観察+分析 遊具の周辺で起こること [BANRI(バンリ)]

July 29th, 2017
青山 慶
松蔭大学 専任講師
佐々木 正人
多摩美術大学 教授
深澤直人氏のデザインによる遊具「バンリ」。この名前は万里の長城にちなんでつけられた。勾配のある壁と回路からなるこの物体は、子どもたちにどんな遊びをもたらすのだろうか。佐々木 正人氏と調査プロジェクトチームの青山 慶氏が、バンリに12の観察ポイントを設け、分析を試みた。

 

<調査プロジェクト総括補佐/バンリ担当 青山 慶>

博士(学際情報学)。専門は発達心理学、生態心理学。東京大学在籍中は佐々木正人研究室にて、発達のシステム論的転回に関する理論研究、母子による積み木遊びの縦断的観察を通してコミュニケーションシステムの発達の分析を行った。

 

観察のまとめ


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●バンリは、小さな場所が入れ子になっている。

●連続的に変化する傾きと段差の組み合わせによって、バンリの中の場所は連続的でありながら、行為にとってすべて異なる意味をもつ。

●緩やかな場所では複数の行為が複合し、多様で激しい動きが生じ、険しい場所では慎重な探索と溜めのある動きが生じる。

●バンリで遊ぶことは、小さな場所から場所へと移動しながら周回することを基本とする。

●バンリでのコミュニケーションは、意味の異なる場所に居るもの同士のものである。

 

 

12の観察ポイントとこどもたちの遊び


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① 敷居:軽々とまたげる低い段差。バンリ第一の出入り口。

→越え方には豊富なバリエーションが見られた。多様な越え方が遊びとなる。

 

② 壁のくぼみ:第二の出入り口。

→壁の上は平坦で立ちやすく、飛び降りるのが人気。くぼみの床からの出入りは難しい。

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③ 高い壁:最も高い壁で上面が鋭く切り立っている。

→注意深く覗き込むなど、こどもの動作には長めの「溜」が見られ、うまく乗り越えられるいくと誇らしげにする者もいた。

 

④やや高い壁:上面が少し切り立っている。

→簡単には出入りできない高さの壁。接近しながらも直前で回避して別の出入り口を利用する動きなど、中途半端な高さへの調整がある。

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⑤谷:最も低い部分。

→滑りの終点で、人や砂が溜まる。滑る場合も走る場合もここで速度が落ち、数人で回っていると渋滞が生じる。

 

⑥急勾配:最も険しい勾配。

→通過を楽しみ、長居はしない。滑る子どもと登る子どもが出会って交渉が生じることもある。

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⑦頂上:回路の中で最も高い場所。

→水平面がないため、内側の壁を手がかり足がかりにして留まるという楽しみ方を生んでいる。

 

⑧小高い緩勾配

→急な勾配を登り、ここで一休み。安定した姿勢で周囲を見回したり、乱れた身だしなみもここで整えられる。

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⑨並勾配:2番目に急な勾配。

→上や下から勢いをつけて外に飛び出すことができる。寝転がったり座ったりも。お尻がはまると立つのに苦労する。

 

⑩内壁:真ん中の壁。

→上面が平らなところに立てば、バランスをとりながら周囲を見渡せる。内壁の上から落下して「たて穴」に入ることも。

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⑪たて穴:中心部の穴。

→周囲を見回す、もたれかかって内壁を叩く、落ち着いて座るなど。限られたスペースをめぐって後から来た子どもが先に居た子どもに押し合いを挑むことも。

 

⑫12 周辺

→叩く、蹴る、カーブをなぞりながら歩くなど、バンリに触れようとする。 外壁は背をあずけて休んだり、バレエのバーのように使うことも。

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青山氏のコメント


この遊具は名前の通り万里の長城のような形状をしていますが、子どもが実際に使う様子を見て、思った以上に勾配があることが分かりました。周辺、外壁、内壁の勾配の中間地点などで、子どもたちは“気になる行動”を起こします。そのポイントに○をつけていくと、12カ所もありました。

子どもたちは円形の勾配をただ通過するだけではなく、ちょっと留まる淀みがある。そんな場所で子どもたちが起こす行為には発見があります。外壁、内壁は明確なボーダーラインですが、これだけではなく行為の区切れ目となるような場所があります。例えば小高い平面は、子どもたちが寝そべったり座ったりするだけでなく、立って周囲を見渡したり、駆け込んだり、外に飛び出したりする“行為の分岐点”になったりもします。

 

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一見なだらかにつながっている表面の中に、そうした“気になる行動を起こす場所”がある。つまり明確にかたちが分かれている部分以外にも、目には見えないラインによって区切られた小さな場所がいくつも埋まっていて同じ面のレイアウトがない。それがバンリらしさなのだと感じました。バンリの中をぐるぐる回りながら遊ぶということは、この見えない場所を発見し、次々とそれに出会っていく楽しみなのだと思います。

 

それから、この遊具の中にデザインされた0〜90度の角度は、すごく作り込まれたものだと思います。例えば、最も高いエッジの切り立った部分を通り越す子どもは少なく、「やばいぞ」と思ってとどまる子が多いのは、エッジの切り込ませ方(角度)によって子どもたちが実際以上の高さを感じるからでしょう。考え込まれ、作り込まれた場所を持つ遊具だと感じます。

 

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