誰もが自分らしく「ともに生きる」社会の実現を目指して/神奈川県共生推進本部室

July 17th, 2026
神奈川県
福祉子どもみらい局 共生推進本部室 「ともに生きる社会かながわ憲章」 プロジェクトメンバー
神奈川県が掲げる「ともに生きる社会かながわ憲章」は、誰もが自分らしく生きられる社会を目指し制定したものだ。その理念を、より身近なものとして感じてもらうために、神奈川県とPLAY DESIGN LABが連携し、共生社会をあそびの文脈から捉えるための場をひらいた。そこでは、立場や年齢、役割の違いが重なり合うなかで、「ともに生きやすい」という感覚が体験を通じてつながり、少しずつ広がりをみせた。本記事では、福祉子どもみらい局共生推進本部室の大野さん(共生担当課長)、松本さん(グループリーダー)、篠田さん(主査)をお迎えし、「ともいき」プロジェクトのプロセスをたどりながら、共生社会について考えるための視点を探っていく。

 

 

障がい者への差別や偏見を排除するために


―まずは、「ともに生きる社会かながわ憲章(ともいき憲章)」を掲げたきっかけを教えてください。

大野:2016年7月26日に発生した津久井やまゆり園の痛ましい事件をきっかけに、二度とこのような事件が繰り返されないよう誓うため、神奈川県と県議会は「ともいき憲章」を制定しました。日常生活において、重度の障がいを持たれている方と出会う機会は限られているように、もともと障がい者施設は社会に開かれた存在とはいえませんでした。それゆえに差別や偏見が生まれることにつながりかねません。誰もがその人らしく生きられる地域社会の実現を目指すために、神奈川県では障がい者の社会参加を妨げるあらゆる壁や、いかなる偏見や差別も排除することを掲げました。

 


ともに生きる社会かながわ憲章


 

―これまで、「ともいき」を普及するためにどのような取り組みをされてきましたか?

大野:毎年、事件があった日を含めた1週間は「ともに生きる社会かながわ推進週間」として、認知度向上につながるよう、チラシやポスターを使って集中的に発信を行っています。また、誰もが分け隔てなく交流する機会として、ともいき遊園地やインクルーシブビーチクリーンといった普及活動を実施してきました。これらの活動により、福祉への感度が高い層への認知度は高められましたが、依然として約7割の県民が「ともいき」を認知していないという課題があったのです。そこで、理念の認知だけでなく、実体験を通じて「ともいき」を自分ごととして捉えてもらうために、新たにプロジェクトを推進することになりました。

―今回のコラボレーションに至ったきっかけを教えてください。

篠田:あるトークセッションイベントでジャクエツの牧野さんに出会い、ホームページを拝見したところ、私たちが目指す理念にぴったりな組織だと感じて声をかけさせてもらいました。遊具や街づくりといった、あそびを通じた取り組みについて詳しくお話を伺ううちに、フィロソフィーを同じくしているなと実感し、連携して「ともいき」のワークショップを開催できないかと相談したのがきっかけです。


企業や団体と連携しながら、ともいき憲章や共生社会の理念の普及を目指した取り組みを続け、今年で11年目を迎える。


 

アート展を通じて見えてきたこと

―私たちとしても、年齢や境遇を問わず、皆で身体を動かしながらあそびの価値を思い起こし、社会に活かしたいと考えていたので、神奈川県とともに取り組めてよかったです。これまで、2つのイベントでコラボしましたね。

松本:横浜赤レンガ倉庫で開催した「第2回 かながわともいきアート展」と、県庁で行った「ともに生きるってなんだったけ?プレイフルワークショップ」ですね。アート展は、赤レンガ倉庫という観光客にも人気の施設で開催し、公募作品を展示しました。「ともいき」を知らない人にも足を運んでもらうきっかけとなり、9日間で約7,000名の方々にお越しいただきました。そのなかでワークショップを開催し、大人と子どもがごちゃまぜになり、似顔絵をパーツごとに描く「似顔絵リレー」などを実施しました。

篠田:初対面の相手の顔をよく観察して、お話して、リレー形式で協力しあう「似顔絵リレー」は、自然にコミュニケーションが生まれる仕組みがよくできているなと感心しました。

大野:皆で一つの作品を作るうちに、それぞれが溶け込んでいく様子は、まさに「ともいき」を体現しているなと思いましたね。

 


「第2回 かながわともいきアート展」より


 

―ありがとうございます。そのほか、アート展で印象的だった出来事はありましたか?

松本:特別イベントとして全盲の美術鑑賞者・白鳥健二氏とコラボし、目が見えない人と一緒にアートを見るというワークショップを実施しました。それをきっかけに、目が見えない方がこのイベントのことを知って参加してくださり、会場をご案内することになりました。弱視のアーティスト・竹本紗那氏の立体作品「閻魔」の説明の際、「作品の中に血液や筋肉を作り込んでいるそうですよ」と伝えたところ、「もしかしたら、盲学校で按摩を学んだから、筋肉に詳しいのかもしれませんね」と言われました。後に竹本氏に確認したところ、まさにその通りで。目が見えないからこそ、アート作品の見え方も変わるし、私たちにとっても多くの学びを得られるのだと実感した出来事でした。

―それは重要な気づきですね。展示で工夫したことはありましたか?

松本:車椅子の方も鑑賞しやすいように、普通のアート展よりも目線を下げた場所に作品を掲示し、車椅子同士でもすれ違えるよう導線をシンプルにしました。また、美術館は一般的に制約が多い場所で、喋ったり騒いだりすることが禁じられています。障がいを持つ方やそのご家族にとって、このような施設は行きづらいだろうと考え、誰でも使えるビーズクッションを各所に配置して、「喋ってもゴロゴロしても騒いでも大丈夫」な空間づくりを目指しました。

篠田:館内の掲示物も「飲食禁止」というような否定形ではなく、「飲食するならロビーに行きましょう」と、肯定的な表現にするよう意識しましたね。

―「ともいき」を体現する空間になったのですね。最終的に公募は651作品が集まり、138作品が入選しましたね。応募した方の反応はいかがでしたか?

松本:第1回のアート展で受賞した方が再度応募してくれたのですが、2回目の方が作品の規模がとても大きくなっていました。褒められ、認められることが創作意欲を高め、技術を伸ばすことにつながるのだなと思いましたね。

大野:兄弟で応募してくれた子どももいましたね。1回目ではお兄さんが入賞して、2回目では妹さんが入賞したので、兄弟げんかしながらも切磋琢磨していましたよ。

 


作品名:『閻魔』 作者:竹本 紗那
(応募資料より)最初は色とりどりで様々な形の物体を作るところから始まりました。それは何?と聞くと「内臓!」とのこと。しばらくたったある日、赤い画用紙を一生懸命細かく刻んでいました。それは何?と聞くと、「血液!」とのこと。そこで初めて彼女が人体を作ろうとしていることに気づきました。その後骨格を作り、その中に内臓や血液をしまい、肉をつけていきます。せっかく内臓を作ったんだから、見えるようにした方が良いんじゃない?と周りは言いますが、本物の人間は中身見えないから!と、肉と皮膚で中身を見えないようにしました。一番時間をかけて苦労した部分を見せないのは、これまでの制作過程を見ている人からするともったいないと感じてしまいますが、彼女はそれよりもリアルを追求しています。作品タイトルの閻魔の理由は語りませんでしたが、作者の独特な世界観が現れている気がします。手の感覚を頼りに、自分よりも大きな作品を作ります。




 

「ともいき」を実現する鍵は「選択肢」


―ありがとうございます。続いて、「ともに生きるってなんだったけ?プレイフルワークショップ」のお話です。このイベントでは「ともいき」を体現する場を皆でつくることをコンセプトに、お庭をテーマにしたワークショップを開催しましたね。

篠田:もし皆が人間以外の存在になったら、他の皆と一緒に仲良く過ごすためには、どんな仕かけや場があればいいかを問いかけ、様々な素材を使ってお庭づくりをしてもらいました。問いかけに対し、大人はまず頭で考えていたのですが、子どもはすぐに手を動かし始めたのが印象的でした。また、遊具や道具に加え、新たな仲間を工作する参加者が多く、環境とはモノだけでなくヒトも重要な要素なのだと改めて感じましたね。

大野:短時間で新しく何かを生み出すパワーを発揮する様子を目の当たりにして、人間の豊かな想像力の可能性を実感できました。あそび心満載のワークショップを開催いただけたことに感謝しています。このワークショップのように、子どもも大人も一緒になって「ともいき」を体感してもらい、自分ごととして消化してもらうことにつなげていきたいです。

―私たちとして印象的だったのは、車椅子の女の子が参加してくれたことでした。ステージ上の紐に新聞紙をひっかけて場をつくるワークショップがあったのですが、車椅子ではステージに上がれないと思い、急遽ステージ下にも紐を張ったのです。しかし、女の子のお母さんが「ステージの上と下どっちでやりたい?」と聞くと「上でやりたい」と答え、車椅子から下りて手の力で動き回りながらアクティブにワークショップを楽しんでくれて。車椅子の子は元気に動き回れないのでは……という自分のなかの偏見に気づかされ、ハッとしましたね。このような場で色々な人に出会いあそぶことで、気づけることがたくさんあると実感しました。

篠田:まさに「ともいき」ですよね。問いを与えられると、考えすぎてしまうのが大人なのかもしれません。

大野:ステージの上下を選択できるのが大事なのでしょうね。女の子が選択したのは、皆で一緒にあそべるステージ上でしたが、お母さんは危険が少ないステージ下の方がいいと思ったかもしれない。しかし、選択肢があったからこそ、女の子本人の意思を尊重できました。現状は選べる環境が整っていないから、「これしか選べない」となってしまっているケースが多いですが、様々な選択肢を用意してそれぞれが好きなところにたどり着けるのが、「ともいき」の目指すところなのだと思います。

 


「ともに生きるってなんだったっけ?プレイフルワークショップ」より
神奈川県公式PRキャラクター「かながわキンタロウ」も一緒に参加


 


問いかけをアクションにつなげるために


―おっしゃる通りですね。ワークショップのような取り組みを通じて、県民の皆さんに当事者意識を高めていただくため、今後の展開はどのように考えておられますか?

大野:2026年度は、津久井やまゆり園事件から10年の節目の年です。憲章をより広げるために様々な挑戦を行いたいと考えています。やりたいことができる選択肢が存在して、みんなが目標に向かってチャレンジできる状態が共生社会だと思います。障がいの有無に関わらず様々な人がごちゃまぜになる社会ができれば、障がいを障がいと感じない社会になるのではないでしょうか。皆それぞれ違っていいし、認め合う社会の実現を目指して、色々な方法で問いかけていきたいです。

篠田:問いかけをきっかけに、どう行動に結び付けていくかが最大の課題だと思います。ワークショップやホームページ、映像、絵本など、認知を広げて自分ごと化するためのツールを増やしてきているので、試行錯誤しながら行動を促していきたいですね。

松本:横浜で開催される2027年国際園芸博覧会(GREEN×EXPO)も積極的に活用し、「ともいき」の認知度を高めたいと思います。単なる展示で終わらせるのではなく、ワークショップを活用したり、ごちゃまぜであそべる空間を提供したりと、当事者意識を高められる仕掛けを考えていきたいです。

―「ともいき」の実現には決まった答えがあるものではなく、決められていないことをどれだけできるかがが本質になる気がします。次のステップでどのように発展させられるか、あそびを起点に、未来の「ともいき」を一緒に創り出していけたらと思います。本日は貴重なお時間をありがとうございました。

 


神奈川県 福祉子どもみらい局共生推進本部室
左から大野さん(共生担当課長)、松本さん(グループリーダー)、篠田さん(主査) ※取材当時

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