歩数の推移(4月測定)


 

PCあそびについて、図1をみますと、PCあそびでは、30分間を通して、平均60歩/分の歩数を確保でき、継続的に動き続けていました。一方、外あそびでは、平均40歩/分未満が半数いました。この日の外あそびは、自分が好きなあそびのみを行ったため、30分間、砂場のみで遊び、ほとんど動かない子や、雲梯だけで遊び続ける子もおり、時間や個人ごとにあそび内容や歩数に偏りがでる結果となりました。

 

調査写真(4月)


 

 

<6月の調査結果>


6月のPC以外の外あそびでは、運動会が近かったため、全員がリレーの練習をしていました。

 

図2 幼稚園幼児の毎分の平均歩数の推移(6月測定)


 

リレーは走運動ですので、歩数が多くなりそうでしたが、実際には、園庭を一周したらバトンタッチで交代して、走っている時間以外は待ち時間となり、30分間動き続けることはできていませんでした。30分間の平均歩数は、PCの約60歩/分に対し、リレーの外あそびは、約40歩/分でした。

よって、PCあそびでは30分間継続して動き続けることができ、「ドキドキ」や「ハァハァ」しながら汗をかくくらいの運動ができ、心拍機能が高まることや自律神経の働きを高めることが期待できると推察しました。

 

調査写真(6月)


 

次に、園庭の状況に注目してみますと、本調査にご協力いただいた丸山幼稚園は、都内でも広い園庭(1000㎡超)をもつ幼稚園です。リレーのように、子どもたちが思いきり園庭を走り回れる環境なので、保育者の言葉かけや応援などがあれば、十分に動き続けることができます。また、広い園庭であれば、多種多様な遊具を導入することが可能であり、走り続けるだけでは得られない運動スキルを身につけることができます。それぞれの外あそびで得られる運動スキルは、表1のとおりです。

 

表1 外あそびで得られる運動スキル


 

これらの外あそびは、それぞれ得られる運動スキルが異なるため、バランスよく様々な外あそびを取り入れることが必要です。しかし、園庭が狭い園では、どうしても動き続けることが難しく、遊具も設置できる大きさが限定されてしまいます。上記のような運動スキルをバランスよく身につけること自体が難しいです。

では、PCを園庭に設置する場合、どのくらいの広さが必要かをみてみますと、バスケットコートの半分ほどの広さ(12m×15m ※安全領域を含む)があれば設置できます。

 

バスケコート図面


 

また、園庭ですでに設置されている遊具を置き換える場合は、2人乗りブランコと滑り台の設置スペースより少し広い広さがあれば設置することができます。

 

ブランコ・滑り台図面


 

歩数の比較でも分かるように、PCで十分な動きは確保できます。さらに、ビデオ検証により、上下の運動が多い遊具なので、走りまわる外あそびだけではなかなか得られない、上り下りやぶら下がり、くぐる等の運動スキルが自然に身につきます。PCあそびでは、高いところに登った達成感や爽快感から情緒の開放を図ることができるだけでなく、4つの運動スキル(移動系、平衡系、操作系、非移動系)をバランスよく経験でき、園庭を走り回るあそびと同等以上の歩数も確保できることがメリットです。既存のブランコと滑り台だけでは味わえない経験ができることは、幼児の健全育成を考えるうえでも重要な視点でしょう。

PCは、様々なパーツから構成されており、パーツごとに身につけられる運動スキルが異なります。また、1つのパーツだけで遊べば、動きも運動スキルもバランスよく得られることができません。ここで提示した運動スキル表をもとに、パーツを選んで、PCあそびで動き続けることができるので、バランスよく運動スキルを身につけるためのルートを考えて、あそび環境を設営すると良いでしょう。

1月の調査時には、PCの中のパーツを選んで巡回するコースを作り、コースあそびを展開しました。設定したルートと結果は、次のとおりです。

 

表2 PCあそびで得られる運動スキル


 

表3 考案ルート(PCサーキットあそび)


 

PCでのサーキットあそびの結果:


前半の15分間はPCで自由あそびを行い、後半の15分はPCでコースを設定し、巡回して遊ぶサーキットあそびを行いました。歩数だけの結果をみますと、自由あそびの方が平均歩数は多く確保されました。これは、サーキットあそびは、ルートが指定されているため、順番どおりに遊ばなければなりませんし、苦手なパーツでは時間がかかる子もいるため、結果として、歩数が少なくなったことが原因の1つとかんがえられました。しかし、運動スキルに注目しますと、サーキットあそびでは、多様な運動スキルをバランスよく経験することができます。また、「サーキットあそび」の形式の中で、子どもたち一人ひとりの動作発達のレベルを把握することができるし、子どもたちの動きが止まらないようなルート設定や指導者の言葉かけ等に配慮できれば、成長に必要なスキルが身につく「最高のあそび」になるでしょう。

 

図3 幼稚園幼児の毎分平均歩数の推移(1月測定)


 

遊んでいる子どもたちの様子を何度も見ることによって、子どもたちの成長のためには、外あそびで動き続けること、遊具あそびで多様な運動スキルを身につけることが重要であり、PCはそれらを自然に育むことができる固定遊具であるといえます。

 

 

PC最後


 

 

 

 

・「PLAY COMMUNICATION」 については → こちら


 

・調査協力:


学校法人丸山学園 認定こども園 まるやまこども園 丸山幼稚園 様

早稲田大学 人間科学学術院 子どもの健康福祉学研究室(前橋 明 研究室、大学院生宮本雄司) 様