渋谷区のMIYASHITA PARKの屋上にある宮下公園にて、2025年9月27日・28日に開催された「BON DANCE」。ダンスミュージックと盆踊りを融合させたイベントの一角に、ジャクエツとMAGNETがコラボレーションしたあそび場「ごちゃまぜプレイパーク」が設置された。新しいあそび場はどのようにして生まれ、どのような反響が得られたのか。今回のイベントであそび場の企画・運営に携わった株式会社ジャクエツの東田がファシリテーターとなり、宮下公園の運営に携わる三井不動産株式会社の伊藤茜さんとMAGNETに所属する発明家の高橋鴻介さんにお話を伺った。
イベント中に子どもが安心してあそべる場をつくるために
東田:2020年に渋谷の宮下公園が「MIYASHITA PARK」として新たなカタチで生まれ変わりましたね。
伊藤:MIYASHITA PARKは元々あった渋谷区立宮下公園を、公園・商業施設・ホテル・駐車場が一体となる立体都市公園として再整備した施設です。現在は行政との連携を中心に、地域住民や渋谷区内の企業と協力しながら運営を行っています。
東田:今回の盆踊りとダンスミュージックが融合したイベント「BON DANCE」は、どのような経緯で発足したのでしょうか?
MIYASHITA PARKの再整備に伴い、従来から実施していた盆踊りをより渋谷らしいダンスミュージックと融合させた新たなイベントにしたいという思いから、コロナ禍明けの2023年より「BON DANCE」をスタートしております。
東田:2025年が3回目の「BON DANCE」開催となりましたが、反響はいかがでしたか?
伊藤:反響はとても大きく、年々来場者数が増加しています。子どもから大人まで多くの方にご来場いただいており、回を重ねるごとに公園・商業施設部分の連携を強化し、イベント自体もレベルアップさせてきました。3回目となる今年度は、「子どもが安心して遊べる場所を作りたい」という思いから、ジャクエツさんとMAGNETの高橋さんにお声がけさせていただきました。
東田:高橋さんとジャクエツに声をかけていただいた理由を教えていただけますか?
伊藤:高橋さんは、未来の社会のために挑戦する人物を募集する「三井みらいチャレンジャーズオーディション」の最終通過者になられたことがご縁でお声がけしました。障がい者や外国人など誰もが平等にあそべる場を作る高橋さんの活動が、誰にとっても居心地の良い公園でありたいMIYASHITA PARKのコンセプトにマッチしていたんです。ジャクエツさんとは元々何かコラボをしてみたいと思っており、どんな場所でも柔軟にあそび場をつくってくれる点に期待していました。
東田:高橋さんは現在発明家として活動されていますが、普段はどのような取り組みをされているのでしょうか?
高橋:普段は発明家として、新商品の企画から空間のデザインまで広く携わっていますが、主に人と人のコミュニケーションを活性化するアイデアを考えることが多いです。最近は、新しいあそびをつくるチーム「MAGNET」を共同主宰して、あそびを使って人の関わりを生み出すことをテーマに活動しています。あそびに対して異なる視点を持つ人とともにあそびを生み出すのが私たちの特徴で、例えば視覚障がい者の方と触覚を使ったゲームを作ったり、ろう者の方と視覚言語を使ったあそびを開発したりしています。
東田:あそびの開発の際に心がけていることはありますか?
高橋:異なる感覚世界を持っている彼らと対話しながら、お互いが面白がれるポイントを見つけることです。具体例をあげると、私は視覚で世界を捉えていますが、視覚障がい者の方はそうではありません。しかし、例えば「触るのが楽しい」という感覚は共通しており、そこをヒントにあそびを深めていくようなイメージです。盲ろう者のコラボレーターであるSkyさくらさんと一緒に開発した「たっちまっち」というあそびは、様々なでこぼこ模様の違いを指の感触だけで見つけ、神経衰弱などを楽しめるゲームなのですが、これはさくらさんと一緒に遊べることはもちろん、子どもも大人も同じように楽しめます。異なる感覚世界を持っている人々との対話を通じて共感できるものを発見し、「じゃあ一緒につくろうよ」とプロジェクトを進めていくと、いつの間にか楽しくて、見たことのないあそびが生まれてくるんです。こういった非言語な感覚を扱う領域では、デザインの力でできることは幅広く、言葉だけでは伝えきれないようなことも直感的に伝えられるプロダクトや体験をつくれることが、私たちの強みだと思っています。
シンプルなあそびは子どものクリエイティビティを引き出す
東田:今回のイベントでは、サンドコート(砂場)をあそび場として活用したいという依頼でした。誰もが楽しめるあそび場にしたいという思いで、タイトルは「ごちゃまぜプレイパーク」に決定し、出展内容は高橋さんと何度もディスカッションをして、砂場の新しいあそび「SAND FISHING」などを企画したり、MAGNETが開発した、手すりを使った遊具「TOUCH PARK」をアップデートしたりしていきました。
高橋:「SAND FISHING」は砂の中に埋まっているサカナのおもちゃを手探りで見つけるあそびなのですが、具体的なルールはほとんど決まっていませんでしたね。
東田:イベント当日は1時間ごとにファシリテーターを入れ替えて運営したのですが、ファシリテーターによってあそび方やルールが変わり、子どもたちの反応も様々だったのが面白かったですね。
高橋:シンプルだからこそ、それぞれがあそび方を考える余白があるんですね。それがあそびの一番面白いところなのだと思います。ルールが徐々に変化し、形になっていき、子どもたち自身のあそびになっていく様子が見られたのが嬉しかったです。最低限のルールだけにして、子どもたちのポジティブなクリエイティビティを引き出してくれたジャクエツさんには感謝しています。
東田:ありがとうございます。私たちとしても、高橋さんの発明したコンテンツに必要以上の要素は加えなくていいと考えていました。MAGNETが開発した「TOUCH PARK」はパイプを使い、触覚を頼りにゴールを目指す迷路型遊具でしたが、その基本形を最大限に活かしながら足元にジャクエツの遊具を加えて、足元の触覚も用いた迷路としました。
高橋:ジャクエツさんの「砂場の障害物走」も子どもたちに人気でしたね。
東田:兄弟や友だちと競い合う子どももいれば、一人で何度も挑戦する子もいました。ゴールテープを用意したので、何度もあそんで達成感を味わえたのかもしれません。
高橋:最初は走っていても、途中から競い合うことをやめて、障害物をどう攻略するかゆっくり考えてあそぶ子もいましたね。砂場はフレキシブルな環境だからこそ、私たちのあそびを補助線にして、新しいあそびをどんどん考えてくれていたように思います。子どもたちが想像力を爆発させてあそぶ様子を見て、場のあり方としても今後の参考になるなと感じました。
伊藤:砂場という難しい場所を素晴らしいあそび場にしてくださったので、素晴らしいクリエイティビティだなと感動しました。あれだけ砂場が盛り上がるのは、開業以来初めてだったんです。これまで砂場でイベントをする際は、歩きやすいように鉄板を敷いていました。今回は砂場の特徴を活かして企画くださったことに、社内からも「すごい」という声が多数上がりました。
あそびの可能性を信じて挑戦を続ける
東田:過去2回の「BON DANCE」に比べて、今回の反響はいかがでしたか?
伊藤:過去最高の盛り上がりで、2日間で昨年の1.2倍となる1.8万人の来場がありました。あそび場のおかげで、夜の盆踊りの時間帯だけでなく、日中の人の流れが増えました。子どもから大人まで誰もが楽しめる夏祭りイベントになったと感じています。
高橋:海外の方もたくさん来場していましたよね。あそび場にも海外の子どもが来てくれたのですが、言葉は通じないけど皆の様子を見ながら一緒にあそんでいました。障がいのある子どももあそびに来てくれましたし、「ごちゃまぜプレイパーク」というコンセプトを体現できたと思います。
東田:たまたま宮下公園にあそびに来た方が、砂場の景色を見て引き寄せられるようにあそびに参加するケースも多かったですね。ジャクエツでは「みんなが引き寄せられるあそびの力」として「プレイアトラクタ(PLAY ATTRACTOR)」という言葉を掲げているのですが、まさにこれを体現できたイベントになったと思います。高橋さんは今後どのような取り組みをされていく予定ですか?
高橋:最近は大人のあそびの開発に挑戦しています。子どもをあそび場に連れてきて、大人は遠くで見守るのではなく、子どもと一緒についあそんでしまうような場をつくりたいんです。そうすることで大人と子どものコミュニケーションが増えますし、子どもも親以外の大人と触れ合う機会が生まれます。自分の世界を広げられる出会いが、あそびを通じて増えていくといいなと考えています。
東田:最後に、お二人にとっての「あそび」とは何かお聞かせください。
伊藤:あそびは人と人をつなぎ、心を解放できるものだと思います。今回のイベントでは、子どもが自由に発想して、新たな視点を教えてくれましたが、これはあそびだからこそ得られるものなのかなと感じました。現在、MIYASHITA PARKは施設のメディア化に取り組んでおり、館内にデジタルサイネージやイベントスペースを新設し、多様な人・文化を表現できる場所となっています。あそびで生まれる自己表現も、施設としての取り組みに大きな影響を与えると思います。
高橋:あそびは可能性だと思います。様々な社会課題に対して真正面から解決しようとすると、対立してしまうこともありますが、あそびを介するとユーモアや楽しさが緩衝材となってくれます。あそびは人の緊張をほどき、対立しているように感じていたことも、実は同じ方向を向いていたと気づくきっかけになるのではないでしょうか。これからもあそびが良い緩衝材となって、つながりが生まれていく事例を増やしていきたいと思います。