観察+分析 遊具の周辺で起こること [OMOCHI (オモチ) ]

October 10th, 2017
山﨑 寛恵
お茶の水女子大学人間発達教育科学研究所 研究協力員
佐々木 正人
多摩美術大学 教授
深澤直人氏のデザインする「プレイ・デザイン」シリーズの「オモチ」。ボテンと置かれたその姿は、確かに重力を受けてやや平べったくなったあのお餅の姿に通じる。湾曲して豊かに広がる面と、たった三段の階段と小さなスロープ。このミニマムなかたちにこどもたちはどう反応するのか。専門調査チームの山﨑 寛恵氏が観察と分析を試みた。  関連記事:「プレイ・デザイン」のアフォーダンスを明らかにする

 

 

<専門調査チーム オモチ担当 山﨑 寛恵>

お茶の水女子大学人間発達教育科学研究所 研究協力員
博士(教育学)。専門は生態心理学。乳幼児施設の環境変遷を子どもの知覚-行為水準で追うことで場所と発達について研究している。

 

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「丸み」と「凹み」の観察で見えたこどもたちの遊び


<丸み>


オモチの丸み部分は、次第に変化(湾曲)する面でできていて、角のような鋭い縁がない。

 

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①曲面の上部:

→立つ。立てる場所を探す。姿勢の不安定さを楽しむ。

②徐々に急になるカーブ:

→飛ぶ。安定した場所、急なカーブで不安定な場所など、場所によってさまざまな跳躍が生まれる。

 

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③垂直に近づく曲面:

→座る/座る。「平らさ」から「垂直さ」へのつながりは、「座る」から「滑る」への遊びを生む。

④丸みのある広がり:

→沿う。全身でもたれかかるのはこの遊具の特徴の一つ。曲面を使い、立つ/座る以外の姿勢を楽しむ。

→飛びつく。材質はやわらかくないのに、こどもたちは飛びつきたくなるらしい。

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⑤光沢のあるぽってり感:

→叩く/なでる。表面を叩いたりじっとなでたり。確かめているような様子も見られた。

⑥豊かな表面:

→ただ触れる。通りがかりにただ触るのは触情報による経路選択(経路制御)か。

 

 

<凹み/角>


中央の段差とスロープは、独特の丸みをもつ硬くなったオモチを鋭い刃物で切り取ったような部分。
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⑦階段と角:

→昇る・滑る。角を持ち、手で身体を支える。

⑧凹み:

→横断する。曲面の淵に立ち、歩いて凹みを横断して対岸の曲面へ、あるいはジャンプして渡る。

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⑨階段とスロープ:

→縦断する。歩いて上り下りしたり、走りぬけたり、両手で壁を抑えて体を浮かせて縦断したり。

⑩頂上:

→座る。曲面の頂点に座り、凹みに足を出して椅子のようにして座る。

 

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⑪曲面からの角

→角をつかんで身体を支える。ぶら下がる。

⑫凹みからの角

→階段やスロープを登るときにただ触れる。

 

 

観察のまとめ


●オモチでは、立つ、飛びつく、跳躍する、寝そべる、もたれかかる、座る、撫でる、 叩くといったさまざまな行為が生まれる。

●オモチの湾曲面は姿勢の漸次的な変化、すなわち「柔らかで切れ目のない身体の動き」を顕著にし、子どもはそこで、どこまでが立っていられる部分なのか、どこまで身体を斜めにするともたれかかれるのかなど動きの可能性や限界を発見する。こどもたちは自分の身体の可能性、あるいは身体の振れ幅を探索し、知ることができる。

●子どもは自身の身体の変形を通して、遊具に「丸み」や「柔らかさ」を知覚する。

 

 

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山﨑氏のコメント


オモチは、オモチらしい曲面(丸み)と中央の凹みから成りますが、「バンリ」と同様、それぞれの形の特徴が切れ目なくつながっているので、起こり得る行動の境目は明確には分かりません。しかしこどもたちは、使い込むうちにその特徴の切れ目を良く知るようなると感じました。

「このへんだったら立てるかな」とこどもが実際に使うようすを見ていると、こちらも境目が見えてくる、そんな発見がありました。またこの“切れ目のなさ”は、立位や座位のようないわゆる名前のついた姿勢ではない“微妙な姿勢”をもたらします。こどもたちもその“微妙な感じ”が分かり、楽しんでいるように感じられ、面白いと思いました。

もしかしたら誰もが一度は見かけたことのある廃タイヤ遊具は、オモチのもつ「丸み」や「ぽってり感」に近い性質を持っているといえるかもしれません。歩き始め〜幼児期〜児童期にいたるまで、全身での多様な接触が可能で、そこに飛びつく、もたれる、座る、跳躍などさまざまな行為の生起が予想されます。しかしその一方で、オモチのように寝そべったり、複数人がそこに滞在したりするためには、ある程度の大きさも必要となります。

いわゆる形態的物理的な丸みをもつ遊具はありますが、そのようなヒトの姿勢の「変形する丸み」を顕著にするものは、そう多くはないのではないでしょうか。   オモチは1歳児ぐらいから楽しめて、また幅広い人たちに親しまれそうな遊具です。本屋さんの児童書棚のある場所などに置けば、ちょっと触れたり座ったりできるものとしても良さそうです。楽しみが広がりますね。   omochi_lab2

 

 

 

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