フィンランド・ヘルシンキ訪問滞在記 -デザイナー エーロ・アールニオ氏を訪ねて

March 30th, 2023
エーロ・アールニオ
インテリアデザイナー
2016年秋、PLAY DESIGN LABを運営する株式会社ジャクエツCEOの徳本達郎はフィンランドのデザイナー エーロ・アールニオ氏に「ジャクエツの企業理念である『未来はあそびの中に』のスローガンにも通じる、未来を感じるものをデザインしてほしい」と依頼した。その翌年、象の滑り台「ノルス」、トカゲのベンチ「リスコ」やドラゴンのベンチ「ベイビードラゴン」、2019年に小象の「ノルス MINI」、そして今年の2023年には犬の遊具「ドギー」を共同開発した。今回、徳本CEOはじめ開発チーム一行は「ドギー」を持参し、コロナ禍の3年を経て、フィンランド・ヘルシンキにあるエーロ・アールニオ氏のスタジオを訪問した。

 

アールニオ商品

 

フィンランドが誇るデザイナー エーロ・アールニオ


 

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1966年、アールニオ氏は、北欧ミッドセンチュリー・モダン全盛の中、当時家具作りには一般的でなかったFRP素材を使い、ボールのような球体の一部を真っすぐ切断したフォルムで、人がすっぽりと球体の中に入って座れる近未来的な椅子を発表した。そのアールニオ氏のデザインは世界中で話題となり、それ以来、動物キャラクターの子馬「ポニー」や鳥「ティピ」など、ふっくらと愛らしいフォルムのなかに未来を感じさせる造形の椅子やオブジェのデザインを世に出し続けている。「新しいデザインに取り組んでいるとき、私は特にそれらを未来的だとは考えていません。「ボール・チェア」「バブル・チェア」「パスティル・チェア」をデザインしたのは約60年前ですが、私は今も当時と同じ気持ちでデザインをしています。」と語り、独自のデザインスタイルを築き、90歳の今でも現役で精力的にデザイン活動に取り組んでいる。

 

ヘルシンキ(人口63万人)の街には、アールニオ氏のデザインしたプロダクトが至るところで親しまれており、フィンランドでほとんどの人が知っているデザイナーの一人だと言っても良いだろう。実際、宿泊先のホテルでは彼のデビュー作「ボール・チェア」と2001年発表の巨大なフロアランプ「ダブル・バブル」がロビーにアイコンのように使われていた。また、2018年にオープンしたヘルシンキ中央図書館「oodi」でもボール・チェアが多数採用されている。今回アールニオ邸まで運転してくれたバスの運転手さんも、アールニオ氏のファンの一人であった。

 

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『ボールチェア』と『ダブル・バブル』

 

徳本CEOとともにこれまで開発に携わってきたチームのメンバーは、今回がアールニオ氏との待望の初対面。90歳をむかえ、コロナ期をどう過ごされていたのか心配していたが、玄関の扉を開けるとすぐにアールニオ氏の笑顔に出迎えられ、すぐにその心配は消え、懐かしい友人に会うかのように和気あいあいと会話が始まった。大きな窓から自然光がよく入る明るい室内には、アールニオ氏の作品がずらりと並んでいた。長旅をねぎらう挨拶も束の間、アールニオ氏は待ちきれなかった様子で用意していた幾つものアイデアを見せ、揺れる遊具のアイデアを体いっぱいに身振り手振りで表現し説明し始めた。本当に90歳だろうか?と思わせるほど、エネルギーに満ち溢れるアールニオ氏。

「良いアイデアを誕生させるのが私の健康を支えてくれている。刺激的なプロジェクトに取り組んでいるときは、1 日があっという間に過ぎていくよ。」と、元気の秘訣も語ってくれた。デザインすることが喜びで、楽しくて仕方ない様子だ。

 

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ドギーとの初対面


 

時には冗談を言いながら、一人一人に気を配り、前筆のファンの運転手も招き入れ、スタジオ内を親しげに案内するほどだ。一緒に奥様のピルッコさん、娘のマルユッカさん、孫娘のミネラさん、カリアさんも出迎えてくれ、幾度となくお茶を進めてくれたのだが、話が止まらない。

ジャクエツの開発メンバーたちによると、アールニオ氏の2次元のドローイングから3次元の立体に具現化していく過程においてはメールでのやり取りのみ。意思疎通には大変苦労したこともあり、目の前の現物を手に本人とのコミュニケーションは感慨もひとしおの様子。形となった「ドギー」を初めて見たアールニオ氏は、「ドギーのデザインは非常に楽しんで行いました。私がジャクエツのためにデザインしたこれまでの動物ファミリーにぴったりだと思いました。「ドギー」は私が描いていた絵そのものに見えました。」と語り、満面の表情を浮かべた。

 

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アールニオ氏は近年のデザイン活動についても語り、2016年ヘルシンキのデザインミュージアムでの展示や2019年スウェーデン・ストックホルムでの展示、そしてスウェーデン国王から芸術文化の勲章「プリンス ・エウゲン賞」を受賞したことなど、その活躍は止まる様子はない。さらに、2016年に立ち上げたブラン ド「エーロ・アールニオ・オリジナル」の路面店のオープンについても触れた。「エーロ・アールニオ・オリジナル」は、世界中に溢れている模倣品の対抗措置として立ち上げられ、オリジナルデザインの認知度と重要性を理解してもらうための活動なのだそう。他国で模倣品が多数生産され、オリジナル製品の年間生産量を一日で生産してしまうのが現状だという。独自の優れたデザインや技術を多数開発・蓄積するジャクエツにも共通の課題であろう。

 

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アールニオ氏にとっては、唯一、子供向けの製品のデザインを提供している会社がジャクエツである。アールニオ氏はジャクエツとの共同開発について、「私は子供向けのデザインが大好きなので、ジャクエツとのコラボレーションは非常に良い機会だと思っています。私が子供向けにデザインする製品は、子供たちに喜びを与え、想像力を養うのに役立つと考えます。また、子供向けのデザインは私にとって非常に刺激的な物であり、他のデザインへの新たなアイデアも与えてくれます。」

コロナ期に苦労して共にデザインを具現化させ、今回、ついに直接お互いの想いに触れ合ったアールニオ邸での時間は、さらなるデザインの発展にも繋がることだろう。今後のエーロ・アール二オ氏とジャクエツの製品共同開発に目が離せない。

 

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株式会社ジャクエツ 徳本CEOとアールニオ氏

 

PROFILE/EERO AARNIO エーロ・アールニオ


1932年7月、ヘルシンキ生まれ。現在90歳。インスティテュート・オブ・インダストリアル・アーツ・オブ・ヘルシンキで工業デザインを学ぶ。ASKO社を経て1962年に独立。ボート工場でFRP素材と出会い、1963年にボール・チェアをデザイン。1966年ケルンの家具見本市で話題になり、一躍有名となる。 代表作にパステル・チェア(1967年、ボール・チェアにすっぽり収まり輸送コストを削減)、ポニー(1973)バブルチェア(1968年、アクリル製透明半球体の天井から吊るす椅子)ダブル・バブル(2001照明)パピー(2003犬モチーフ遊具)等多数。MOMA、ポンピドー・センター、ヴィトラ・ミュージアム、ヴィクトリア&アルバート・ミュージアム等にパーマネントコレクションされている。

 

 

 

これまでのアールニオ氏との共同開発についてはこちら↓

LINK: 『デザインと教育の先進国 北欧フィンランドの巨匠デザイナーと遊具をつくる』


LINK:WORKS/クリエイティブ作品一覧