2022年4月、栃木県宇都宮市の屋内あそび場「ゆうあいひろば」がリニューアルオープンしました。市による子どもの健全育成の拠点施設となっているこの広場には、どんな思いがこめられているのでしょうか。「ゆうあいひろば」のリニューアルプロジェクトを担当したメンバーの、宇都宮市子ども未来課の川村智宏さん、小林理恵さん、ジャクエツ空間デザイン課の佐伯祐樹さん、森万由加さんに話を伺いました。
時代の変化に合わせた新しいあそびを子どもたちに
川村:「ゆうあいひろば」は、宇都宮市の子どもの健全育成の拠点施設として14年前に整備されました。ワンフロアに「子どもたちのあそび広場」「一時預かり保育」「青少年エリア」などがあり、いろいろな世代が親子で交流できる場所です。設備が古くなったため、全面リニューアルをすることになりました。
佐伯:これだけの広さの屋内スペースを任せて頂ける機会は滅多にありません。とくに「子どもたちのあそび広場」には、思い切りからだを動かせるあそびを提案したいと考えました。
川村:リニューアルの最大の目的は、時代の変化に合わせた新しいあそびを取り入れることでした。昔とくらべて今は、子どもたちがからだを使ってあそぶ機会が減っています。映像や音声などの技術も駆使して、楽しいあそびを提供できればと思ったのです。
小林:事前アンケートにて、子どもたちからの要望で多かったのはアスレチックとクライミングでしたね。
川村:これまでにも両方あったのですが、入り口が奥まって使いづらかったため、あそびやすい動線になるようフロア全体を再設計してもらいました。
佐伯:青少年エリアのある部分は区切られていましたが、今回思い切って壁を取り払い、フロアをオープンにしました。
川村:開放的になり、良い選択でした。また、感染症対策にも万全を期した施設として生まれ変わり、大変好評です。
乳児用、幼児用、児童用にゾーンをそれぞれ分けることで、安全にあそべるように設計されている。
3つのプロスポーツチームとのタイアップが実現!
川村:宇都宮市には、なじみのプロスポーツチームが3つあります。せっかくの機会なのでタイアップをお願いしたところ、どのチームからも快く協力を頂きました。おかげさまで、キックバイクコースと、バスケットボール・サッカーにちなんだ体験ゲームに、それぞれタイアップが実現しました。
小林:プロチームが3つもある自治体は、そうありません。子どもたちがあそぶ中で、地元チームを自然に応援できるようになればと思ったのです。
佐伯:新技術を使った映像あそびとして、バスケットボールとサッカーを同時にできるものを考えて欲しいと要望を頂き、頭をかかえました。「シュート」と「ドリブル」がキーワードでしたが、どうすれば1つのゲームにできるかと悩みました。ゲームセンターのようにはしたくなかったので……。
川村:試行錯誤でしたが、結果として子どもたちが喜ぶ新しいあそびが出来上がりましたね。デジタル技術を駆使したゲームでありながら、しっかりとからだも動かせます。立ち位置とゴールに書いてある点数が合計されるので、算数の要素もあります。1人あそびも2人での競争もできる優れものです。
バスケットボール・サッカー体験ゲーム。シュートに成功するとセンサーが反応して音声と映像が流れ得点が入る。プロスポーツチーム、Bリーグ宇都宮ブレックスのブレッキーとJリーグ栃木SCのトッキーが左右で応援している。
郷土愛を育むために取り入れた「きぶな」のモチーフ
佐伯:宇都宮市は宿場町として発展した街で、古くから東日本の玄関口でもある地域です。そのような地域の歴史的な特性をふまえて、「道」をコンセプトにした設計をご提案しました。
川村:ワンフロアに乳児エリア、幼児エリア、児童エリアが同居する設計なので、デザインとしても実用性の面でも「道」のコンセプトは活きたと感じています。加えて市からは、あそび場への要望として「郷土愛を育む仕掛け」をお願いしました。
佐伯:宇都宮市のみなさんが郷土愛を育めるモチーフには何が良いのだろうと、2日かけて町中を探しました。すると、いろいろな場所で黄色い魚のモチーフを見つけました。私は宇都宮市に伝わる「きぶな」の伝説について、全く知りませんでした。
森:人々に幸福をもたらす「きぶな」伝説を、宇都宮市のみなさんは絵本などを通して親しみがあるということでした。そこで、きぶなのモチーフを通して、地域に寄りそうあそび場づくりができないかと考えたのです。
川村:映像あそびの1つとして、アスレチック遊具の下に「きぶなの棲む池」をご提案頂きました。だれかが池をのぞきこむとセンサーが反応し、音声付きの動画が池に映される仕組みです。
佐伯:7種類の動画を用意し、ランダムに流れる仕組みにしました。池(ディスプレイ)のある床に設置したスピーカーから、音声が同時に流れます。
小林:宇都宮は、ジャズが盛んなことでも有名です。きぶなたちがジャズを演奏するバージョンと合わせて音楽のフレーズを楽しむことができるのも、画期的なアイデアだと感じました。
川村:池だけではなく、広場全体に郷土愛を育むためのコンテンツを楽しめるディスプレイを追加して欲しいと、プロジェクト終盤になってお願いしました。施工のスケジュール管理も大変だったと思います。
池をのぞきこむと、センサーが感知して「きぶな」のアニメーションコンテンツが流される。音声と一体化した仕組み。
さまざまな世代の若者が集う空間で、実のある子育て支援を
川村:宇都宮市では古くから、子育て支援を中心に据えた政策を行っています。今回の全面リニューアルは、市をあげたビックプロジェクトでした。
小林:4月に再開してから、利用者のみなさまにはとても良い評価をいただいています。乳児用・幼児用エリアが充実した一方で、小学生の利用者も増えているようです。さまざまな世代のみなさんにご利用頂き、市外からも親子で多くの方が来られています。
佐伯:同じフロアに別室として設置してある「一時預かり保育」のスペースも、リニューアルを任せて頂きました。私は社内で建築設計を担当しているのですが、今回、大きなチャンスを与えて頂いたと感じています。会社として挑戦したいことがあり、それを正面から市へ提案し、受け止めて頂けたという充実感があります。
森:床壁や遊具の素材や色、案内板などのサインを含めて、フロア全体のデザインにチャレンジできました。初めて直面することが多く、社内の各部署に問い合わせると「それはやったことがない」と度々言われました。「やり遂げなくてはならない」という使命感を会社全体で共有し、多くの方にご協力いただいたおかげで、完成させることができました。
川村:宇都宮市ならではの、衛生的で管理がしやすく、みなさんにも喜んでもらえるあそび場を整えることができ、とても満足しています。