アートは見るためだけのものじゃない さわって、使って、体験できる身近なアートを届けたい / 松本セイジ氏インタビュー

August 30th, 2025
松本 セイジ
アーティスト
ニューヨーク生まれのキャラクター「ねずみのANDY」の作者である、アーティスト・松本セイジさん。現在は長野県の山麓にアトリエを構え、国内外で幅広く活動中だ。「好きなものを好きと言える自由」を大切にする松本さんに、アートと遊びの関係性、そして子どもたちにとってのアートの意味について伺った。

 

絵を描くことも運動も大好きだった子ども時代


—松本さんのアーティストとしての原点について教えてください。

松本:私は、大阪の職人の家で生まれました。祖父は植木屋、もう一方の祖父は左官屋、祖母は仕立ての仕事と、まさに「ものづくり家系」だったと思います。

—幼少の頃から絵を描くのが好きだったのですか。

松本:絵を描くのは幼稚園の頃から好きで、コンクールで賞ももらっていました。でも絵だけ夢中で描いていたわけではなくて、スポーツクラブにも参加して、活発な子どもでした。

家ではウサギや鳥など動物を飼っていて、虫取りも大好きでした。生き物が身近にいる子ども時代を送っていましたね。

—大学では版画を専攻されたそうですね。卒業後はどうされたのですか。

松本:はい、大学では動物や植物をモチーフにした作品を作っていました。卒業後は子ども服のデザイナーになりました。かわいいものを描くのも好きだったので、自分に合っていると思いました。

そのあとは、父の後継になるために植木屋として働きました。でも、やっぱり絵を描くことを諦めきれなくて。東京に出て、デザイナーの道へ進みました。ゲームやWebサイトのデザインをしたり、イラストを描いたり、ディレクションをしたりしていましたね。



 

自由とは、好きなものを好きと言えること


—「ねずみのANDY」が誕生したきっかけを教えてください。

松本:転機となったのは2016年のニューヨーク移住でした。絵を展示させてもらえる場所を探していたとき、グランドセントラル駅近くのカフェでの展示が決まりました。

なにを展示しようか悩んでいたら、地下鉄の駅でねずみに遭遇したんです。都会の地下をねずみが人知れず歩いている——その姿が、アウェーのニューヨークで一歩を踏み出そうとしている自分と重なりました。これが「ねずみのANDY」誕生の瞬間でした。

—ニューヨークでの暮らしが、作品に影響しているということですか?

松本:そうですね。ニューヨークは多様な人種が集まる場所です。当時住んでいたエリアは特に多様で、コインランドリーのテレビではスペイン語が流れ、ルームシェアしていた相手もコロンビア人でした。英語を話さない人も多かったんです。

出身もばらばらで、ルールや常識も人の数だけある。私自身も日本から右も左もわからない状態で行って、現地の常識も知らない。そんな人たちが集まる場所では、そもそも「常識」なんてないんだなって。みんな一緒じゃなくていいんだと感じました。

—そんな体験がANDYのデザインにも反映されている、と。

松本:はい。ねずみといえばしっぽですが、ANDYにはしっぽはありません。他の人と違ってもいいんだよ、というメッセージです。

また「ANDYはチーズがあれば幸せ」という設定には、社会への不満や不安があったとしても、まずは目の前にある楽しみを大事にしてほしいという願いを込められています。自由とは、『好きなものを好きと言える』ことだと思うからです。



 

自由に想像してもらえるように作品に敢えて少しだけ余白を残す


—現在は長野県で活動されていますが、移住のきっかけはなんだったのでしょうか。

松本:ニューヨークから帰国後は、しばらくは東京で活動していました。善光寺の参道沿いにあるコーヒースタンドで個展をした際、長野を案内してもらって。そのときに「いつかこういう場所で絵を描いて暮らせたら」と思ったんです。

長野県に移住したのは2021年。東京では仕事が中心でしたが、ここでは草刈りや雪かき、畑仕事もあります。季節の移り変わりをダイレクトに感じられて、「生きているなあ」と実感します。

—そんな中でジャクエツとの出会いがあったのですね。

松本:最初の依頼は、ジャクエツさんのシンボル「いぬはりこ」のキャラクターデザインでした。もともと子ども向けの作品に興味があったので、遊具を作っている会社からご依頼をいただけてうれしかったですね。

—その後、遊具開発のお話に発展したそうですが。

松本:はい。いぬはりこのキャラクターデザインを手がけた後、新たに「遊具の共同開発」のご提案をいただいたんです。これまでにない挑戦でしたが、とても興味深いお話でした。

—遊具開発において、松本さんが大切にされた考え方はありますか?

松本:制作で大切にしているのは「説明しすぎないこと」です。作品には敢えて余白を残し、見る人が自分なりのストーリーを反映してほしいという哲学があります。この想いをジャクエツさんと相談しながら、遊具という新たな形にしていくことになりました。



 

子どももおとなもいっしょに楽しめる作品を


—遊具「CHEESE HOUSE」「WITH ANDY」のコンセプトについて教えてください。

松本:大きなポイントは、子どもたちがアートと自然にふれ合えることです。アートというと、見るだけ、ふれてはいけないものとして捉えられがちです。でも私の個展では、子どもたちは作品にさわるんですよね。そういった場面を見て、ああ、やっぱり子どもはさわりたいんだな、と感じていました。なので今回の遊具は、「小さい子たちがアートにさわって楽しめること」を大事にして作ったんです。

—そうして完成したのが「CHEESE HOUSE」「WITH ANDY」なのですね。それぞれの特徴を教えてください。

松本:「CHEESE HOUSE」は、遊具の中に私の作品が飾られているという特徴があります。アートを実際にさわって、使って、体験できる。アートをより身近に感じてほしいという想いを詰め込みました。

「WITH ANDY」は、私の作品の特徴である「なにかを持っているポーズ」が立体化されています。ANDYが子どもたちと一緒に遊び、一緒になにかを持ち上げているイメージで作りました。

—今回の遊具の一番の魅力はどこにあるとお考えでしょうか。

松本:子どもだけでなく、おとなも一緒に楽しめる点です。子どもがチーズハウスの中に入ってANDYと一緒に覗いて、おとなが写真撮って、みんな楽しめる……というような楽しみ方もしてもらえるかなと期待しています。

やっぱり、作ったものを喜んでもらえるとすごくうれしいんですよね。この遊具も、子どもたちが存分にさわって楽しんでくれることを願っています。

 

日常にアートがある環境を目指して


—今後の展望について教えてください。

松本:ANDYワールドができたらいいなと思います。今は2つの遊具ですが、もっと増えれば世界観がより固まってきて、そこがANDYの家になる。見る方にもより一層楽しんでもらえるのではないでしょうか。

—最後に。松本さんは、「アート」は人々にとってどんな存在であってほしいですか?

松本:美術館に行かなくても、日常の中で自然にアートにふれ、感性を育める環境を作りたい——「CHEESE HOUSE」「WITH ANDY」は、そんな私の願いを形にしたものです。

ニューヨークは壁画が日本より多く、手書きで壁面に広告などを描いたものがたくさんありました。日常にアートがある、身近にアートがある空間づくり。そういうのを日本でも実現したいと思っています。

「好きなものを好きと言える自由」を大切にする想いが込められたこの遊具で、子どもたちものびのびと自分らしさを表現してもらえたらうれしいです。

 
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