2023年11月26日にオープンした文化・子育て複合施設「おにクル」。ホールや図書館、子育て支援拠点、市民活動センター、屋内あそび場の「まちなかの森 もっくる」など、さまざまな機能が集まった、まちの新たなランドマークです。施設の名称は、一般公募から市内に住む当時6歳のお子さんの案を採用したもので、「怖い鬼さんも楽しそうで来たくなっちゃうところ」という意味が込められています。施設の開館から1年。 200万人が来館した「おにクル」のこれまでの取り組みと未来の展望について、市長の福岡洋一さんにお聞きしました。
茨木市長の福岡洋一氏
おにクルができるまで
「おにクル」は、まちの真ん中に建っていますが、すぐ近くには市役所や公園、グラウンドもあり、もともと市民会館が建っていたりと、このエリアではこれまでに多くの催事・イベントがおこなわれてきました。そのためか、市民には「ここは人が集まる場所」という認識が既に根付いていたようで、おにクルの活気はあらかじめ備わっていた場のエネルギーを「見える化」したものだと考えています。
道路を挟んだおにクルの向かい側、市民会館の跡地にある「IBALAB@広場(イバラボ広場)」では、おにクルの開館前から、市民のみなさまとともに「場」を育てる社会実験に取り組んできました。ここでは、市民主体のプログラムが年間250回もおこなわれ、たくさんのプレイヤーが活躍する中でクリエイティブな活動も生まれました。例えば、盆踊りを進化させた「盆ダンス」では、櫓にミラーボールがぶら下がっていて、DJがかける音楽で、地域や世代を越えた数百人もの人が楽しく踊りました。これは、仕掛けや組み合わせを工夫することで、昔からあるものから新たな魅力が生まれたという例ですが、チャレンジできる「場」があれば催事の運営者もさまざまなことを実施してくださいます。IBALAB@広場を経て開館したおにクルは、茨木のまちの「実験場」「共創の中心地」であり、整備プロセスの段階から、市民のみなさまと多くのWSを行って施設について一緒に考えてきました。かつて、この近くには茨木城があったこともありまして、私は「おにクルは令和の茨木城。城主はみなさんです」と言っているんです。
まちをつなげる、立体的な公園
まちづくりの視点でお話しをすると、「まちの真ん中」にみんながいつでも来られる場所をつくりたいという狙いがありました。市内の2つの主要駅、JR茨木駅と阪急茨木市駅の間は1.5キロほど離れていますが、人が無理なく歩ける距離は800メートルまでと言われているように、両駅周辺はそれぞれが別の圏域になっていました。おにクルはちょうどその中間地点にありますので、両駅をつなぐ存在として、中心である市街地の活性化に結び付けられればいいなと考えています。
設計コンセプトの1つ「立体的な公園」のとおり、おにクルは芝生広場と各階テラスにある植栽の緑が繋がっていたり、館内各所にベンチがあったりと、建物に屋外の要素が外との一体感や居心地の良さをもたらしていると思います。1階には子どもたちのあそび場である「まちなかの森もっくる」があり、おにクルの顔になっています。入ってすぐに木が見えて、子どもたちの楽しい声や姿が光景として耳や目に入ってきます。もっくるの空間デザインでは、茨木市の豊かな自然を再現しており、公園再整備で出た伐採樹木を自然のままの姿をできるだけ活かして遊具にアップサイクルしています。利用者の皆さまには「循環」という大きな意味合いも伝えたいですし、そうした温かみの感じられる空間そのものが「木育」になっているのではないでしょうか。
多くの世代が交じり合う効果
1階にもっくる、2階にはこども支援センターがあるため、平日は多くの子育て世帯に訪れていただいています。シニア世代の方々もカフェや図書館などで過ごされていますが、夕方からは中高生や大学生など学生のみなさんが予想以上に多いです。彼らは主に自習をされますが、「学び」というものは単に机上の勉強だけではありませんので、それ以外にも興味を持っていただけることや大切な出会いが広がることをもっと演出していきたいですね。また、おにクルは大人が若者に背中を見せる場所でもあると考えていまして、大人たちが各ライフステージの在り方や茨木市での生活を楽しみ、幸せに暮らしているという姿を見せる場所なのかもしれません。
「おにクル」には子育て世帯がたくさん来館されており、子どものいる風景が当たり前になっています。学生が自習している横を子どもたちが走り回ったり、元気な声も聞こえてきたりするんです。学生たちは、親子が安心して楽しくすごしている光景を日常の中で見ることによって、「子を産み育てる」ということを身近に感じることができ、「結婚」や「子育て」への心理的ハードルを下げることにつながるのではないかと思います。どの自治体も少子化対策にさまざまな取組を進めていますが、多くの世代が交じり合い、子どものいる風景を当たり前なものとして受け入れる場所「おにクル」は、間接的ではありますが効果的な少子化対策になっていると私は考えています。
大人気「もっくる」の魅力
もっくるについても、想像を超える多くの方に利用していただいており、ありがたいことにたいへん人気の施設となっています。開館1年を迎え、現在までに10万人近くの方が利用され、リピート率も5割を超えています。市民の方のみならず、市外の方からも多くご利用いただいており、利用にあたっての新規登録もいまだに毎月約2,000件増え続け、施設の魅力が広く知れわたり、多くの方に認識していただけているようです。
このような人気の要因として、まずひとつには木をふんだんに使った空間や遊具のユニークさ、楽しさであると思っています。そして、それらを最大限に活かしつつ、安心して楽しんでいただけるよう活動しているスタッフの対応を評価するお声もたくさんいただいております。安全への配慮はありながら、子どもたちのチャレンジを見守る声掛けや姿勢に好評の声を多くいただいており、これまで大きなトラブルもなく運営できていることはとてもうれしいことです。
おにクルの「日常」と「非日常」
おにクルに来られたみなさんは、多様な過ごし方、使い方をしてくださいます。壁が少ないおにクルは館内外でさまざまな景色を見ることができますし、置かれている椅子も本当にたくさん種類があるので、お気に入りの場所を見つけている人も少なくないと思います。催事やイベントがない日でも多くの人が訪れてくださっているように、日常がうまく運用できているのは嬉しいことです。
おにクルは、多様な企画を展開する「非日常」を感じていただく場でもありますが、これまでに異なる活動やジャンルの掛け合わせによる企画、おにクルという建築物を活かした企画を実施してきました。例えば、「おにクルファミリーキャンプ」は、「おにクルに泊まってみたい!」という市民意見を実現した企画ですが、おにクルの各施設を活かして参加者に楽しんでいただけるプログラムを実施したほか、もっくるや図書館など館内20か所にキャンプサイトを設けて泊まっていただきました。お盆に実施したにも関わらず、定員の7倍以上のご応募をいただき、参加者からは毎年開催してほしいといった嬉しいご意見を頂戴しています。
おにクルは「実験場」であり、さまざまな機能が溶け合う施設なので、「非日常」の展開についても、無限の可能性を秘めていると考えています。
自己実現できる場所をまちの中に
おにクルをつくり上げていくプロセスの中で、たくさんの方がまちに新施設ができることを自分事として捉えて、設計や活動などをテーマにしたさまざまな取組みに参加してくださいました。運営についても、検討に検討を重ねた結果、市直営と指定管理が混在していますが、ここにも、館内が有機的に連携し運営するための工夫を凝らしています。これらを踏まえると、おにクルと同じような機能が入った複合施設や似たような造りの建物はできるかもしれませんが、「おにクル」そのものを真似するのは簡単ではないと考えています。
エントランスなどの共用空間も活動場所となり、日々多彩な活動が展開されているおにクルには、常に新たな発見や出会いがあります。そのため、市民のみなさまには、単にサービスを受ける場所としてだけではなく、「楽しそう」「やってみたい」をきっかけに自分の能力や価値をいつでも試すことができる場所としてもご利用いただき、豊かさや幸せにつながる「自己実現」を図っていただきたいです。
「おにクル」のこれから
おにクルは、「文化・子育て複合施設」として、文化や子育ての分野を中心に、さまざまな機能が共創することでさらなるイノベーションが起こってくることを期待しています。子育て分野については、1階のもっくるを入口に、M2階の一時保育室、2階のこども支援センターと繋がって、妊娠から出産・子育てまで寄り添って支援する体制が整いました。今後は、その体制をさらに強化・拡充して、子育てでつながる共創のまちづくりを進めていきたいです。
そして、文化の面でも、取組をさらに進めていきたいです。
例えば、美術作家のヤノベケンジさんに1階の「オープンギャラリー」でさまざまな展示などをしていただきましたが、今後はアート面でももっとさまざまな仕掛けをしていきたいですね。そのような非日常的なものや価値観に身近に触れていただきながら「自分もこんなことがやりたい」ということに至ってゆけばありがたいですね。開催してよかったものでいいますと、「おにも見にクルアート展」がありました。市内各所でおこなわれていた、障がいの有無に関係なく制作された個性あふれる作品の展示を、複数の主催者が連携することで一堂に会しておこなったのです。そうしましたら、本当にたくさんの方々に見ていただけるようになりました。偶然そこで作品を見た方にもよい体験になったのではないでしょうか。
茨木市では、「おにクル」や「もっくる」が起点となってさまざまな新しいことがはじまっています。これからも「あそび」の感覚や「創造力・想像性」などの感性的な豊かさなどもたくさん育み続けていってほしいと思います。
茨木市文化・子育て複合施設 おにクル
茨木市市民会館の跡地活用として、「育てる広場」をキーコンセプトに整備された複合施設。2023年11月26日オープン。さまざまな機能が複合されており、多くの市民が会議やワークショップなどに参加しながら整備された。
所在地:大阪府茨木市駅前三丁目9番45号
建築面積:4,328.83平米
延床面積:19,715.22平米
芝生広場面積:3,913.6平米
構造:鉄骨コンクリート造(一部鉄骨造)
階数 :地上7階
高さ :42.78メートル
屋内こども広場 まちなかの森 もっくる
おにクルの1階に位置し、雨の日でも「外あそび」ができる屋内あそび場。
コンセプトは「まちなかの森」。茨木市の豊かな自然を再現した空間は、木の香りやぬくもり、大地のエネルギーを感じることができ、乳幼児期から身近に木に触れ“創る”、“触れる”、“感じる”などの様々な体験を通して、子どもたちの豊かな感性を育む。