深澤直人氏のデザインする「プレイ・デザイン」シリーズの「キューブ」。この立方体の遊具には、階段や斜面、トンネルが含まれていて、それらが壁で仕切られているため見通しが効かない。そんな視界を阻むかたちこそが、子どもの遊び心を刺激するようだ。専門調査チームの山本尚樹氏が、この遊具の効果を、全体と部分の特徴から分析した。
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<専門調査チーム キューブ担当 山本 尚樹>
博士(教育学)。専門は発達心理学(特に運動発達)、生態心理学。東京大学在籍中は佐々木正人研究室にて、乳児が寝返りをするようになるまでの発達過程や成人の寝返りに見られる個人差について研究した。
全体・部分の特徴と子どもたちの遊び
<全体の形状がもつ特徴>
キューブには複雑な“遮蔽の関係”があり、そこで生じることを一挙に見渡せない。子どもはそうした遮蔽の関係を使ってさまざまな遊びを展開する。
①トンネル状の開口部:
→開口部は向こうを見ることができる一方で、身を隠す場所にもなり、さらに、身を隠しながら移動する抜け道にもなる。
②斜面:
→開口部の向こうを見ることができ、壁などで身を隠しながら見ることもできる。
③踊り場(階段の最上部):
→階段や斜面の向こうを見渡せる一方で、壁面を使って身を隠す場所にもなる。
④直行する二つの面:
→ある方向から見ると、見える面と見えない面が生まれる。そのために互いの見えない場所で、並行して別の遊びが始まることがある。
<各部分とそれらの隣接がもたらす遊び>
階段、踊り場、斜面といったキューブの各部分は、座る、上る、ぶら下がるなどのさまざまな遊びをもたらす。また、各部分の隣接が新たな遊びにつながっている。
⑤階段と斜面の隣接:
→子ども二人がもみ合いながら、階段から斜面へと駆け抜けていく(追いかけっこの通路になっている)。
⑥斜面と後部壁面の隣接:
→斜面を走って上り、勢いよく後部壁面に手をつく。
⑦階段と後部壁面、開口部の隣接:
→段差と開口部の角、後部壁面を使って姿勢をとる。
観察のまとめ
●子どもたちはキューブの複雑な遮蔽関係を使い、追いかけっこをしたり身を隠したりして遊びに膨らみを持たせていた。
●キューブの各部分は子どもにさまざまな遊びをもたらすが、それらの部分が隣接することで遊びの幅がさらに広がる。
キューブを観察する研究チーム
山本氏のコメント
「キューブ」は、各部分がなめらかにつながる
「バンリ」とはちがって、それぞれ異なる“かたちの性質”を持つ部分と部分がきっぱりと分かれた形状をしており、このことが遮蔽の関係を生み出しています。
そのために、居る場所によって見えるところと見えないところが生まれ、ある場所からは壁に隠れて向こうが見えなかったり、階段で上がっていかなければ斜面が見えなかったりします。例えば、追いかけっこをすると、視野から隠れたり現れたりするという遮蔽の関係が際立ってきますが、その関係を使いながら子どもたちは遊んでいると感じます。
それぞれ異なる“かたちの性質”をもつ各部分での遊びを観察すると、一つの部分がさまざまな遊びをもたらしていました。例えば「斜面」は、小さな子どもは滑り台として使い、大きな子どもはそこを走り抜けて別の遊具に跳んでいくのに使ったり、開口部のトンネルの曲面に身をあずけて休むのに使ったりしていました。また、部分と部分が隣接するところでは、子どもたちは「抜け道的にそっちへ行こう」などといろいろな通路を発見していたようでした。
「ただの壁」も面白い遊びをもたらしていましたね。それは、その壁が、「踊り場」や「階段」など他の部分と接しているからだと気づきました。壁の脇に居る子どもは、踊り場の上で“立つと向こうが見える”ことで遊んだり、複数で壁に手を当てて押し合いをしたり。壁の上に手をかけて斜面をかけ上がる子どももいて、結構アクロバティックな遊び方も多く見られました。
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