PLAY ATTRACTOR ー「あそび心地」が響き合う社会。その可能性とは/原田祐馬氏インタビュー

August 31st, 2026
原田 祐馬
アートディレクター/デザイナー|UMA /design farm 代表
2026年4月、デザイナー・原田祐馬さんと共にジャクエツが制作した、新しい遊び場のコンセプト・ブック。そのタイトルを「PLAY ATTRACTOR(プレイアトラクタ)」と言います。
「アトラクタ」とは、「アトラクション」の語源でもあり、「人を惹きつける魅力があるもの」の意。あそびを意味する「プレイ」と「アトラクタ」が結びついたこの造語が示すのは、ジャクエツがあそびで創り出したい世界のあり方そのものなのだとか。

今回は、冊子制作を担ったデザイナー・原田祐馬さん、ジャクエツの経営企画室課長・赤石さん、スペースデザイン開発課・田嶋さんの3名で、冊子が生まれたプロセスを振り返っていただき、「プレイアトラクタ」とは一体どのようなものなのか紐解いていきます。

 

遊具から「風景」のデザインへ


[caption id="attachment_7071" align="aligncenter" width="2560"] 原田祐馬さん(左)、田嶋さん(右)[/caption]

(田嶋:T):プロジェクトのはじまりは、僕が開発した遊具「レジリエンスプレイグラウンド*」のコンセプトブックを作ろうという話でしたよね。

(赤石:A):はい。「レジリエンスプレイグラウンド*」を簡単に言うと「障がいのある方も使える遊具」なんですが、それだけでは言い表せていない部分があります。2024年にグッドデザイン大賞をいただいたことでひとり歩きしている感じもあり、一度、どんな考えで生まれたものなのかまとめておきたいと思ったんです。

(原田:H):それ、最初の課題感としてありましたね。「インクルーシブ*」とだけでは言えないことをやっているのに、遊具の世界ではすでにステレオタイプが出来上がってしまっていて。だからこそ、ジャクエツさんの強みである、デザインから製作までを一貫してやっているところ、遊具誕生の背景にある「デザインプロセス」こそが整理して伝えたいところだと思いました。そのため、1つの遊具ではなく会社全体のコンセプトブックに近いものへと広がっていったんです。

[caption id="attachment_7070" align="aligncenter" width="2560"] 赤石さん[/caption]

(A):はい。今、デザインしているのは遊具だけでも、空間だけでもなくて。そこで遊ぶ人も含めた風景やシーンがどう心地良くあるかなんです。でも、その状態を指す名称がなかったので、遊びを中心にいろんな人があつまって魅力ある場ができているという状態を「プレイアトラクタ」と名付けました。その概念について整理したのがこの冊子です。




※「レジリエンスプレイグラウンド」
医療的ケア児の「遊びたくても遊べない」課題に向き合い、誰もが一緒に遊べるデザインを実現した3つの遊具シリーズ。幼稚園や公園、商業施設など環境を問わず122基が設置され、障がい児の受け入れに悩む施設や行政の後押しにも繋がっている。こうした社会への波及効果や居場所の創出が高く評価され、2024年度グッドデザイン大賞を受賞した。詳細はこちら

※インクルーシブ(inclusive)
年齢、性別、障がいの有無、国籍、宗教などに関わらず、全ての人が孤立や排除をされず、社会の一員として包み込まれ、支え合う「包括的・包摂的」な社会のあり方




『PLAY ATTRACTOR』が見せる、あそびの魔法




(T):せっかくなので一緒に冊子を振り返っていきたいと思います。冊子と言いつつも中綴じではなく、大きく展開していくスタイルが特徴的ですよね。



(H):みんなで囲って見る地図みたいなイメージにしました。表紙を開くと「あそび心地はみんな違うよね」というメッセージと、それを元にさまざまな考え方や思想を具現化してきたプロダクトの紹介。さらに開くとこれからのビジョンを描いた一枚の絵が現れ、全開にすると、具体的なデザインプロセスが見えてきて——。読者が徐々に深部に入っていくような流れはありつつも、どのコンテンツから読んでも意図を汲み取れるような編集をしました。

(T):「溶かす」とか、「あそび心地」など、興味を引く言葉がいくつかあります。まず、「溶かす」という言葉はどのように生まれたんですか?

(H):プレイアトラクタはシーンごとに中身が異なるので、いろんなシーンを思い浮かべてみました。すると、そこには「自分たちの関係性が溶けている感じ」が共通して存在するんじゃないかなと思ったんです。



(A):「溶かす」というキーワードは序盤から出ていました。障がいのある方と健常者、人間関係などのいろんな境界が、あそびを媒介に繋がっていくと風景がどう変化するかを的確に表している言葉だと思いました。

(H):それと、あそびが場を溶かすためには、「固いもの」も必要というのがこのプロジェクトを通して気付いたことでした。物体という意味での「固い」もので、それが遊具ですよね。遊具に触れたり周囲を動きまわったりすると、物体を介して様々なことが巻き起こるので、自然と人と人との関わりを生んで繋いでいくんだなと。

(T):なるほど。遊具がコミュニケーションを呼び起こす装置になって、その場にいる人たちの関係性を溶かしていくと。そうやって生まれる状態が「プレイアトラクタ」ですね。

(H): そうです。でも完成した冊子が配られたときには、「プレイアトラクタ」という名前は最終的には忘れられていてもいいかなと思っていて。それよりも、「ジャクエツはモノや仕組みではなく、風景を作りたいんだ」ということがまず伝わると良いなと思っています。

 

「あそび心地」の正体とは?




(T):「あそび心地」も重要なキーワードだと感じました。「レジリエンスプレイグラウンド」の開発時、僕は、医療的ケア児たちの「楽しい」をどう測れば良いかに苦戦していました。そんな中で、当時、「あそび心地」という尺度はしっくりきたような印象がありました。

(H):「あそび=楽しいもの」という強い固定概念のせいで見過ごされている心地悪さがあるかもしれないなと思って。例えば、子供の頃、誰かに誘われて断れなかったり、気づいたら高くまで登りすぎて怖くなったり、遊びの中にも不快なことがあったはずです。「楽しい/楽しくない」ではなく居心地、つまり「あそび心地」という指標があると、「〇〇さん、今のあそび心地どうかな?」と、もう少し相手のことを広い視点で考えられるんじゃないかって思ったんです。



(A):確かに、以前は「いかに楽しいものを作るか」が遊具作りの前提にあったように思います。

(H):以前のパンフレットには「〇〇力」と書かれていたものを、今回の冊子では「〇〇性」と書き換えたのもポイントです。力という言葉には伸ばすものというイメージがありますが、性質に置き換えると無理に変えなくても良い。遊び心地と言っている意味も伝わるかなと思って。

(A):身体力や精神力を身体性や精神性と言うと柔らかくなる。ベクトルが変わる感じがします。

(H):結局のところ、「あそび心地」は遊具というハードだけでも、ルールのようなソフトだけでも作れません。その両方の間にあるものなんですよね。決まった形があるわけではなく、目指す方向や場面によって、様々な要素が混ざり合ってできる複雑な味わいのようなもので。「これが最高のあそび心地です」と一方的に提示できるものではないからこそ、いろんな人を巻き込んで探っていくプロセスが必要なんだと思います。

 

さまざまな視点から共創するプロセス「フォーカスグループ」




(T): そのあそび心地を作るためのプロセスが、冊子の一番深部、地図のように全開にしたページに描かれている「フォーカスグループ」ですね。この考えは、「レジリエンスプレイグラウンド」の開発後に原田さんから教えていただいた言葉でした。

(H):そうです。冊子の最後のコラムにも書きましたが、イタリアの絵本出版社の事例がヒントになりました。そこでは、生きづらさを抱える子供たちやその家族、研究者などを集めて、ディスカッションを経て本を作るプロセスを「フォーカスグループ」と呼んでいます。でも出来上がった絵本は、そのプロセスを感じさせないくらい読む人それぞれの「読み心地」があるんです。ジャクエツさんの開発も自然とそういう作り方をしていたんだろうと思い、この言葉を提案しました。



(T):そうですね。実際に現場に入ってヒアリングし、いろんな人と話してチューニングをすることで、医療的ケア児と健常児に共通する「楽しい」を見つけられました。一方的に「こうすれば解決します」と提案するのではなく、いろんな人を巻き込みながら作っていくことが、あらゆる先入観を解きほぐしていくのだと感じました。

 

あそびが、社会をもっとやわらかくしていく


(T):ではここからは、今後の展望をうかがいつつ、原田さんの考える「あそび」の意味について聞かせてください。

(H):ビニール傘を持って、ちょっと外に出てもいいですか?





 

(H):今、みなさんと傘や白線を使ったあそびをしましたが、傘を立てるのに「地球の重心を感じて」と言うと、見たこともないはずのマントルが見える気がしませんでしたか? こういう想像力を働かせることがあそびの意味だと思うんです。

(H):僕は最近、日本の刑務所や少年院の中のあそびに興味を持っていて。「楽しい」という感情や想像力は経験によって生まれてくるものだと思うんですが、そもそもその経験が積み重なっていない可能性がある人たちが、さらにあそびから遠くなっていないかなと。環境やハードの存在で、何かを変えるきっかけになるかもしれない。障がいの有無だけでなく、福祉施設や刑務所など社会から見えづらくなっている領域をあそびで溶かしていきたいと思っています。



(T): その視点は、私たちが目指す「プレイアトラクタ」の世界観と重なっていますね。

(H): ええ。刑務所の話も、今関わっている公園のプロジェクトにも重なりを感じています。行政からはよく「ここに遊具が欲しい」とオーダーがありますが、それだけじゃない視点が必要だと思っていたので、ジャクエツの皆さんに出会えたことでより深まりました。



(A):「プレイアトラクタ」は、単なる遊び場の居心地の良さにとどまらず、まちづくりなどにも適応しうる概念だと思っています。現代社会のさまざまな分断をときほぐしていくキーワードにもなれる。今すでに、船などの移動空間や、本屋、病院などへ「あそび」を持ち込むプロジェクトが動き始めていて、冊子に書いた絵が現実になりつつあることに面白さを感じています。



(H):いいですね。僕にとってジャクエツの皆さんは同志だと思っています。建築家たちと公園を作るときでも、ここで培った視点を持ちながら議論していきたいです。それと、「PLAY ATTRACTOR」という冊子はきっかけにすぎず、ジャクエツさんとはこれからもっといろんなことを一緒にやっていけるんじゃないかなと思っています。

 



プレイアトラクタとは、あそびが人と人の境界をやわらかく溶かした状態——。それは1つの大きなビジョンであり、多様な当事者と共に社会のあらゆるシーンにあそびの魔法を届ける挑戦です。あらゆる境界を解きほぐしあそび心地が響き合う社会へ、原田さんとジャクエツの歩みは続いていきます。
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