2023年6月末に、HOIKU株式会社、保育環境研究所ギビングツリー、一般社団法人乳幼児STEM保育研究会の主催する『見守る保育・藤森メソッドシンガポール研修』がシンガポールにて行われた。シンガポールには、前レポート記事で紹介した藤原平司さんの提唱する「見守る保育 藤森メソッド」を取り入れたスクールが数多くある。今回のレポートでは研修内で実際に見て回った施設の様子をレポートする。
研修では、「my first skool」というプリスクールの取組みについて学び、実際に保育現場の視察が行われた。「my first skool」とは2017年より藤森メソッドの「見守る保育」を取り入れ、現在153カ園あるシンガポールで最も人気のスクールである。園児数は約24,000人、スタッフ数は約5,000人に上る。1977年にNTUC(シンガポール全国労働組合)の園と開園し、2009年よりMFS(my first skool)に変更された。
開放的な空間を活用した保育環境
見学した「my first skool」は施設がとても大きく、開放的な空間で保育がされていた。
▲吹き抜けホール。
園児と保護者の動線は緩やかなスロープや階段となっており、親子のコミュニケーションを促す仕掛けがある。この園では空調を使わないため、大きなファンなどを使って風の通る設計になっていた。
▲吹き抜けホール。
園庭の確保が難しいため、吹き抜けのホールにドーム型の遊具が設置されていた。
▲乳児室。
ゆったりとした空間をオリジナルの家具で仕切っている。双方から見る事もできる収納として機能しつつ仕切りとしての役割を果たしている。
▲幼児室。
部屋同士が廊下を介してつながっているのではなく、大きな空間でゾーン分けがされている。この園では子どもたちが行う遊び事にゾーニングがされていた。
STEM教育の取組み
広々としたエントランスには、親子で遊べるSTEMコーナーが常設されていた。どんな事が起きるのかの発見と学び、素材を変えることで何が生まれるのか好奇心をくすぐる仕掛けがみられた。
▲送風テーブル。
テーブルの下に送風機が設置されており、風によって浮くもの浮かないもの、材質による浮き方の違いなどを体験することができる。
▲ライトテーブル。
セロファンやアクリルで色の重なりを学んだり、葉っぱの葉脈を観察できる。
主体的な保育の取組み
▲制作コーナーやそれを用いたごっこ遊びのためのゾーンが設けられていた。
作ったものを用いて遊び、そこから更に発想して遊ぶために作る、といったように子どもたちが各々目的を持って取り組める空間となっていた。また、子どもたちが自ら出し入れができるよう、収納ケースには写真と文字でラベリングがされているなど、子どもたちの主体性を育む取組みがされていた。
この園では園庭も屋内同様コーナー遊びのゾーン分けがされていた事が印象的であった。
暑さ対策で昼間の外遊びをしないため、広いグラウンドは無かったが、代わりに様々な遊びが楽しめる空間が各所にみられた。
▲屋上乗り物ゾーン
道路や山、池など交わう線を様々なものに見立てて遊べる空間となっていた。
▲屋上水あそびゾーン
▲屋上遊具ゾーン
ゴムチップの築山とトンネル、滑り台でできたシンプルな屋上遊具。
▲園庭泥んこあそびゾーン(左)、音楽あそびゾーン(右)
▲藤森メソッド「見守る保育」は全職員・保護者にも説明されている。この園でも掲示物を作成し、エントランスやホールで園での取組みを紹介するなどの工夫がされていた。
今回のシンガポールの研修では、園ごとに重きを置いている取組みが違い、特長がはっきりしていることが印象的だった。特にSTEMやものづくり(制作)に力を入れている園では、それぞれゾーンがしっかり設けられており、日本よりそれらの取組みが浸透しているように感じた。今後の環境づくりのために、私たちに何ができるのか、学びの多い研修であった。