パブリックアートであり、遊具である「BUTTAI」の示した果てしない可能性。小畑多丘さんインタビュー

August 30th, 2023
小畑 多丘
彫刻家
彫刻家として活動する小畑多丘氏とのコラボレーションにより、遊具「BUTTAI」が誕生した。今回アート作品がそのまま遊具となったが、「BUTTAI」とはいったいどのようにして生まれてきたのか。「BUTTAI」の製作を監修した小畑多丘氏にお話をうかがった。

 

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ミニマルに落とし込まれたB-BOY哲学


 

-もともとアート作品として誕生したものが遊具になるのは「BUTTAI」が初めてだそうです。「BUTTAI」はどういった作品なのですか?


学生の頃から自分が作ってきた人体彫刻(B-BOY彫刻)とは対照的な抽象彫刻を作りたいと考えていて、それをかたちにしたのが「BUTTAI」です。人体彫刻の靴紐(ファットシューレース)のラインや服(ファスナーやダウンジャケット)のラインなど、過去に自分が作った彫刻の好きなマチエルを組み合わせて制作しました。見ていただくとわかるのですが、上下左右がなく、どう置かれても成立する数学的な形になっています。縦横に並べることもできれば、積み上げることもできる。複雑に組み建てていってもカチッとバランスを取れる軸がどこかにあって、正位置のないブロックのような作品になっています。

 

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-小畑さんは、ブレイクダンスというテーマの中で多岐にわたる表現をされています。「BUTTAI」とダンスはどのように接続しているのでしょうか。


「BUTTAI」を制作した最初の段階では、人体彫刻作品と並べて置いたら〈物体/人体〉というコントラストが効いて面白い作品になるんじゃないかなと考えていました。でもその構想をしているうちに、2つの彫刻を「置く」という表現方法だと、対照的になる部分は〈物体〉か〈人体〉かという表面的な部分だけになってしまうことに気がつきました。つまり、地面に置かれているという意味では等しい存在だということです。そこで、重力が前提として存在する人体彫刻に対比させて、無重力の「BUTTAI」という位置付けにしました。「BUTTAI」を無重力の作品として捉え直すにあたり、できるだけシンプルな方法での表現をと思案した結果が、2013年の写真作品です。「BUTTAI」を上に向かって放って、ちょうど落ちてくる瞬間を捉えた作品です。重力のある地球でいちばん無重力に近い瞬間だと感じ、写真におさめました。

この「無重力」というコンセプトは、僕のダンス経験が根底にあると思います。ダンス自体が質量の移動ですからね。例えば、ブレイクダンスには動いてる中でパチッと止まる「フリーズ」と呼ばれるポーズがあります。このポーズの面白さは、〈静〉と〈動〉がダンスの中に共存しているところ。そういった質量の移動に対する感性が、ダンスのかっこよさの根底にあると思うんです。自分の表現には何よりダンスがまず先にあるので。そうした意味で、「BUTTAI」は結果的にダンスの文脈に回収されている作品になったと思います。

 

 

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空間デザインとしての遊具

 

-新たに遊具として生まれ変わった「BUTTAI」をご覧になってどう思われましたか?


見た目という意味では、今回素材がFRP(繊維強化プラスチック)になったことで思わず触ってみたくなるような仕上がりになりましたね。ツルツルしていて面が反射するので、かげろうのように空間が「BUTTAI」の面に映り込んでくるのが面白いなと思います。

「BUTTAI」はひとつの彫刻でありながら、上下左右がないことで、置き方次第で面白さが変わります。足が引っかかりやすくなったり、引っかかりづらくなったり。それによって登りやすさも異なってきますし、光と影の入り方も違ってきます。遊びながらそういうことを感覚的に感じてもらえたらいいんじゃないかなと思っています。

イサム・ノグチさんが手掛けられた遊具じゃないですけど、「遊べるパブリックアート」としてとても良い作品になったと思います。この上に子どもたちが登ったり、寝てみたり、あるいは2体の「BUTTAI」の間に立ってただ話をするだけでもいい。「BUTTAI」に触れる人にとっても、その周辺にいる人にとっても、遠くからみている人にとっても、面白いものになってくれたらいいなと思います。その結果、その光景がひとつのアートになるといいですね。

 

 

- 遊具「BUTTAI」のポイントのひとつとして、二対であることがあげられるかと思います。二対であることで生まれる関係性や緊張感、面白さについて教えてください。


2体以上あると設置の仕方の幅が広がり、それによってこの遊具の見え方や捉え方の可能性も広がります。これは1体だけでは探求できないことです。一見すると同じように見える「BUTTAI」ですが、その中にある突起の向きや影の落ち方といった違いが複数個並ぶことでより感じられやすくなると思います。1つよりも2つになることで、子どもたちの好奇心をぐんとかき立ててくれるものになるんじゃないかなと思います。

 

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-「BUTTAI」を前にした子どもたちを実際にご覧になって何か新しい発見はありましたか。


興味深かったのは、「BUTTAI」の置き方を変えると遊び方がどんどん変わっていったことですね。2体の「BUTTAI」を近くに配置すると子どもたちが一緒に遊び、遠くに配置すると今度は子どもたちが走り回りだしたんです。

それは自分にとって新しい発見でもありながら、同時に彫刻が本来持っている面白さでもあると再確認できました。絵画は面で表現するので鑑賞者が基本的には動かないアートですよね。それに対し、彫刻は立体なので鑑賞者を動かすアートです。つまり、作品の置き方によって鑑賞者の動きが変わってくる。だから「BUTTAI」という遊具に関しては、空間をデザインするつもりでその都度配置を決めるのも良いなと思いました。

 

 

「BUTTAI」に込めた想い


 

-小畑さんにとって「あそび」とはなんでしょうか。


「あそび」って、何か考えるものだと思っています。僕が子どもだったころなんかは外で遊ぶのが基本だったので、何をしてもいい「外」という場所で、何を見つけて「あそび」にするかが重要だったんです。例えば僕が小学生の頃、登下校のときに石を蹴って遊んでいました。ちょうどいいサイズと形の石を自分で見つけて、それを目的地まで蹴り続ける。同じ石をずっと蹴っていけるかどうかみたいな「あそび」です。30分ぐらいかかる登下校の間にできる「あそび」を自分で考えたわけですよね。だから僕は、子どもにはいつでもどこでも「あそび」を見出す力が備わってるんじゃないかなと思っています。

 

-「BUTTAI」が置かれた空間で、どんな「あそび」が生まれるのか楽しみです。


そうですね。例えばブランコってもう遊び方が決まってるじゃないですか。でも結局それだけじゃ子どもは飽きちゃって、立ち漕ぎしてみたり色々と遊び方の実験をする。基本のルールから自分たちで新たなルールを見出して、みんな遊んでるわけですよ。僕はそれがすごくかっこいいし、面白いなと思っています。

「BUTTAI」も、勝手に遊びを見つけてくれという気持ちでいます。砂場が近くにあったら、泥団子でもつくってこの溝を埋めて面にしてしまうような子どもがいてもいいと思うんですよ。自分で何か発見して、考えて、「あそび」を見出していく。そういった力が「BUTTAI」で遊ぶ中で自然と育まれていったら嬉しいですね。

 

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