障害や個性に関わらず誰もが遊べる遊具を目指して/紅谷浩之さんインタビュー

October 17th, 2022
紅谷 浩之
医師 / オレンジホームケアクリニック代表
元気な子ども、医療ケアが必要な子ども。障害の有無や個性に関わらず、みんなで変化し、社会に適応していく力を養う遊具シリーズ「RESILIENCE PLAYGROUND」から3つの新たな遊具が発表された。監修したのは、地域医療を専門とする医師である紅谷浩之氏。医療ケア児の暮らしや生活をサポートする「オレンジキッズケアラボ」の代表理事も務めている。今回は、紅谷さんに子どものあそびや遊具に掲げた思い、期待する未来像についてお話を伺った。

 

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「RESILIENCE PLAYGROUND」シリーズの遊具実証の様子


 

 

 

医療ケア児も友だちと遊べる社会に


 

―紅谷さんは医師として活動されています。子どものあそびのサポートに携わるようになったきっかけを教えてください。


 

紅谷:私は地域医療が専門です。病院に来てもらって診療するというよりは、人々の暮らしの中に私たちが出て、患者さんの生活や人生を診るのが仕事です。ある時、医療ケア児と出会いました。生まれた時から重い障害を持っていると、医療に縛られるのが当たり前になってしまうんです。人工呼吸器や胃ろうをつけているから、友だちと遊べないのはしょうがない…。病院から見るとそれで仕方がないと思考停止してしまいがちなのでしょうが、地域医療の医師として、暮らしの側面から見た時にどうしても違和感があったんです。3歳の子どもなのに、生まれてから友だちと一度も遊んだことがないのはおかしいなと。

 

子どもの専門家が、医療ケア児のあそびにもっと関わってくれたらと考えたのですが、やはり医療的ケアが壁になって難しいことが分かりました。それであれば、暮らしを診る地域医療者が一歩前に踏み出し、子どもの専門家とともにあそびに関わっていけば、医療に縛られた人生を当たり前と思いこむ必要がなくなるのではと考えたのです。

 

 

―医療ケア児たちが遊具やあそび場に集まるためには、何に配慮すればよいのでしょうか?


 

紅谷:そもそも、子どもたち同士では病気や障害のことを気にしません。気にするのは大人なので、大人の先入観をどう減らすかが大事だと思います。例えば大人にとって見守りやすい遊具や、ケアしやすいあそび場があると、大人にとっての心理的な壁を下げることができるでしょう。「やらない方がいいでしょ」「行ったらダメ」のような、大人が守ってあげなければいけないという過剰な思い込みを外してあげることが大事だと思います。

 

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医療ケア児の暮らしや生活をサポートする「オレンジキッズケアラボ」の代表理事 紅谷浩之氏


 

 

子どもたちのレジリエンスを発揮できる遊具


 

 

―紅谷さん監修のもと「RESILIENCE PLAYGROUND」から、新たに3つの遊具が誕生しました。紅谷さんの考える「レジリエンス」とはどういうものですか?


 

紅谷:レジリエンスは「自然に戻ろうとする力」といえます。いい方向に落ち着こうとする、誰もが持っている力です。例えば草木が風で揺れても、風がやめばまた元に戻るようなイメージです。風に揺れている木を見て「かわいそう、支えてあげなきゃ」と過剰にサポートするのは大げさでしょう。「大丈夫、そのうち元に戻るよね」と信じてあげて、ちゃんと戻る力がレジリエンスなのです。

 

子どもたちはレジリエンスを元々持っています。病気や障害があろうがなかろうが、関係なく「一緒に遊ぼう」という子どもたちが元々持つエネルギーを大人は信じるべきですし、子どもは気にせず遊べばいいんです。「片足がない友だちとあそびたいけど、どうやったらこの遊具で遊べるだろう」「じゃあこうやってみようよ」と、子どもたちは自然に考えます。このレジリエンスを信じれば、おのずと支援につながっていくはずです。

 

 

―「RESILIENCE PLAYGROUND」の役割について、紅谷さんの思いを教えてください。


 

紅谷:障害を持っている子どもは、見方によっては不便でかわいそうと思うかもしれません。しかし、その不便さを受け入れて自分の個性として発揮し、他の個性を持っている子どもたちと遊んで、結果誰が障害を持っているのか分からないように見える。そんなレジリエンスを発揮させあうような場がRESILIENCE PLAYGROUNDなんだと思います。

 

 

―今回発表したトランポリン遊具「YURAGI」について、込めた思いをお聞かせください。


 

紅谷:トランポリンは揺れやはずみの刺激、ふわふわする感覚が楽しいのはもちろんのこと、友だちと一緒に飛んで、相手の揺れにつられて転んで笑いあったりと、つながりを感じられる楽しさも大きな要素だと思います。一般的なトランポリンは、例えば元気な子どもと寝たきりの子どもが一緒に遊ぶのは難しく、寝たきりの子どもだけで遊んでもゆらゆら揺らすリハビリのような形になってしまいます。そこで、揺れを共有する、誰かといっしょにあそぶ楽しさを感じられる遊具にしたいと考え、ドーナッツ型の形状のトランポリンを考えました。ドーナッツの中心と外側で大人が見守れますし、ぐるぐる周りを循環するワクワク感もあります。高さが低い場所では医療ケア児が、高い場所では元気な子どもが遊べば、お互いの揺れを感じ合うこともできます。

 

これは障害の有無だけでなく、年齢や個性の差にも言えることです。トランポリンで年長さんと年少さんが一緒に遊ぶと危ないですが、YURAGIなら安心です。揺れが怖い子ども、激しく揺らしたい子どもも一緒に遊べるでしょう。障害や年齢、個性で遊具を分けるのではなく、そもそも分けなくていい方法を遊具側から主張しているんです。

 

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「RESILIENCE PLAYGROUND」シリーズのトランポリン遊具「YURAGI」


 

 

 

―ブランコ遊具「KOMORI」はいかがですか?


 

紅谷:KOMORIは視界をできるだけ狭めた「こもり空間」が特徴的なブランコです。一般的なブランコは揺れる楽しさだけでなく、カラフルで音が鳴ったりと、刺激が多すぎる傾向にあります。KOMORIは揺れることに特化させて、多すぎる刺激が苦手な子どもでも安心して遊べる遊具としました。

 

子どもの中には外で遊ぶのが大好きな子もいますし、天井を見て空想するような、内向きなあそびが好きな子もいます。遊具は身体を動かすことが前提になっていて、空想あそびが好きな子が楽しめるものが少ないんですね。KOMORIはそういう子どもを受け入れ、「揺れる+何か」というあそびを自分で発見できる可能性もあります。KOMORIで揺れる刺激が楽しめるようになったら、レジリエンス効果で別の遊具にチャレンジすることもできるでしょう。

 

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「RESILIENCE PLAYGROUND」シリーズのブランコ遊具「KOMORI」


 

 

 

―これまでの遊具開発は、どれだけ運動能力や知的能力を上げられるかという視点で、たくさんの要素を盛り込むことに力を入れていました。KOMORIの開発では、要素を厳選することに注力したことが新鮮でした。


 

紅谷:本来はのんびりと揺れるようなあそびが好きな子も、みんながやっているから、親や先生がそうしなさいと言うから、激しいあそびをしている場合があります。KOMORIが来てからは、その子はずっとこもっている。これはレジリエンスだと思います。うまく周りに合わせていたけど、そうする必要がなくなって、自分の好きなようにする。自分にとって何が幸せかを見つける力を育むことさえできれば、自分のなりたい姿に合わせて力をつけることができます。要素が厳選されたKOMORIは、その力を育むことにも役立つと考えています。

 

 

―スプリング遊具「UKIWA」についても教えてください。


 

紅谷:UKIWAは浮き輪型のスプリング遊具で、従来の馬の形のような遊具では乗りづらい子どもも楽しめる形になっています。自分がどう動いたらどう揺れるのか、どのような揺れを感じるのか。自分の運動感覚とキャッチする感覚の連動を感じる、フィードバック感覚を自然と養えるのが特徴です。

 

五感のうち4つは目、鼻、口、耳と顔で捉えます。身体で感じられないと、顔だけで生きているような、身体の存在があいまいになってしまうような感覚になってしまいます。UKIWAはバネの反動を手や身体全体で感じられるので、五感をフルに使って遊べる遊具になるでしょう。

 

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「RESILIENCE PLAYGROUND」シリーズのスプリング遊具「UKIWA」


 

 

あそびの楽しさを知るきっかけになってほしい


 

 

―3つの遊具が広まった先には、どのようなビジョンが見えてきますか?


 

紅谷:例えば管をつけている医療ケア児は、複雑な形のジャングルジムで遊ぶのは難しく、いつもKOMORIで遊んでいる。友だちは普段ジャングルジムで遊んでいるけど、その子と一緒に遊びたいからKOMORIで遊ぶ。そうすると、医療ケア児の子も友だちがあそんでいる場所で遊びたくなって、新しいチャレンジにつながっていく……そして、いつの間にか複雑の形のジャングルジムで、医療ケア児もみんなと一緒に遊んでいることでしょう。RESILIENCE PLAYGROUNDでみんなとあそぶ楽しさを知って、本人も友だちも大人たちもレジリエンスを信じて成長していくような、そんなきっかけの遊具になってくれるといいですね。

 

 

―最後に、子どもたちの未来に期待するあり方についてお聞かせください。


 

紅谷:仕方ない、しょうがないという言葉がなくなっているといいですね。性別や年齢、障害の有無などは関係なく、制限がなくなって、みんなが好きなことで好きなように集まるのが当たり前になる社会。一人ひとりがレジリエンスを持って生き、自分の生き方に幸せを感じながら生きられる社会になれば、また新たなコミュニティが生まれていくのだと思います。世の中の当たり前が更新され続けて、自分自身がワクワクしたり楽しいなと思えることも変わり続ける状態が、社会としても健康的な状態なのではないでしょうか。

 

 

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紅谷浩之氏(左)と遊具開発担当の株式会社ジャクエツ 田嶋宏行氏(右)