地域の記憶を継承する園舎へ『千葉さざなみ幼稚園』/2025年グッドデザイン賞受賞

December 27th, 2025
羽田 政幸
学校法人 羽田学園 理事長
青柳 大祐
株式会社ジャクエツ 建築士
開園50周年を迎え、新しい園舎へと生まれ変わった千葉さざなみ幼稚園。地域の文化や風習の記憶を継承する場として幼稚園を捉え、地域にかつて存在した納涼台を想起させる設計を取り入れている。2025年グッドデザイン賞を受賞した千葉さざなみ幼稚園の新園舎はどのような想いで生まれ、どのようなこだわりが詰め込まれたのか。学校法人羽田学園理事長の羽田政幸氏と千葉さざなみ幼稚園の園舎を設計した株式会社ジャクエツの建築士・青柳大祐氏にお話を伺った。



―千葉さざなみ幼稚園の園舎を建替えることになった背景を教えてください。

羽田:当園は1971年に設立し、初期に建てられた園舎に増築や修繕を重ねてきました。しかし、老朽化や耐震強度といった課題があったため、開園50周年事業として建替えることに決めました。

―建替えをジャクエツに依頼した経緯を教えてください。

羽田:ジャクエツさんは創立当初からお付き合いがあり、遊具もメンテナンスしながら長年使用していました。建替え事業は複数社によるコンペを行ったのですが、ジャクエツさんは園舎設計のノウハウが豊富なだけでなく、補助金活用など事業の対策まで踏み込んだ提案をしていただけました。信頼できるパートナーとして、ぜひこの事業に協力していただきたいと思い依頼しました。



―園舎を建替えるにあたり、どのようなことを希望されましたか?

羽田:「海」というテーマを取り入れてほしいと希望しました。当園のある高洲は稲毛海岸の埋め立て地で、地域の歴史について知っている人がほとんどいないという現状があり、建て替えを機に少しでも地域に貢献できないかと思ったためです。また、広い敷地をフルに活用して、明るく地域のランドマークになり得るような園舎にしてほしいともお伝えしました。

―新しい園舎のこだわりを教えてください。

青柳:「記憶の継承」をコンセプトに、新しい園舎には地域の原風景の象徴的な「納涼台」や、これまでの六角形の園舎をモチーフにした「六角デッキ」など地域や園の記憶を様々なところに配置しました。また、天窓から明るい光が差し込む吹き抜けのセンターホールを中心に、その周りに保育室を配置し、分棟で構成された旧園舎の佇まいを踏襲しながら、年齢の異なる子どもたちが自由に交流できる空間を目指しました。センターホールの南側には「さざなみ」をイメージした本棚がある大階段を作り、2階にロ字型の回廊を設置。園内のトラックともいえる空間で、子どもたちが駆け回ることができます。回廊の南側と北側には、全面ガラス張りで街を見渡せる「納涼台」を設け、北側のいなげ納涼台からテラスに出ると桟橋があり、六角デッキから園庭へと繋がる設計としました。



―「海」というテーマはどのように表現しましたか?

青柳:内装は全体的に水色をベースに配色し、床は稲毛海岸の砂浜をイメージしています。回廊の壁はグラデーションで彩り、空や海、朝焼け、夕焼けといった移り行く自然を表現しました。クラスのサインは海をイメージした水色のアクリルプレートで、クラス名は海にちなんだ生き物の名前が付けられています。

―新しい園庭のこだわりを教えてください。

青柳:毎年行っているマラソン大会のコースになるよう、園庭の中央と外周に二重のトラックを設けました。千葉さざなみ幼稚園は、1年を通して様々な行事をされているので、安全かつ快適に子どもたちや保護者の方々が楽しめる園庭を目指しました。園庭と園舎をつなぐ六角デッキにはネット遊具と砂場を設け、遊歩道も園庭の一部となるように計画しました。

羽田:広い園庭で公園のようにのびのびと寝転がってほしいと思い、天然芝を敷いてもらいました。遊具で遊んだり走り回ったりと、子どもたちは思い思いに過ごしてくれています。

―その他のこだわりはありますか?

青柳:分棟型であった旧園舎は棟ごとにメンテナンス費用が掛かってしまうという課題があり、できる限りメンテナンスしやすいよう、ひとつの建物にシンプルな箱を並べていくイメージで元の分棟園舎のよさを残しながら建物を極力すっきりとさせ、明るく広い空間設計にしました。羽田理事長をはじめ、先生方の新園舎に対する熱い思いがあったからこそ、ブレずに提案できたと感じています。



―子どもたちや先生、保護者の方々の反応はいかがでしたか?

羽田:保育室が一つの園舎にまとまったことで縦割り保育がやりやすくなり、年長さんから年少さんまでより活発にコミュニケーションを取れるようになりました。先生たちの移動効率も高まり、評判は上々です。そして何より、天窓から光がさんさんと降り注ぐ明るい空間で、皆がのびのびと過ごせるようになったのが嬉しいですね。

青柳:日が差し込む回廊はぽかぽかとあたたかく、ひなたぼっこしながら絵本を読む子どもたちの姿に癒されました。納涼台から見える自然や街の景色を楽しむために人が集まる様子は、かつてこの地にあった納涼台を思い起こさせるようでした。



―千葉さざなみ幼稚園の新園舎は、2025年のグッドデザイン賞を受賞しました。率直な感想をお聞かせください。

青柳:「はじめの一歩から ひろがるデザイン」という2025年グッドデザイン賞のテーマと、羽田理事長や先生方の想いがリンクしていたからこそ受賞につながったと思います。新園舎のコンセプトを検討する際に羽田理事長から様々なお話を伺い、子どもたちが初めて社会を経験する場所である幼稚園は、地域の文化や風習の記憶を刻む役割も担っていると改めて認識しました。そのため、納涼台があった地域の記憶を継承できるようなデザインを心がけました。受賞にあたってもその点を評価いただけて、きちんと想いが伝わったのだと嬉しくなりました。

羽田:グッドデザイン賞を受賞できたことに感謝の気持ちでいっぱいです。園のホームページにも記載したところ、先生や保護者の方々から「すごいですね!」と嬉しい言葉をたくさんいただけました。元々受賞を目指して建替えたわけではありませんでしたが、結果的に評価いただけたことで、多くの方々に喜んでいただくことができました。



―生まれ変わった千葉さざなみ幼稚園で、子どもたちにどのように成長してもらいたいと思いますか?

羽田:園舎が生まれ変わったことで、あそびや行事といった取り組みの可能性も広がっていくと感じています。どのように園舎を活用していくかを先生や子どもたちと一緒に考えることで脳の活性化につながりますし、子どもたちに良い影響を与えられると思います。当園は昔から縦割り保育を行っており、その取り組みがやりやすくなったのも嬉しいポイントです。年上の子が年下の子に優しく接したり、年下の子が年上の子を敬ったりと、縦の関係ができることで優しい心が根付き、大人になってもその経験が活かされていくと信じています。皆で仲良くする心を育む第一歩の時期を当園で過ごし、互助の精神がある人間へと成長していってほしいと思います。

青柳:千葉さざなみ幼稚園の子どもたちはいつも元気に走り回って、元気よく挨拶をしてくれる子ばかりです。新しい園舎に変わっても、同じように元気よく過ごしている姿を見られて安心しました。今まで以上に様々な年齢の子たちとの距離が近くなった新しい園舎で、子どもたちが自分らしくのびのびと、人とつながりながら思いやりを育み、新しいことに挑戦できるような成長を願っています。



 

園舎概要

学校法⼈ ⽻⽥学園 千葉さざなみ幼稚園

施工地 : 千葉県千葉市美浜区高洲1-1-20

構 造 : 鉄骨造2階建て

敷地面積 : 5031.40 ㎡ / 建築面積 : 1075.72 ㎡ / 延床面積 : 1167.86 ㎡

・グッドデザイン賞2025 受賞ページは こちら

・空間デザイン賞 Shortlist(入賞) 受賞ページは こちら

 

 
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