「プレイ・デザイン」のアフォーダンスを明らかにする

July 29th, 2017
佐々木 正人
多摩美術大学 教授
深澤 直人
プロダクトデザイナー / 多摩美術大学 教授

モノと人の行為の関係を観る


深澤直人氏のデザインする遊具「プレイ・デザイン」は、従来にはない抽象度の高いかたちをしている。環境の中に置かれたその姿は、例えばステップを登ってスロープを滑り降りる滑り台や、可愛らしくかたどられたリスやウサギにまたがりゆらゆらするスプリング遊具のように、長く親しまれてきたこれまでの遊具の分かりやすいかたちとは大きく異なる。

「プレイ・デザイン」のかたちには、デザインとは「人とモノと環境の関係」を指し、人には「意識せずにものや環境と自然に調和しようとする機能が備わっている」とする深澤さんのデザイン思想が込められている(過去記事→「深澤直人が考える『こども環境』とは」)。

 

では、環境の中に置かれたこの不思議な物体と子どもたちは、はたしてどのような関係を持ち得るのだろうか。かたちが子どもたちの遊び方をある程度規定する滑り台やスプリング遊具とは違い、「プレイ・デザイン」に触れ、遊ぶ方法には、自由度や多様性があり、開かれた可能性がありそうだ。だがそれは、単純には説明できそうもない。
そこでPLAY DESIGN LABでは、東京大学大学院 教育学研究科 教授(調査実施当時。現在は多摩美術大学 美術学部 統合デザイン学科 教授)の佐々木正人氏を中心とした専門調査チームの皆さんに、この遊具と子どもたちとの関係をより明らかにするための分析をお願いすることにした。

 
専門調査チームメンバー(左から、青山氏、山﨑氏、西尾氏、山本氏)

 

佐々木氏は、教育認知科学の分野で、知識の成立に身体、物、場所がどのように関わるのかを、フィールドでの観察を重視して研究し、そこから、発達や教育をサポートする環境のデザインのヒントを得ようとしている。日本におけるアフォーダンス研究の第一人者としても知られる存在だ。今回は、「プレイ・デザインのアフォーダンスを明らかにする」をテーマに、「キューブ」「オモチ」「バンリ」「ドーナツ」の4つの遊具について、生態心理学を専門とする調査チームが、子どもたちの実際に遊ぶ様子を詳細に観察し、記録した画像をもとに分析を行った。

 

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佐々木氏によれば、「アフォーダンス(affordance)」とは、知覚心理学者ジェームズ・ギブソンが、英語の動詞「アフォード(afford 与える、備える)」から造語した生態心理学用語で、「環境が動物に、備え、与えている意味」を表すという。

例えば「ヒモ」は、(髪を)束ねる、(帽子が風に飛ばないように)二つを付着させる、(犬を)繋ぎとめるなどのアフォーダンス事例が挙げられる。しかし、どのモノを取り上げてもそのアフォーダンス事例をすべて挙げることはできない。アフォーダンスには、すでに社会でふつうに使われている意味もあればこれから発見されるかもしれない意味もあり、その性質ゆえに、行為に多様性(柔軟性)を与えていると佐々木氏は述べている。

そしてモノの意味、つまりアフォーダンスを知るためには、人がモノと関わる中で行為の多様性が現れる場面をつぶさに観察し、記録する必要があり、そこに、新しいアフォーダンスをデザインする仕事とそれ(デザインされたモノのアフォーダンス)を行為から明らかにする生態心理学との接点があるとしている。

 

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観察のための観点


今回の観察の観点として、個々の遊具を見るときに、「一個のまとまり」としてのみならず、「面のレイアウトが多数複合する場所」として見るという方法が採られた。「面のレイアウト」として観察する方法は、W・ギブソンが『生態学的視覚論』(1979)の中で、意味に満ちた環境を知るための単位(生態幾何学的単位)として示したもので、以下がそこで示された面のレイアウトの一部であって、今回の観点として参照された。

 

● 地面(ground):平均すれば重力に垂直な面。他のすべての面の基準。

● 囲い(enclosure):媒質(空気)を部分的に取り囲む面。

● 遊離物(detached object):媒質で完全に囲まれた面のレイアウト。面はすべて外向。動く物と動かない物がある。遊離モノは面の連続性を破ることなく動かすことができる。

● 付着物(attached object):媒質によって完全には囲まれていない。付着物は他の面と物質で連続している凸面体である。

● 部分的囲い(partial enclosure):媒質を部分的に囲むレイアウト。凹面体であり、洞窟や 穴は隠れ家になる。

● 場所(place):場所はより広い場所に包み込まれている。場所には明確な境界はない。

● 空洞な物(hallow object):外からはモノで、内からは囲い。面の一部が外向きで、一部が内向き。カタツムリの殻や仮小屋。

● 裂け目(fissure):面全体の大きさに比べて小さな二つの平行する面が媒質を囲っている ところ。硬い面には裂け目、亀裂がある。

● 二面角(dihedral):二つの平らな面の接合部。幾何学的平面の交差と混同してはならない。物質を囲む凸状の二面角は縁 edge。媒質を囲む凹状の二面角は隅 corner。

● 物質を囲む曲がった面(curved convexity)。

● 媒質を囲む曲がった面(curved concavity)。

 

さらに、「プレイ・デザイン」は、複数の子どもたちが一緒になって場を共有し、交流するための行為を探索する特徴も持つことから、一人遊びを見るだけでなく、集合的観点も加えられた。フィールド・ワークでは、こうした観点によって、「それぞれの遊具の周辺で起こること」が観察され、分析が行われた。

 

では、今回の観察と分析からどのような行為(遊び)が見えてきたのだろうか。対象となった4つの遊具で観察された“起こること”を、イラストを中心にして紹介しよう。

 

観察された“遊具の周辺で起こること”

 → BANRI(バンリ)

 → CUBE(キューブ)

 → DONUT(ドーナツ)