ガジュマルのツリーハウス。 木との一体感がもたらす未来。

June 12th, 2020
安河山 チエミ
浦添市認可保育園 たいよう保育園 園長
PLAY DESIGN LAB
プレイデザインラボ 事務局
沖縄県浦添市。深いブルーの空の下、海からの気持ちよい風に吹かれながら住宅街の路地を歩いていると、白い塀の上に、元気に枝葉を広げるガジュマルの木が目に入る。子どもたちが、子鳥のような笑い声を弾けさせながら登ったり降りたりして遊んでいる。よく見ると、樹木と一体になったツリーハウスの遊具があることに気付く。「たいよう保育園」のシンボルツリー・ガジュマルと融合するように設置されたツリーハウスである。今回は、このツリーハウスについて、たいよう保育園の安河山チエミ 園長にお話を伺った。

 


たいよう保育園の安河山チエミ園長



 

 

 

「自然と一体感のある、チャレンジしたくなる」遊具を。
よみがえった子どもの頃の記憶。


 

―たいよう保育園の園庭は緑の木々が印象的ですよね。


 

そうですね。従来、園の目の前に空き地がありました。以前より、近隣の方々から“子どもたちのために使ってください”というお声を頂いていて、園庭にすることを考えていました。木々など緑が生い茂っていたので、自然を活かしたいと思っていたのを覚えています。そんな時に、ジャクエツさんとの出会いがあったのです。遊具について熱い想いを持っていらっしゃったのが印象的でした。子どもたちにとって遊びがどんな意味を持つか、成長の過程で遊具がどんな役割を果たすかなど語ってくださいました。そして、空き地を園庭にする相談をいくつか投げかけさせて頂いたのです。「木や緑などの自然と一体感のあり、子どもたちがチャレンジしたくなるようなアスレチック遊具を置きたい」と。それからしばらくして手描きのパースができあがり、私たちの思いをすくい上げながら設計図が完成し、期待以上の遊具を設置してくれました。

 

 

― ガジュマルの木を遊具にしようと考えたのはどうしてですか。


 

昔から何となく思い描いてはいたのです、ツリーハウスを。でも、実際、ツリーハウスの遊具を自分の目で見たことはありませんでしたし、過去に他の業者さんが持参くださったカタログの遊具を拝見した時は、作りたいとは思えませんでした。なぜなら、木とツリーハウスの一体感がまったく感じられなかったのです。ジャクエツの大塚さんに相談して、見せてもらった写真には、私がイメージしていた「木と一つになったツリーハウス」が写っていました。そのとき頭の中によみがえったのは、小学生の頃、木の上に家を作って遊んだ記憶です。学校が終わると、お菓子や宿題を持ち込んだりして、友だちと楽しく過ごしました。自分たちだけの隠れ家は、いつもワクワクの時間をくれました。そういった体験を子どもたちにさせてあげたいという思いが、一気に膨れ上がったのです。
私は、「遊具に対して自然を合わせる」のではなく「自然に対して遊具を合わせる」という考え方を持っていたのですが、ジャクエツの皆さんも同じ考えで取り組んでくれて、「できるだけガジュマルの木は切らないこと」を設計の基本としてくれました。木々などの自然に対して遊具の形状に合わせるということは、それを使って遊ぶ子どもたちが「自然に対して合わせて遊ぶ」ことになります。その先には、「相手に合わせて行動する」という社会性の教育も存在します。

 

A7R06382

ツリーハウスを上から望む。ツリーハウスがガジュマルに包まれている


 

 

細やかなこだわりで表現したかったのは、
「あそび」が「まなび」になる様々なアイデア。


 

― ツリーハウスを考えているときは、みんなでパースを見ながら、いろんなアイデアが出てきたそうですね。


 

そうですね。作っていただいたパースを見ながら、当園の全保育者に相談して「こんなのがあったら面白いんじゃないか」という意見を出させてもらいました。確かその時に「登り棒」「滑り台」「ネットのトンネル」などのアトラクションのアイデアが出たのだと思います。その後、設計士の方が何度も当園へ足を運んでくださり、当園から投げかけたアイデアに応えるために、様々な工夫を凝らしながら何度も設計プランを出してくれました。

 

 

① 登り棒
踊り場の床をくりぬいて、登り棒を通し、棒を伝って上から下へ消防士のように降りるアイデアです。子どもたちは、入口から出口へ行動することに達成感を覚えますが、上り棒での行動は、より大きな達成感をもたらしてくれます。上まで登れた子はその大変さや登り方を体験しているから、今度は上から応援するようになります。

 

A7R06535

 

 

② 滑り台
当園には、0歳〜5歳児の6クラスがあります。0歳児から園庭で遊ぶようになるので、できるだけ幼い子も遊べるツリーハウスが欲しいと思いました。それを解決するのが滑り台です。低年齢の子は、登り棒やガジュマルの木を伝っての上り下りは難しくても、滑り台を使えば可能になります。滑り台が「上り台」としても機能するのです。また、同時に階段についても、1才の子が挑戦したくなるようなイメージで低めに作ってもらいました。

 

A7R07220

 

 

③ネットのトンネル
設計においてのお願いは、「簡単にはクリアできないこと」。身体を反転させる動作に普段使わない筋肉を使ったり、どうすれば通り抜けられるか考えを巡らせたりしながら、いつもの120%の力を出さないと通れない場所にしてもらいました。通り抜けた子どもたちが、より大きな満足感を得られるようになったと思います。

 

A7R06547

 

 

④スピーカー電話
タワーの上にいる子どもと、地上にいる子どもがスピーカーを通して話せます。いわゆる、糸電話の仕組みです。

 

A7R06642

 

 

⑤動物のオブジェ
その他、ツリーハウスには、ゴリラ、リス、フクロウをモチーフにしたオブジェもあります。3体とも木製なので、より自然との一体感が増します。これを使った遊びも楽しむことができます。

 

A7R06601-1

 



― 素材など、細かい部分にもこだわっていますね。


 

ガジュマルの木との一体感をより出すために、踊り場の手すりに使う丸太は、踊り場のサークル形状に合うような少し曲がったものを大工さんが探してきてくれました。曲がった丸太を手に「こんなのどうですか!」と嬉しそうにしていたのを忘れられません。おかげさまで、全てにこだわったツリーハウスができました。
A7R06413-1

円形の踊り場に沿うように曲がった丸太を採用


 

 

園庭を眺めているだけで、
保育者の思いが伝わる存在に。


 


たいよう保育園のシンボルツリーであるガジュマルの木に設けたツリーハウスの前で。


安河山 園長(右)と、遊具を製作したジャクエツ 沖縄店 大塚和男 店長(左)



 

 

― 子どもたちや保護者の皆さんからの反響はいかがでしたか?


 

子どもたちの心に、挑戦する気持ちとか、それを応援したくなる気持ちが、ツリーハウスを体験することで芽生えているように思います。一度やってできなかった子どもでも、「今日はできなかったけど、明日はきっとできる」と、何度でも挑戦してくれています。また、お気に入りの場所とか、安心できる場所だと感じている子どもも多いのではないでしょうか。何かあるたびに木の上にいたりしますから。私が子どもの頃に通った“隠れ家”のような存在になっているのだと思います。
保護者の皆さんからもご好評を頂いています。ある方は、施設の中を見る前に、まず園の周りから園庭を眺めていたとのこと。大きなガジュマルがあるなあと見つめていたら、ツリーハウスと一体になっていることに気付いて驚いたそうです。「子どもたちにこんな環境を提供している園なら預けたい」と、入園を決めてくださったようです。私たちの思いが、遊具という環境となり、園の外側から見ても伝わったのは、本当に嬉しい限りです。

 

 

― こうした遊具の存在は、子どもたちの育ちにもつながりますか?


 

県外の方にとっては意外だという声も聞きますが、沖縄はクルマ社会なのであまり自分の足で歩きません。大人が歩かないので、当然、子どもも歩かなくなる。その結果、全体で肥満の人が増えていると思います。早稲田大学の前橋 明教授(日本幼児体育学会会長、プレイデザインラボ・フェロー)が、こんな話をされていました。「歩かないことは、沖縄から陸上の選手が輩出されていないことに関係している。走るの基本は、歩くです。外で身体を十分に動かすことで、子どもたちは知らないうちに、遊びの中で体づくりができます」。優れた遊具は、自然に身体を使って運動することを可能にするのだと思います。何気なく楽しんでいる時間を、運動機能向上につなげられるのはありがたいです。

 

 

A7R06659

園の外から眺めると、ツリーハウスは、まるでガジュマルの木の一部に見える


 

 

長く愛せる遊具は、
そこにしか生まれない価値を育んでくれる。


 

― ガジュマルの木を遊びと一つにしたことで、ツリーハウスへの愛着が湧いているようですが、作ってみていかがでしたか?


 

いいモノとは、長く使い続けられるモノのことだと思っています。一つのモノを使い続けていくと愛着が生まれます。そして、愛着はモノと使う人の間にしか生まれない唯一の価値を作り出してくれるのです。今回のガジュマルの木は、実は数年前、根が建物の辺りまで伸びていたために、「伐採した方がいい」という声が挙がったこともありました。それで移植の方法を探りましたが、「木がもたない」と言われました。それでも愛着があったので、可能な限りの手を尽くして、今のところ元気に育ってくれています。あの時切らなかったおかげで、ツリーハウスができあがりました。そうそう、子どもたちと保育者で作った“ガジュマルの歌”もあるんですよ。伐採しなくて本当によかったと思います。これからもツリーハウスは、ガジュマルの木と「一つのモノとして」愛着が育まれていくのだと思います。

 

A7R07200-1

 

 

(文:プレイデザインラボ編集部 デザインリサーチャー 虎尾弘之、写真:今泉真也)