あったらいいな、をカタチに ~地域を巻き込んだ子育て環境づくりを目指して~/社会福祉法人村の木清福会理事長・大雅峰宏氏インタビュー

August 19th, 2024
PLAY DESIGN LAB
プレイデザインラボ 事務局
岐阜県で複数の保育施設を運営している社会福祉法人村の木清福会。子育て支援センターやオーガニック給食を提供するカフェスペースを備えた「多機能型子育て支援施設Lulu」は、親子や地域住民に愛されており、2023年度にはキッズデザイン賞を受賞した。今回は、Lulu開設の経緯やこだわり、運営に対する思い、今後の展望などについて、理事長の大雅峰宏さんに語ってもらった。

 

オーガニック食で、子どもの心の根っこを育てる


 

―キッズデザイン賞を受賞された多機能型子育て支援施設Luluですが、開設に至った経緯を教えてください。

 

大雅:自分自身が子育てをする上で、「こんな場所があればいいな」と考えたのがきっかけでした。計画当時は1歳と3歳の子どもを育てていたのですが、子連れで安心して外食できる場所がなかなか見つからないということに課題を感じていました。また、子育て支援センターの一時預かりを利用しようにも、保育園や店舗の中にあるので気軽に入りづらかったり、中身があまり充実していないなと思うことがあったのです。生活の延長線上に存在し、フランクに訪れることができ、食環境も整った子育て施設を作りたい。この思いでLuluを開設しました。

 

―計画にあたり、留意されたことはありましたか?

 

大雅:ただ単に施設を作るのではなく、地域の子育て支援が底上げされた有益なものをコンパクトにまとめた施設を作りたいと考えていました。生活の延長線上に存在させるためにも、保育園とは別に新たな建物を作ったのもこだわりです。住宅を手掛ける地元の工務店とタイアップして建設したので、外観も内装もまるで家のように落ち着くものとなっています。

 

―現在の施設の利用状況はいかがでしょうか?

 

大雅:施設全体で年間6千~8千人の親子に利用いただいております。特に誕生日会などのイベントがある日や、カフェで人気の給食を提供する日などは利用者数が大きく増えます。朝から閉館時間まで親子でのんびり過ごされる方や、保護者同士で仲良くお話して交流の輪を広げる方など、それぞれが自由なスタイルで利用されています。

 

―Luluのこだわりは何ですか?

 

大雅:オーガニック食材を使用した給食を、1日10食限定で販売していることです。ジャクエツの次世代経営者セミナーで永原味佳さんの講演に参加し、オーガニックに興味を持ったのです。元々は、オーガニックや無化学・無添加といったキーワードは少し怪しいという先入観を持っていたのですが、「知力・体力・能力の根源である、心の根っこを育てるのが食」というお話を伺い、概念を覆されました。子どもの健やかな成長には、健康的な食が欠かせないと思い知り、社会福祉法人村の木清福会で運営する保育園でのオーガニック給食の提供を始めました。保護者は保育園の給食を食べる機会がなかなかなく、子どもたちが何を食べているのか知っていただくため、また、残食をなくすというSDGsの観点からもLuluでの販売を始めました。

 



 

子育てや暮らしに役立つ情報発信の場として


 

―利用者の方々の給食への反応はいかがですか?

 

大雅:オーガニック食は薄味で食べ応えがないといったイメージを持たれがちですが、「普通の食事と変わらない」「おいしく満足感がある」といった反応をいただけています。年間約2,000食を提供しており好評ですね。つわりでごはんが食べられないという妊娠中のママさんが、「ここの食事なら食べられる」と毎日訪れてくださったこともありました。

 

―人気メニューは何でしょうか?

 

大雅:大きな輪っか状になった麩である“車麩”を使った唐揚げや納豆は、保護者だけでなく子どもたちからも大人気です。保育園の給食のオーガニック率は85%で、動物性の食事も時々提供するのですが、鶏の唐揚げも子どもに人気ですね。Luluでは、栄養を取り入れやすい新月と満月の日に、胃に負担がかからないものを食べようというコンセプトの「排毒メニュー」を提供しています。黒米のごはんや白和え、切り干し大根、ひじきの煮物といったやさしい食事を手軽にとれるということで、利用者の皆さんに喜んでいただけています。

 

―オーガニック食の美味しさや魅力を、多くの人に届けているのですね。Luluのその他の特徴を教えてください。

 

大雅:親子で楽しく遊べる空間として利用できる子育て支援センターを用意し、一時預かりも受け付けています。また、子育て中の保護者の方々が交流できるスペースでは、保育士に何でも相談できる環境を整えています。Luluは地域や一般企業もジョイントしており、貸会議室ではバランスボール教室やヨガ教室、保険の講座など様々なイベントを開催しています。駐車場では年に数回ビオマルシェを開いており、オーガニック会社による食材販売も行っています。地域と交流しながら子育てを楽しみ、暮らしに役立つ情報を得られる場を作ることを目指しています。

 

―子育てに関する相談はどのようなものが寄せられていますか?

 

大雅:育児に対して真摯な保護者の方々が利用してくださっているので、家庭でのちょっとした悩みでも何でも相談いただけています。特にしゃべり始めるのが遅いのでは、歩くのが遅いのではといった成長に関する相談ごとは多いですね。モヤモヤとした悩みや不安を保育士に打ち明けて、「心が楽になった」「子どもの成長を安心して見守れるようになった」と言っていただける時は本当に嬉しく思います。なかなか勇気が出ず相談できなかったママさんが、保育士が子どもと遊んでいる時にそっと話しかけてくださり、最後には笑顔になってくださったこともありました。「ここに来てよかった」と思ってもらえるよう、一人ひとりに向き合った相談やサポートを心がけています。

 

地域がつながり、安心して子育てできる街へ


 



 

―心温まるエピソードですね。その他、Luluの運営面でのこだわりや目標はありますか?

 

大雅:たくさんの人に子育てに興味関心を持ってもらうことが私たちの使命だと考えているので、子育て中の人に限らず大勢の人に遊びに来てもらいたいと考えて運営しています。マルシェを開催する時は幅広い年齢層の方に来場いただいているので、これからも地域の人々を巻き込める取り組みを展開したいです。

 

―Luluはキッズデザイン賞を受賞されましたが、率直な思いを教えてください。

 

大雅:素直に嬉しいです。私たちの取り組みが自己満足ではなく、客観的な評価を得られたことは、スタッフの自信にもつながりました。ジャクエツさん、三和木さん、そして村の木清福会というLuluの開設に携わった3社でエントリーできたのも良かったです。

 

―現在は保育園の建て替え計画も進行中ですね。

 

老朽化のため、ジャクエツさんと連携して建て替えを計画しています。その保育園はLuluとは別の敷地にあるのですが、同じ敷地内に移転させることで機能を集約し、地域を巻き込んだ園づくりを推進したいと考えています。また、地域には障がい者支援施設が不足しているので、その事業にも参入して地域の困りごとを解決できればと検討しています。保育所運営の枠を超えて、地域に貢献できる福祉サービスを提供したいと思います。

 

―最後に、村の木清福会としての今後のビジョンについてお聞かせください。

 

大雅:子どもたち一人ひとりの主体性を伸ばし、成長をサポートすることで、地域の未来を作っていくというミッションのもと、様々な取り組みにチャレンジしたいと考えています。子どもの主体性を伸ばす取り組みとしては、現在、子どもたちと一緒に考えられることは一緒に決めていくようにしています。例えば運動会の種目を子ども主体で決めたり、リレーで走る順番をクラス全員で相談したり、シャボン玉遊びで用意する道具を考えてもらったり、といったイメージです。自分たちで考えて工夫できることは、どんどん子どもたちに挑戦させています。

また、コロナ禍の影響もあり、現代社会は一人ひとりが孤立している感覚が強くなってきています。私は昭和生まれなので、近所のおじいちゃんやおばあちゃんに叱られたり、褒められたりと地域のつながりの強さを感じていました。子育ては保護者だけでできるものではないので、近所の人や地域の人が子育てに参加し、つながりを持てるようにしたいと思います。そうすることで、子どもたちは健やかに成長し、自信を持って社会に出ることができると思うのです。

 


社会福祉法人 村の木清福会 理事長 大雅峰宏氏(写真右)と株式会社ジャクエツ 建築士 堀貴雄 氏(写真左)