子ども期のしあわせを構成するもの ~幼児のあそびと心理的ウェルビーイング調査~ 中間報告

April 20th, 2026
菅原 ますみ
白百合女子大学 教授
眞榮城 和美
白百合女子大学 教授
PLAY DESIGN LAB
プレイデザインラボ 事務局
近年、注目を集める「ウェルビーイング(Well-being)」は、個人の心身が満たされ、社会的に良好な状態にあることを意味しています(WHO、2021)。ウェルビーイングは、幸福感などの「心理的指標」と、平均寿命や健康状態などの「客観的指標」の両面から測定することが可能です。中でも、「心理的ウェルビーイング(PWB:Psychological Well-Being)」は、人生全般におけるポジティブな心理的機能を意味しています。これが高まることで、抑うつ感や不安感を軽減する効果があると考えられています。


 

子どもにとっての「心理的ウェルビーイング」


子どものPWBは、主に次の2つの要素で構成されていると考えられています。

1.精神的健康度=日々を生き生きと楽しく、笑顔で過ごせていること。

2.自尊感情・自己有能感=自分のすることに自信が持て、自分自身を肯定的に捉えられていること(自分を好きでいられること)。

しかし、子どものPWBの発達に対して、「何」が「どのように」影響を与えるのか、その具体的な点に関する科学的根拠(エビデンス)は未だ十分ではありません。そこで、今回のプロジェクトでは、調査期間を6年間とし、子どもの年齢や発達段階にセンシティブな研究計画を立て、子どもの視点を反映した研究を実施しています。

 

本プロジェクトの全体的なデザイン


〇研究スケジュール

毎年1回(秋頃)、園を通じて各年齢クラスの保護者様宛に研究協力依頼。参加応諾が得られたご家庭に対して下記の調査を実施。調査期間を6年間とし,子どもの年齢や発達段階にセンシティブな研究計画を立て,子どもの視点を反映した研究を実施している。

〇調査内容(各年1回実施)

A.保護者対象調査

物理的環境・養育やQOL・お子さんの様子(日常的な「あそび」体験や気質・性格など)について尋ねる質問項目から構成されたアンケートの実施。

B.子ども(4歳児クラス・5歳児クラス)調査

日々の生活の中での「あそび」に関する質問を中心に,子どもたちが回答しやすいように絵や写真を用いる形式で調査を実施。

C.保育者対象調査

Bに回答した子どもを担当している保育者に対し、子どもの様子(主として「園でのあそび経験」)について尋ねる質問項目から構成されたアンケートの実施。

 

3年間の調査からみえてきたもの


乳幼児期に時間を忘れて「あそびこむ」経験は、子どものPWBを向上させると言われています。そこで今回は、子どもの遊びに注目した調査の一部を報告します。

 

<「冒険的 なあそび(リスキープレイ)」>

本プロジェクトでは、幼児期のPWBに影響を与える要因として、園や家庭での「あそび体験」に注目して調査を実施しています。特に注目しているのが「冒険的なあそび(リスキープレイ)」です。

冒険的なあそび(リスキープレイ)とは、単に危険な行為を指すのではなく、子どもたちが自ら「ハザード(予測不能な危険)」と「リスク(挑戦に伴う危険)」を判断し、行動を選択するプロセスを含むあそびのことを指しています。冒険的なあそびの体験が、子どもの健やかな心理的発達においてどのような役割を果たすのか、本調査を通じて、そのメカニズムを明らかにしていく予定です。

 

※本報告では1.屋外の遊具(滑り台、ブランコなど)を使ったあそびをする=「高所」「高速」あそびのデータを中心に報告

 

【保護者アンケート】

〇屋外の遊具(滑り台, ブランコなど)を使ったあそびをする割合

→ どの年齢群においても週に1~2日以上の割合が高く, とくに2歳児以降では男児・女児ともに屋外でからだを動かすあそび(「高所」「高速」のあそび)を日常的に行っているご家庭が比較的多いことが示されました。



〇調査協力者数:調査開始からの3年間で延べ1000家庭を超える皆様の協力を得ています。



【子どもたちの声】

〇子どもの運動に対する自信

→「自分でブランコをこぐことが上手である」という問いに対して、「すこしはい」「はい」と回答した割合は、4歳児・5歳児ともに7割前後であることから、多くの子どもたちが遊具を使ったダイナミックなあそびに自信を持っている様子がみられました。



 

〇屋外遊具であそぶ頻度と自己有能感との関連

→4歳児・5歳児を対象とした調査から、屋外遊具であそぶ頻度が高い群は低い群よりも自己有能感が高いことから、屋外でからだを動かすあそび(「高所」「高速」のあそび)が子どもの心理的ウェルビーイングに関わる可能性が示されました。





 

本プロジェクトの意義と今後の展望


〇未来への架け橋として

本研究では、家庭環境と園環境の両面から、子どもたちが経験する「冒険的なあそび」「ダイナミックなあそび」の様相と「自分や他者をどのようにとらえているのか」といった視点との関連を通して、子ども期の心理的ウェルビーイングの発達プロセスに迫ることを目指しています。そのため、さらに縦断的なデータを蓄積し、未来の子どもたちを支える確かな知見として発信していく予定です。

 

〇研究メンバーから調査にご協力くださっているみなさまへのメッセージ

皆様のご協力により、乳幼児が日々のあそびを通じてどのように自分の世界を広げ、自信を育んでいるか、その貴重な足跡が見えてきました。後半の3年間では、この芽がどのように社会性へと繋がっていくのかについて明らかにしていく予定です。引き続きご一緒していただけましたら幸いです。

 

 

■研究成果報告状況


子ども期の心理的ウェルビーイングに関わる保育・養育環境に関する縦断的研究(1)-幼児期における自己有能感とあそび環境・就学準備性との関連-日本発達心理学会第35回大会(於:大阪国際交流センター,2024)

子ども期の心理的ウェルビーイングに関わる保育・養育環境‐幼児の自尊感情と運動あそび体験の関連を中心に‐日本子ども学会第20回大会(於:八戸文化幼稚園,2024)

子ども期の心理的ウェルビーイングに関わる保育・養育環境に関する縦断的研究(2)-幼児期におけるあそび経験と自己有能感との関連-日本発達心理学会第36回大会(於:明星大学,2025)

子ども期の心理的ウェルビーイングに関わる保育・養育環境に関する縦断的研究(3)-幼児期におけるASD傾向と養育態度および共感性との関連-日本発達心理学会第36回大会(於:明星大学,2025)

幼児期における園でのあそび体験と心理的ウェルビーイングに関する縦断的検討(4)-冒険的あそび経験と運動に対する自己有能感との関連-日本子ども学会第21回大会(於:秋田大学,2025)

子ども期の心理的ウェルビーイングに関わる保育・養育環境‐“あそび”環境のさらなる重要性・可能性を探る-日本発達心理学会第37回大会 自主シンポジウム(於:福岡国際会議場,2026)

子ども期の心理的ウェルビーイングに関わる保育・養育環境に関する縦断的研究 (5)-幼児期における園適応と向社会性との関連-日本SEL学会第2回大会 (於:白百合女子大学,2026)

日本SEL学会第2回大会ポスター発表にて大会長賞を受賞 https://www.shirayuri.ac.jp/news/2025/002225.html



今後も心理学系の学術会議を中心に,毎年研究成果報告を行っていく予定です。

 

 


脚注


研究グループの紹介

PLAY DESIGN LABは、白百合女子大学と“幼児のあそびと心理的ウェルビーイングに関わる保育・養育環境に関する縦断的研究プロジェクト”をスタートした。

研究グループのメンバーは、白百合女子大学人間総合学部発達心理学科 教授 菅原ますみ、教授 眞榮城和美、白百合女子大学大学院文学研究科発達心理学専攻博士課程に所属し、本プロジェクトの目的に関心を持って研究活動を行っている大学院生により構成されている。

白百合女子大学:東京都調布市にあるカトリック系女子大学。日本で唯一「発達心理学科」を標ぼうし、人間の一生涯の発達に関わる要因についてさまざま観点から学ぶことができる。

※発達心理学科に関する詳細は白百合女子大学のHP参照 https://www.shirayuri.ac.jp/course/human/psychology/index.html

 

本報告データの調査実施時期:2023年7月~2025年10月
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