壁面やテーブルを埋め尽くす、カラフルなブロックの数々に目を奪われる相模幼稚園の「Bブロック研究所」。子どもたちの知的好奇心や非認知能力を養うため、大胆にも、一つの教室を丸ごとブロックあそび専用の空間にしたプロジェクトだ。この空間はどのように生まれ、子どもたちはどのような反応や変化を見せているのか。50年以上の歴史を持つBブロックの新たな可能性として誕生した「Bブロック研究所」について、仕掛け人でもありプレイデザインラボの研究員でもある中塚氏と、相模幼稚園園長・渡邉信秀氏にお話を伺った。
左から:プレイデザインラボ研究員 中塚氏、相模幼稚園園長 渡邉氏、(株)ジャクエツ 営業 兵藤氏
想像力と自己表現力を養えるブロックあそび
―Bブロック研究所はどのようなコンセプトで企画されたのですか?
渡邉:相模幼稚園の教育方針は「ともに遊び、ともに学び、ともに育つ集団の中で個人が輝きながら可能性を伸ばすことができる保育」。幼児教育において「あそび」は子どもたちの心身の発達の基礎を養うものだと捉えており、あそびを通して子どもたちの自発的な興味を伸ばし、個性を育てる教育に取り組んでいます。その中で、子どもたちが興味を持って取り組み、集中して作業できる環境を作りたいと考えるようになりました。そこで、元々園の子どもたちに大人気だったBブロックに着目し、一つの教室をブロック専用の部屋にしようと企画しました。Bブロックは、シンプルな形であるからこそ、使いやすく、それから作り出される作品は多様性があるので、子ども達の遊びの道具として最適だと思います。子どもたちが心の赴くまま遊べるよう、部屋には各作業テーブルのほか、壁や床など、教室のどこでも作品が作れるようになっています。
中塚:私自身が子どもだった時もブロックあそびが大好きだったので、ブロックで埋め尽くされた部屋というアイディアにはワクワクしましたね。渡邉園長から話をいただいた時、「研究所」というコンセプトにすれば、子どもたちがあそびながら学び、非認知能力を養える場所になるのではないかと考えました。研究所というコンセプトを具現化するためにも、余計なものは省いてできる限りシンプルな設計に。そして、Bブロック自体のカラフルな色彩を前面に出し、知的好奇心がくすぐられる空間を目指しました。
―Bブロック研究所を作るにあたり、工夫した点はありますか?
中塚:まず、子どもたちが思う存分あそべるよう、合計6万ピースのBブロックを導入しました。そして研究所らしさを表現するためにも、壁に映像を映し出すプロジェクションマッピングを採用しています。このマッピングは、ブロックであそぶと映像が切り替わる仕組みにして、子どもたちの非認知能力を養うしかけを作りました。映像を動かすためのブロックの動作の条件は、あえて設定をゆるくしています。「赤のブロックは反応するのに、なぜ黄色のブロックは反応しないんだろう?」といったように、子どもたちが考えながらチャレンジできる設定条件に調整しました。また、コロナ禍でも安心してあそべるよう、抗菌・抗ウイルス素材の床材や、抗菌剤が練りこまれたBブロックを使用しています。
渡邉:おかげさまで、年齢や性別を問わず、想像力を働かせながら思う存分楽しめる空間に仕上げてもらえました。友だちと共同作業でアイディアを出しあいながら作品作りに取り組む子どもや、一人でもくもくと作品を仕上げる子どもなど、Bブロック研究所では一人ひとりが個性を発揮しながらあそびに熱中しています。また、制作途中の作品もそのまま教室に置いておけるので、今までは作り上げられなかった大きな作品づくりに取り組むこともできているようです。子どもたちが試行錯誤しながら各々の想像力・自己表現力を養い、空間認知能力を発達させられる大切な空間になっていると感じています。
考える力と社会性の育成につながる空間
―子どもたちや保護者の反応はいかがですか?
渡邉:子どもたちには大人気ですよ!特に外あそびができない雨の日は、「先生、Bブロック研究所であそんでいいですか?」と皆がこぞって聞いてくれるほどです。保護者がお迎えに来てくれた時は、「もっとBブロック研究所であそびたい、帰りたくない」と泣いてしまう子どももいるくらい。教室で色々な作品を作ることが子どもたちの大きな楽しみになっており、毎日様々な作品が誕生しています。また、保護者や教職員からも「子どもの想像力がふくらみ、心の豊かさや感性が育まれて成長できる」と好評を得ています。見学に来た保護者の中には、「私もここであそびたい!」と目を輝かせてくれる方もいらっしゃいます。
中塚:Bブロック研究所は私自身があそびたい空間を目指したので、そのような反応をいただけて嬉しいですね。保護者がお迎えに来るまでの間、子どもたちが寂しい時間を過ごすのではなく、もっと園であそびたいと思ってもらえるような空間を実現できてよかったです。
―Bブロック研究所ができたことによる子どもたちの変化はありましたか?
渡邉:ブロックあそびで試行錯誤し、想像力を働かせることで、子どもたちの考える力が鍛えられているように感じています。また、友だちと共同で作品を作っていると、時には意見がぶつかりあうこともあります。しかし、子どもたちはお互いに意見を聞きあったり、ゆずりあったり、相手の意見のいいところを取り入れたりと、活発にコミュニケーションをとりながら作品制作に向き合っています。他者との活発な関わりを通して、社会性も身についていると感じますね。
中塚:Bブロック研究所を作るにあたり、改めてブロックあそびの可能性を実感しました。ブロックをはめたり外したりする際は、摩擦が起きて指先の力を使う必要があります。これは、指先と脳の伝達機能が養えますし、指先の器用さを鍛える上でも役立ちます。非認知能力が養われたかどうかは、すぐに結果が見えるものではありませんが、子どもたちの将来に役立ってほしいという願いを込めてBブロック研究所を作りました。子どもたちの記憶に残り、大人になった時に思い出してくれる空間になってくれると嬉しいです。
―今後、取り組んでみたいことを教えてください。
渡邉:Bブロック研究所に保護者の方々を招待して、作品を作ってもらい、後で子どもたちに見てもらうというイベントは面白いかもしれませんね。親子のコミュニケーションのきっかけも提供できると思います。これからは、環境問題やAI、グローバル化など、子どもたちが新しい社会に適応する力がますます求められるようになります。子どもたちの生きる力を身につけるためにも、幼児期から幅広い経験を積ませてあげたいと思います。そのためにも、子どもたちが視野を広げて新しい経験ができる環境をさらに整えていきたいです。