「アートと街がつながる、オノマトペの屋上」
2017年4月、「アートとデザインをつなぐ世界で初めての美術館」をうたう富山県美術館がオープンしました。オープンから9か月足らずで来場者が100万人を上回るほど盛況なこの美術館の中でも、ひときわユニークな人気スポットが「オノマトペの屋上」です。屋上にはその名の通り あれあれ、うとうと、ぐるぐる などといった、オノマトペをテーマにした遊具を設置しています。この空間をデザインしたのは、グラフィックデザイナーの 佐藤卓氏。誰でも自由に出入りできる屋上に、見渡す立山連峰の美しい山並みを楽しみながら、あそびでもありアートでもある遊具で遊べる「オノマトペの屋上」は、魅力的な空間の要素が掛け合わされた贅沢なあそび空間となっています。
1979年東京藝術大学デザイン科卒業、1981年同大学院修了。 株式会社電通を経て、1984年佐藤卓デザイン事務所(現TSDO)設立。 「ロッテ キシリトールガム」や「明治おいしい牛乳」などの商品デザインをはじめ、広くシンボルマークやグラフィックデザインを手掛ける。また、NHK Eテレ「にほんごであそぼ」アートディレクター、「デザインあ」の総合指導、21_21 DESIGN SIGHTディレクターおよび館長を務めるなど多岐にわたって活動。著書に、『クジラは潮を吹いていた。』(DNPアートコミュニケーションズ)、『塑する思考』(新潮社)など。
Images
Production story
BACKGROUND
1981年開館の富山県立近代美術館は美術愛好家からは人気な一方、県民とのつながりは少ない美術館でした。2013年耐震性の課題をきっかけに富岩運河環水公園への移転計画がスタート。建築家が 内藤廣氏 に決定し、屋上に庭園をする方向で動き出しました。屋上遊具のデザインはグラフィックデザイナーの 佐藤卓氏。 PLAY DESIGN LAB は遊具づくりのパートナーとして佐藤卓氏にご指名いただき、遊具製作を行いました。“雪の重みに耐える”“大人が2人で遊んでもいい”“飽きられないもの”など製作ポイントは山のようにありましたが、試行錯誤を繰り返し、何度も修正を重ねながら2017年、富山県美術館開館ととともにお披露目されました。
INSIGHT
「子どものあそびとアートの関わり」
場所が美術館ですから、もちろん室内にはアートやワークショップのスペースが計画されていて、そのうえで屋上は子どもたちが遊べる場所にしたいということを伺っていました。それで考えたときに、「あぁ、そうか。子どもたちっていうのは勉強も遊びも、いろんなことに基本的には境目がないんだな」っていうことに改めて気づいたんです。そもそもそういうものを分けるのは大人であって、子どもにとっては全て「生きる」っていうことなんですよね。遊びも勉強になるし、勉強だって遊んでいるようにできたら最高ですよね。 「オノマトペの屋上」というアプローチに気づいたところから“全てが混ざっている場所”という考え方に辿り着いていきました。オノマトペの屋上は、遊びでもあり、なんだかアートのようなものでもある。そして、あそびや学びとしての言葉もそこにある。大自然と一体の景色が見える中で、ありとあらゆるものがそこで混ざり合ってる。そういうイメージが自分の頭の中で結びついていきました。自分の意識の中にあったいろんなものが、子ども、という境目のない存在を対象としたことで、隔たりなく繋がっていきました。
佐藤卓氏 インタビュー記事より
SOLUTION
オノマトペの屋上ができたことで、美術館なのに毎日のように通う小学生の姿が見られたり、ベビーカーで来館される方も多く、親子連れや若者の来場者も多くみられるようになりました。それにより学芸員が望んだ以上に、多世代にわたるさまざまな人が混ざり合う居場所ができました。
HOW IT WORKS
「オノマトペの屋上」は誰でも無料で利用できます。学校帰りの小学生、ごろごろしにくる大学生、幼稚園児のお散歩コースにもなっています。地元の人にとってアートは暮らしの一部になり、アートファンにとっては、わざわざ行きたくなる場所になりました。ここではぱたぱたと走り回る子どもたちの横で、美術愛好家たちが熱心に作品を鑑賞している姿も見られます。静かな展示室で、のびのびと振る舞う子どもたちへのクレームもありません。あそびとアートが掛け合わさった空間だからこそ、特別な美術館になっています。
DATA
「オノマトペの屋上」
所在地:富山県富山市
設置年:2017年
延床面積:約3,800㎡
クライアント:富山県美術館
アートディレクション:佐藤卓(TSDO)
遊具製作:ジャクエツ