豊かな自然に囲まれた園舎で、考える力を磨く/みやの森こども園 理事長 遠藤 弥一郎 氏 × ジャクエツ 建築士 荻野 浩和 氏 対談

March 4th, 2024
PLAY DESIGN LAB
プレイデザインラボ 事務局
宮城県の豊かな自然に囲まれた、広大な敷地に広がる「みやの森こども園」。木のぬくもりを感じる個性的な木造建築に、想像力を刺激するクラスサインなど、子どもたちの感性を育む園舎となっている。2023年度のグッドデザイン賞とウッドデザイン賞を受賞した「みやの森こども園」の園舎は、どのような思いを込めてリニューアルされたのか。理事長の遠藤氏とジャクエツ設計担当者の荻野氏に、園舎のコンセプトや子どもたちへの思いについてお話を伺った。

 

木のぬくもりを感じながら、のびのびと成長できる園舎へ



みやの森こども園の全景


 

―みやの森こども園としてリニューアルした背景を教えてください。
遠藤:令和3年度まで幼稚園として運営していたのですが、将来永続的に子どもたちの成長を支援して、職員の待遇面も向上させるためにもこども園として生まれ変わるべきだと判断しました。以前の園舎は築27年ほどの木造建築で、美しい自然に囲まれた環境ではありましたが、セキュリティやインターネット環境などの機能面に課題がありました。また、外廊下だったため冬は寒いという問題も。子どもたちや職員の保育環境をハード面でもしっかりとサポートすべく、思い切って園舎もリニューアルしようと決断しました。

 

―園舎を新しくする上で、どのような点にこだわりましたか?
遠藤:木のぬくもりを感じる木造建築というのが絶対条件でした。大きな木造建築に触れる機会が減る中で、木の良さを幼少期から感じてほしいという思いがあるのです。そして、園舎の中に入った時に「気持ちが落ち着くな」と感じてもらえるような、日常のせわしなさを忘れてワクワクできる空間づくりをお願いしました。また、既存の遊戯室は斬新なデザインで素晴らしい空間だったため、それだけは残し後は全てリニューアルしてもらいました。

 

荻野:木のぬくもりのイメージを共有するために、何度も打ち合わせを行いました。木造園舎だけでなくホテルやゴルフ場など、遠藤理事長のイメージに近い施設をヒアリングしたり、一緒に視察したりするなど、コミュニケーションを深めて理想の園舎を具体化していきました。

 

―新しい園舎はどのように変わりましたか?
荻野:豊かな自然に囲まれた敷地が素晴らしかったため、園舎の中に自然を取り込むような設計にしました。外廊下と内廊下を採用し、室内側からも自然を感じられる形に仕上げました。木のぬくもりを肌で感じながら、四季折々の自然の移り変わりを楽しめる園舎になったと思います。また、各教室もなるべく広くとり、一般的な教室の1.5倍ほどの大きさにしました。セキュリティ対策や災害対策にも力を入れ、機能的かつ安全な施設にリニューアルしました。

 



 

―子どもたちや保護者の皆さんの反応はいかがでしたか?
遠藤:園舎に訪れた瞬間「すてき!」と、たくさんの方々に声をあげていただけました。保護者や来客の皆さんからは「おしゃれな園ですね」と評判で、「ここに来るとゆったりして癒される」という声もいただきました。

 

―園のロゴやクラスサインもリニューアルしたと伺いました。
遠藤:オリジナリティのあるものにしたいという思いがあったので、感性の豊かなデザイナーにお願いしたいとジャクエツに相談したところ、三澤さんを紹介いただきました。ホームページを拝見したところ、非日常でワクワクするデザインがたくさんあり、普通の人とは全く違うものの見方をしているんだなと感心しましたね。保育の中でもこのような観点は必要だと思い、ディスカッションを重ねて思いを共有した上で、制作は全て三澤さんのチームにお任せしました。「はっぱ」「きつつき」「てんとうむし」など、自然をコンセプトにした名前を、素晴らしいクラスサインに落とし込んでもらえたと思います。どこにもない唯一無二なデザインとなり大満足です。

 



 


三澤遥氏デザインのクラスサイン(上)と園ロゴ(下)


 

 

 

自ら考え、行動できる子どもに成長してほしい




 

―みやの森こども園は2023年度グッドデザイン賞を受賞されましたね。
荻野:グッドデザイン賞は社会をより良くする総合的なデザインを評価するアワードで、完成した建物だけでなく、デザインの成り立ちやストーリーが審査されます。2023年度は、モノが持っている本質の価値を見出す「アウトカムがあるデザイン」というテーマで募集されていました。「自然とのふれあいを通して 思いやりややさしさを育てる」というみやの森こども園の教育方針をコンセプトに設計した今回の案件は、このテーマにぴったりだと思い応募したところ受賞できました。

 

―グッドデザイン賞ではどのような点が評価されたのですか?
荻野:審査員の評価コメントは、まさに私たちの思いを汲んだものとなっていました。遠藤理事長の教育理念も、設計の意図も伝わり評価されたことを嬉しく思います。

 

-グッドデザイン賞 審査員 評価コメント-
これ以上ないような理想的なロケーションである。豊かな環境に伸び伸びと園舎が配置され、周囲の景観とも調和した美しさがある。園舎の形態は、穏やかで、それでいて豊かな内部空間をつくるためにハイサイドライトや屋根面が分節され、それが外観に変化を与えている。ゆったりとられた廊下やテラスも子供たちの居場所であり、常に周りの自然とも呼応した空間になっている。生物や自然、四季など、ここには子供たちにとって魅力的で感性を育んでくれるものが十分というほどある。この園舎で育つ子供たちの未来が楽しみだ。

 

遠藤:受賞した時はびっくりしましたし、本当に嬉しかったですね。どこにもない園舎にしたいという思いがあったので、細部まで徹底してこだわったことを評価してもらえてよかったです。

 



 

―さらに、2023年ウッドデザイン賞も受賞されています。
遠藤:森とともにある広い敷地の利を活かし、木のぬくもりを常に感じられる園舎の設計を目指しました。また、宮城県からCLT等の活用による新たな県産材需要の創出のための補助金をいただくために、私と荻野さんでCLT普及促進の講演を5回行いました。宮城県産材の普及促進に取り組んだことで、宮城県知事から表彰もされました。CLTは、園児たちの目の届く外廊下の軒下に使用しています。

 

荻野:私もウッドマネージャーに認定されました。ウッドデザイン賞の主旨は「木の良さや価値をデザインの力で再構築する」ということです。そのような点も評価されたのだと思います。

 

―新しくなったみやの森こども園で、子どもたちにどう成長してもらいたいですか?
遠藤:自然の中で遊ぶことで、たくさんの学びを得られます。自然から教えられることはたくさんあるので、それらを肌で感じ取り、自ら考え、行動する力を養ってもらいたいです。これからはAIの時代となりますが、コンピュータや機械とは異なり、人間は考える力を持っています。子どもたちに感性や考える力を磨いてもらい、様々な職業で活躍してほしいと思います。

 

荻野:新しい園舎で過ごし、「こんな建物を作ってみたい」と考えて設計の仕事をする人が生まれると嬉しいですね。みやの森こども園の子どもたちは元気いっぱいで、ハキハキとあいさつできる子ばかりです。遠藤理事長や先生方の教育のたまものだと思います。園が未来永劫発展していくことに対しても、ジャクエツとして貢献していきたいですね。

 

 


左から ジャクエツ 建築士 荻野氏、みやの森こども園 理事長 遠藤先生、ジャクエツ仙台店 店長 辻氏


 

 

園舎概要

学校法人たちばな学園 みやの森こども園

施工地:黒川郡大和町宮床字松倉91

構造 : 木造2階建て(一部鉄骨造・RC造)

敷地面積 : 49907.99㎡ / 建築面積 : 2868.81㎡ / 延床面積 : 2620.99㎡