「ごちゃまぜ」で社会をより良くするための視点/Share金沢施設長・清水愛美さんインタビュー

May 31st, 2024
PLAY DESIGN LAB
プレイデザインラボ 事務局


高齢者や子ども、大学生、障がいのある人など、分け隔てなく誰もがつながり、ともに暮らす街「Share金沢」。その中の年齢も障がいの有無も全く異なる、多様性にあふれた子どもたちが集う施設に、大型木製遊具を中心とした新たな遊び場が完成した。遊び場に込めた思いや個性豊かな子どもたちが「ごちゃまぜ」になって思いっきり遊ぶ意義、そして「ごちゃまぜ」で社会をより良くするための視点とは。Share金沢施設長の清水愛美さんに話を伺った。

 

 

多様性あふれる子どもたちが、思いっきり遊べる場

 



 

―Share金沢に、新たな子どもの遊び場となる木製遊具の広場が完成しました。今回、遊び場を作ることになった経緯を教えてください。

 

清水:まず大前提として、私たちは子どもが育つ場に必要なものは3つあると考えています。一つ目は美味しいものを食べること。二つ目は思いっきり遊ぶこと。そして最後は、将来を考えることです。今までは室内遊びが中心で、ごみ袋や段ボールなどを使い自分たちでおもちゃを作り遊んだり、外に出かけて体を動かしたりしていました。しかし、思いっきり遊ぶための環境の乏しさが否めなかったのです。施設ができた際に遊具を作ることを想定した中庭を用意していたので、そこを活用し、もっとたくさん遊べる環境を整えたいと思ったのがきっかけでした。

 

―どのような遊び場にしたいという思いを込められたのでしょうか?

 

清水:とにかく好きなだけ、好きなように体を動かせる環境にしたいと考えました。大型遊具で子どもたちが遊ぶ姿を観察していると、不安定なところを歩いたり、段差を登ったり、ジャンプしたりと、色んな体の動かし方があるなと思ったのです。また、Share金沢の子どもたちを佛子園の行善寺に連れて行き遊ぶこともあるのですが、じゃぶじゃぶ池のポンプでずっと遊んだり、三輪車で園庭を駆けまわったりと、思い思いにめいっぱい遊ぶ姿にいつも驚かされます。その姿を見ると、こういった遊び方ができる環境を用意すべきだなと改めて思いましたね。

 




 

―Share金沢には様々な属性の子どもたちがいます。そういった多様性にあふれた子どもたちが混ざり合う遊び場を作る上で、配慮されたことはありましたか?

 

清水:保育園児から18歳までの、体つきも障がいや個性も全く違う子どもたちが思いっきり遊ぶためにはどうすべきか。遊び場の目指す姿を議論するために、当施設のスタッフやPLAY DESIGN LABの遊具デザイナーの方々とワークショップを実施しました。そこでは子どもたち一人ひとりが遊ぶ姿をイメージして、どのような環境があればいいか、議論しながら絞り込みをかけていきました。危険性など想定しきれない部分に関しては、遊具デザイナーの皆さんからアドバイスをいただきました。年齢や身体能力が異なる子どもたち一人ひとりが、心地いい居場所を見つけてほしいという願いを込めて、少しずつ具体化していきましたね。そして、現時点で全て完成させるのではなく、100年かけて少しずつ育てていくという方針も共有しました。

 


Share金沢スタッフとPDLデザイナーとのワークショップ


 

開放的な遊び場が生んだ、思わぬ副次的効果

 

―最終的に、木製遊具やじゃぶじゃぶ池、砂場、トランポリン、音が鳴るベルなど、特徴的な要素にあふれた遊び場となりましたね。

 

清水:子どもたちを思い浮かべながら、こういった要素があればいいなという要素をできる限り洗い出して、遊具デザイナーの皆さんから提案いただいた遊具から譲れないものを絞り込んでいきました。遊具デザイナーの皆さんと接していて勉強になったのは、動線の考え方でした。ただ何となく遊具を配置するのではなく、ゆるやかに先へと誘導していくような動線を設けながら、遊具や築山を配置していくプロの仕事はとても参考になりました。

 

―清水さんが特に譲れなかった要素は何だったのでしょうか?

 

清水:じゃぶじゃぶ池、砂場、トランポリンですね。動的な場と静的な場を両方行き来して、その中で人間はバランスを取っているという感覚があるんです。ですので、どちらの要素も用意したいと考えていました。砂場はおままごとをするだけでなく、ただ砂の感触を楽しむ子どももいます。トランポリンでジャンプすることを、感覚として捉えている子ども多くいます。そういった、感覚的なものは必ず用意したかったのです。

 

―トランポリンを感覚として捉えている、という視点は面白いですね。

 

清水:子どもたちの感覚や発想は自由ですよ。同じ遊具であっても、子どもによって遊び方は様々です。「こうしなければならない」という決まりは一切なく、自由な余白の中で色々な遊びが生まれています。

 



 

―スタッフの方々の遊び場での関わり方は、どのようなスタイルなのでしょうか。

 

清水:Share金沢は子どもたちを自由にさせてあげて、必要があればサポートするというスタイルが基本ですね。実は、遊具ができてから一番人気になった遊びが「鬼ごっこ」なんです。これまではのっぺりとした広場だったので、ただ走り回るだけだったのですが、築山や遊具といった障害物ができ、回遊的な動線もできたことで、より楽しめるようになったんですね。

 

―それは面白い現象ですね。子どもたちの遊びの自由さが伝わってきます。遊具のお披露目式では、子どもたちの反応はいかがでしたか?

 

清水:目の前でずっと工事が繰り広げられていたので、今か今かと待ち続けていた子どもたちの喜びはすさまじかったですね。完成前は園庭の外に子どもが飛び出してしまわないように、外にもスタッフを配置しなければと話していたのですが、実際に遊んでみると皆夢中で外に飛び出す子はいませんでした。また、子ども同士のちょっとした喧嘩やパニックが激減したのも思わぬ副産物でした。室内遊びだけでなく、外でも開放的に遊べる環境ができたことで、子どもたちの心も今まで以上に開かれていったのでしょうか。

 


遊具お披露式の様子(提供画像)


 

―遊ぶということ以外にも、良い影響があったのですね。

 

清水:そうですね。ほかにも、率先してお片付けするようになったのも驚きでした。今回、室内遊び用のおもちゃも新たに購入したのですが、これまでお片付けが苦手だった子も前向きにできるようになったんです。大事に扱いたいという思いが芽生えたのでしょうか。また、障がいの軽い子や重い子、そして入所と通所の児童たちが遊具を通じて一緒に遊ぶ機会も増えました。交わりが加速して、色々な個性を持った子どもたちが関わりながら遊ぶようになり良かったです。

 

―様々な副次的効果が生まれたのですね。議論では子どもたちを遊具づくりに参加させたいという意見があがり、遊具のワークショップが開催されましたね。

 

清水:私たちは子どもたち自身が何かを決めたり、関わったりと、作り手になる機会を大切にしています。遊具のワークショップでは木製チャイムに色を塗ったのですが、その塗り方には個性があふれていました。単色で丁寧に塗ったり、意外な色づかいで思い切りよく塗ったりと、子どもたちのアイディアや個性が表現できて嬉しかったです。

 




木製チャイム色塗りワークショップ



木製チャイムはデッキ下から園庭全体に遊んでいる音が響くようになっている。


 

 

「ごちゃまぜ」が日常になれば、社会はもっと良くなる

 



 

―Share金沢は、インクルーシブという概念が浸透する前から「ごちゃまぜ」の精神を大切に様々な取り組みをされてきました。近年は、行政が公園にインクルーシブデザインが採用されているかチェックするなど、社会は変わりつつあります。今後、さらに社会が良くなっていくためには、どのような視点を持つべきだと思われますか?

 

清水:Share金沢を手がけられた株式会社五井建築研究所の故・西川英治会長は、「公民館が普段からごちゃまぜに使われる場として開放されたら、日本はずいぶん変わるだろう」とお話されていました。公民館は普段鍵やチェーンがかかっていて、寄り合いのある日だけ開放されます。アクセスもよくない場所にあるケースが多く、使われないことが前提になっているようです。西川会長がおっしゃったように、普段から色々な人が寄り集まれる場所ができれば、社会はさらに良くなると思います。

 

―「ごちゃまぜ」が日常になるのが理想なのですね。

 

清水:はい。2024年1月に発生した能登半島地震では、避難所に様々な人が集まりました。震災は人を選ばないので、避難所は自然と「ごちゃまぜ」の環境になるのです。先日、Share金沢にあるペット用品店・NICOLE DOGさんが、ペットの防災セミナーを開催しました。お話によると、避難所ではペットを受け入れていないところが大半ですが、受け入れている避難所もあるとのことでした。ペット受け入れの可否は、避難所の管理者の判断によって決まるそうです。一方で、ペットを飼っている愛好家の皆さんの声を聞いたところ、普段避難訓練にあまり参加していないとのことでした。普段から地域の人々と関わり、ペットを含めた住人理解がなされていないと、いざという時に「やっぱりごめんなさいね」となってしまう。普段からペットを連れて避難訓練にも参加し、地域の人々と関わり関係性を築くことで、快く受け入れられるようになるというお話でした。管理者の思いによって「ごちゃまぜ」が実現するのなら、日ごろから多様な人と関わり交流することが大切だと感じました。

 

 

―興味深いですね。

 

清水:このお話は福祉の世界と同じだと思ったんです。様々な福祉施設が地域に存在しているけれど、その中に誰がいるのかが分からない。地域の人々とのお付き合いを日常化しようというところから「ごちゃまぜ」というあり方がスタートしました。日頃の地域との関わり方によって、人の考え方は変わります。福祉では施設というハードではなく、お付き合いというソフトの方がより重要なのです。Share金沢のように分かりやすい「ごちゃまぜ」の場があれば、色々な人が集いやすくなると思います。当施設の意義はそこにあると考えています。

 

―「ごちゃまぜ」を加速させて、社会をより良くしていくのですね。最後に、Share金沢を今後どのようにしたいか教えてください。

 

清水:子どもたちやスタッフ、利用者の声を聞き、要望を受けながら少しずつ変化を続けていきたいです。使っているうちに「もっとこういった機能があれば」という思いが出てくるはずなので、それに応じて叶えていき、より楽しくめいっぱい遊べる環境にしたいですね。