2026年で10周年を迎えるPLAY DESIGN LAB(PDL)。あそびの可能性を探り、多様な領域の方々と試行錯誤を重ねながら、新たなあそびの構想や地域社会の課題解決を目指している。2026年7月3日、JAKUETS TOKYO MATSUBARAにて開催された「PLAY DESIGN LAB SESSION 2026」では、これまでの研究活動やあそび場の実績の展示に加え、来場された方々の歓談スペースを用意。そして、2つのトークセッションを実施した。この記事では、当日の様子とトークセッションの内容をダイジェストでお届けする。
あそびを通した共遊空間づくりを目指して
2階の受付を抜けるとまず目に飛び込んできたのが、美しい花の写真が前面にあしらわれた屋内遊具だ。これは写真家である蜷川実花さんとのコラボレーション遊具で、アートパネルとすべり台を融合した新しい試みとなっている。そのほかにも、ジャクエツを代表する遊具「Bブロック」や、グッドデザイン金賞を受賞した「RESILIENCE PLAYGROUNDプロジェクト」の遊具模型などが展示されており、来場者は思い思いに鑑賞していた。
3階に上がると、歓談スペースでもあるフード・ドリンクコーナーが用意されていた。新鮮な海鮮を使ったお寿司や地酒など、ジャクエツ本社がある福井の食文化を感じられる食事を楽しめる空間となっていた。
4階は共遊空間の事例を展示。ジャクエツやPDLのあそび場実績の展示だけでなく、「あそびが文化をつくる」参加型企画もあった。これは幼稚園、小学校、中学・高校、現在の4軸で、その時々にはまっていたあそびを付箋に記入し、年代ごとに貼り付けるというものだ。同年代の来場者が記入したあそびに懐かしさを覚えたり、異なる年代で流行ったあそびに学びを得たりと、好奇心がくすぐられる企画となっていた。
続いて5階では、あそび創出工場「JAKUETSU PLAYFUL CAMPUS」や福井県各地に広がるあそび場の事例が展示されていた。写真やテキストで分かりやすく紹介されており、他の地域でも大いに参考になる事例であった。6階はスタッフ滞在用ホテルの内覧スペースとなっており、新しいオフィスの可能性が感じられた。
JAKUETS TOKYO MATSUBARAの全てのフロアを活用した展示の数々は、あそびや地域社会の未来を考える上で、非常に参考になるものばかりであった。それでは、7階で開催された2つのトークセッションの内容をダイジェストでお届けしよう
『奇跡のまち』奈義町の新たな挑戦
少子化が加速する日本において、合計特殊出生率2.95という驚異の数値を達成した岡山県奈義町。豊かな自然に囲まれる人口5,100人の小さな町だが、高校生までの医療費や予防接種費用、給食費を無償化するなど、様々な取り組みを実施する子育てしやすい地域として注目を集めている。
トークショーに登壇したのは、奈義町長の奥正親さんと岡山県出身のアーティスト・平子雄一さん。地域が誇る「奈義町現代美術館」で平子さんの作品を展示したことをきっかけに、二人は出会ったという。
「奈義町の人口を維持するための取り組みとして、地域の価値を上げるような“町の自慢”になるものを作りたいと考えていました。美術館で平子さんの作品を楽しみながら鑑賞する町民の姿に感動し、ぜひ一緒に何か取り組みたいと思いお声がけしました」(奥町長)
子育て支援だけでは、どこの街も平準化していく。少子高齢化が進む日本の中で奈義町が生き残るためには、「ここに住んでよかった」と思ってもらう必要がある。そのためにも、まちづくりにアートを取り入れることが重要だと奥町長は考えたのだ。
そこで着目したのが、かつて奈義町の二代目町長が使用していた空き家と4.5ヘクタールの広大な土地だった。木造の古民家を改修し、家の中や広場に平子さんの作品を置き、そこが市民や観光客の憩いの場になる。身近にアートがあふれる町となり、移住や定住を希望する人が増えていく。これが、奥町長の狙うところだ。平子さんは奥町長の思いを受けて、早速「アートの森」プロジェクトを開始した。建築家の周防貴之さんと山田裕貴さんとタッグを組み、今までにないアートなエリアを生み出す挑戦が始まった。
「ただ作品を置くだけでなく、そこに訪れてアートに触れることで、新しい思考や行動につなげてもらいたいんです。余白があるからこそ価値を高められるような、ここでしか体験できない空間を作り上げたいと考えています」(平子さん)
アートは子どもたちに良い影響を及ぼすと、二人は考えている。奥町長は「あそびやアートは人生を豊かにするもの。子育て世代の若者や子どもたちに奈義町を選び、住んでもらうエネルギーになるはずです」と語る。
平子さんは、AIやロボットがさらに進化した未来のあり方を見据えている。これまでの蓄積から答えを導くAIが浸透すると、人間が新しい答えを生み出さなくなってしまう恐れがある。そのような時代にこそ、アートやあそびが重要になると語る。
「アートやあそびの“余白”は思考を促します。社会システムが大きく変化するであろう将来に対応できる人材を増やすためにも、アートやあそびは不可欠です。今の若者はモノよりも体験に価値を感じる傾向があります。多様な体験ができる“アートの森”が完成し、そこに住んでみたいという人が増え、キラキラと輝く町民に憧れてその輪が広がっていく……というのが、私が見据えるゴールです」(平子さん)
町を守り、100年後にも価値あるものを創造するための挑戦は、まだ始まったばかりだ。
パークナイズとはなにか~公園化するまちづくり
続いての講演は、オープン・エー代表取締役であり建築家の馬場正尊さんと、UMA/design farm 代表のデザイナー・原田祐馬さんによる「パークナイズとはなにか」。
「パークナイズ」とは馬場さんによる造語で、公園を動詞化したものだ。通常、都市の中に公園があるものだが、都市自体が公園化している状態をイメージするためにこの言葉が生み出された。馬場さんが代表を務めるオープン・エーは、様々な場所の公園化に挑戦してきた。
まず事例としてあげられたのが、佐賀県立図書館の公園化だ。元々図書館の前に公園があったが、普段は誰も歩いていないという状況。そこで、図書館の一階と公園をデッキでつなぎ、遊具や噴水といった子どものあそび場を設置して、公園で本を読めるようにしたところ、人々の憩いの場として賑わうようになったのだ。その様子を見て、図書館側が事務所を開放し、子どもたちが自由にあそべるように改装。図書館の中に公園が入り込み、パークナイズで街の風景が一変した。
団地の公園化にも成功した。元々鉄道会社の社宅だった建物をリノベーションし、駐車場部分を芝生の公園にして、1階に店舗のテナントを迎え入れた。取り壊される予定だったものの「高円寺アパート」として生まれ変わったこの団地は、今では街の名所として多くの人が集うようになった。
20世紀はガラスとコンクリートで埋め尽くそうとした時代だったが、次の時代は、植物や人、生命で土地を再構築していくのだろうと馬場さんは考える。また、人口減少が加速し人々の賑わいが生まれづらくなることで、所有ではなく共有、競争ではなく共創の価値が高まっていくことを予測している。また、仕事の価値観も変化するはずだと語った。
「19世紀の仕事はlaborと呼ばれていましたが、その仕事は機械に代替されました。20世紀の仕事はworkですが、AIによって置き換わろうとしています。AIが普及する21世紀の人間に残されているのは、夢中になってあそぶことではないでしょうか。それが、働くこと自体になっていくのではと考えており、workはplayになっていくのかもしれません」(馬場さん)
デザイナーの原田さんもパークナイズに挑戦している。大分県福祉会のリブランディングに携わった際、福祉の現場で働いているスタッフ全員にヒアリングしたという。すると、「福祉の対象になっている高齢者や子ども、障がい者は支えられるが、制度からはみ出した人はなかなか支援できない。そういった人々が集える場所があれば」という意見が沸き上がった。
そこで、様々な事情を抱える子どもたちが気軽に足を運び、あそべる空間を施設の周囲に作ることに。その際、大分県福祉会が運営する保育園と都市公園をつなぎ、自由に行き来できるようにしたいと考えた。しかし、その間には駐車場があり、その周りは頑丈なフェンスで覆われていた。
「駐車場のフェンスを取り払ってもらうため、都市公園の愛護会と交渉を始めました。保育士の方が愛護会に入会し、公園の運営をサポートすると伝えたところ、フェンスを取ってもらえたのです。そして、公園と保育園が回遊できるようになり、様々な子どもたちで賑わうようになりました」(原田さん)
これからのまちづくりは「当事者」がキーワードになると二人は語る。20世紀までは計画、作る、使うという順番だったが、現代は使う人が構想し、計画に還元していく流れになっている。地域の人々をはじめとする関係者を当事者に巻き込み、様々な専門性を持つ人々とディスカッションする。仕事や役割の領域が溶け出すプロセスは、あそびにも通じるところがある。21世紀は、あそぶ(play)ように仕事やまちづくりに取り組むことが大切になっていくのだろう。
こうして「PLAY DESIGN LAB SESSION 2026」は幕を閉じた。あそびを軸にした、プレイフルなまちづくりや空間づくりのヒントになれば幸いだ。